“生理の貧困”をなくしたい 私が声を上げるわけ

“生理の貧困”をなくしたい 私が声を上げるわけ
「自分たちの声が聞かれていない感じがした」

彼女は活動を始めたきっかけをそう話しました。
去年、大学を卒業し社会人になったばかりの彼女を突き動かしている原動力は一体、何なのでしょうか。
(ネットワーク報道部記者 吉永なつみ)

生理はないものにされている?

「#みんなの生理」というグループをつくり生理をめぐる問題に取り組んでいる谷口歩実さん。
活動を始めたきっかけは大学4年生だった2年前、消費税が10%に引き上げられたときのある出来事でした。
「#みんなの生理」共同代表 谷口歩実さん
「生理用品が軽減税率(8%)の対象にならないことを知ったんです。ネットで“生理用品やおむつはなぜ除外されたのか”という記事を読んで確かになぜだろうと考え始めました。生理用品はぜいたく品なの?経血を流しながら生活するなんてほぼ不可能なのにと」
大学でジェンダーについて学んでいた谷口さんは、ちょうどそのころ生理をテーマに選び卒業論文を書いていました。
卒論の情報を集めるため友達10人ほどに生理で苦労したことやおかしいと思うことはないか聞いてみると、それまで当たり前だと思って我慢してきた体験が次々に語られました。
友達の体験談と軽減税率、それが頭の中でつながったのです。
谷口さん
「小学校のトイレにサニタリーボックスがなかった、生理のためプールの授業を休んだら成績が下がってしまった。部活中にトイレにゆっくり行くことができず生理用品を交換できなかったと話してくれた子もいました。さらに不便だと感じても、生理に関することは公の場所で口にしてはいけないと多くの子が思い込んでいて、なんとか“普通”の生活を送れるようにそれぞれ工夫していたんです」

「学校生活で“普通”とされる生活は、生理があることが考慮されていない。それに気付いたとき『生理はないものにされている』と感じました。生理用品が軽減税率の対象ではないことは、社会の仕組みが生理があることを前提に作られていない1つの例で、自分の声が聞かれてないと感じました」

幼い頃からあったモヤモヤと憧れの人

「自分の声が聞かれていない」という違和感は、物心ついた時からずっと感じていたものだったそうです。
谷口さん
「女の子なんだから足を閉じて座りなさい。食器洗いしないと将来お嫁にいけないよ。そんな風に幼い頃から女の子はこうあるべきということばを身近な大人から言われるたびにモヤモヤした気持ちを感じていました」

「私の声なしに社会は作られ、勝手に人生を決められて進んでいくんだっていう気持ちがあって。でも強く言い返せませんでした。小さいときは言い返すことばもなかったっていうか、それが普通だと思ったので。いつもへへって笑ってごまかしていました」
そんな谷口さんの考えが変わったのは高校生の時。

ファンだった世界的なポップスターが主張する姿を見た時でした。
谷口さん
「当時テイラーは音楽についてではなく、いろんな人と交際しているというゴシップがすごく話題になっていました。それに対して彼女が『それって性差別的じゃない?』と反撃しているのを見て、おおーって思って。おかしいと思うことはおかしいと言ってもいいんだと。親も今では『おかしいと思うなら声を上げたらいい』と応援してくれています」

生理用品の消費税を軽くしてください!

国にも声を聞いてほしい。

大学4年生の秋、谷口さんはネットで署名を集めることにしました。

タイトルは「生理用品を軽減税率対象にしてください!」
サイトに載せる文章は一気に書き上げました。
「12歳で初潮を迎え、50歳で閉経するまでに毎月5日間生理があると仮定した場合、月経のある人は一生涯で456回、2280日間(およそ6年半)も月経を経験することになります。毎月の生理で使う生理用品代を1000円だとすると、負担は一生涯で『45万円以上』にものぼります」(署名サイトより)
実際には個人差が大きく、ほかにも専用のショーツや痛み止め、低用量ピルなど、生理のケアに必要なものは人によってさまざまです。
文章はこう続きます。
「女性の生涯平均年収が男性の約70%である上に、生理用品の負担がのしかかっている現状では、女性は輝けません(中略)月経の経済的負担を気にせず、生理中も快適に社会に出られることは、より多くの人が社会で活躍する上で必要不可欠です」
思い切って声を上げてみると「モヤモヤとした気持ち」は自分だけのものではないことがわかりました。

それまであいさつを交わす程度だった大学の知人が声をかけてくれ、グループで本格的に活動することになったのです。
谷口さん
「立ち上げ当初のメンバーは3人で『らしさ』を押しつけられることや、社会で声を拾われない状況に対する怒りみたいなものを共有していました。生理を通じて声をあげられない人の気持ちを届けたいという気持ちでつながったんです」
1000人も集まればいいほうだと思っていた署名も、これまでにおよそ4万6000人が賛同し、国や各党に提出しました。

生理用品か朝ごはんか

署名に賛同した人からは、思いがけない経験談も寄せられました。
「節約するために生理用品の上にトイレットペーパーを巻いて使っている」
「親に買ってもらえない」
「夜用1個を一日中使っていて、かゆみと臭いが大変」
生活の困窮や親のネグレクト…さまざまな事情で生理用品を手に入れることができない、いわゆる「生理の貧困」。

海外では社会問題として注目され始めていました。

日本も例外ではないのかもしれない。

国内での実態を調べてみようと、ことし2月、インターネットでアンケートを行いました。
すると経済的な理由で生理用品を買うのに苦労したと答えた人が2割に上ったのです。

谷口さんは祖母から聞いた話を思い出しました。
谷口さん
「80歳ちかい祖母が昔の苦労話をしてくれたときのことです。60年前、地方から上京したばかりの祖母は生活が苦しく、月末になると朝食のジャム入りのパンか生理用品かを選ばなければいけなかったと話してくれたことがありました。現代の日本で、祖母のように生理用品か朝ごはんかで悩まなければいけない人がいることに衝撃を受けました」
アンケートの結果を公表すると、大きな反響が寄せられました。

「使わなくなった生理用品があるから使ってほしい」
「生理用品を買うお金を寄付したい」
国や自治体も動き始めました。

東京・豊島区や足立区、多摩市などは役所の窓口で生理用品の無料配付を始め、国は生理用品の配布などを行う支援団体に交付金を出すことを決めました。
谷口さん
「アンケートにこんなに多くの人が支援の申し出をしてくれるなんて思っていませんでした。こうした気持ちを大切にするためにも、自分たちでも無料配布を始めようと思っています」

「国などの動きも心強い一方で、一時的な対応で終わることを心配しています。生理は1回では終わりません。継続的に生理用品を提供する仕組みができてほしい」

生理をみんなのものに

谷口さん
「私たちが目指しているのは、生理に対するニーズが言いやすく、より快適に過ごせる社会です。今よりも経済的な負担が軽くなり、公共施設や学校などのトイレに生理用品が設置されるのが当たり前になってほしいです」

「こう話すと“女性だけの問題”と思うかもしれませんが、そうではありません。女性も初潮を迎えていない人や摂食障害、病気で生理がない人などさまざまですし、トランスジェンダーで生理がある人もいます」

「でも生理があってもなくても『生理がある人を知らない』という人はいないはずです。必ず自分の身近な誰かが生理を経験しています。だから、どうか自分のこととして1人でも多くの人に考えてほしい。グループの名前『#みんなの生理』にはそんな思いを込めています」
取材を通じて、私(記者)自身がこれまで生理に伴うさまざまな不調を我慢して「ないもの」にしていたことに改めて気付かされました。

それが当たり前で、つらいと言うのは甘えだと思って自分を責めていました。

だからこそ、谷口さんのことばに救われる思いがしました。
谷口さん
「いま社会のあらゆる制度は『毎日元気な人』を前提に作られていると思います。でも現実には、誰でもメンタルヘルスや体調に多かれ少なかれ不調を抱えているはずです。生理に限ったことではありません。『毎日元気じゃない人』が生きやすい社会になるほうがいいと思います」