新年度予算106兆円 使いみちと生活への影響は?

26日の参議院本会議で新年度予算が可決・成立しました。
一般会計の総額で過去最大となる106兆円余りに上る新年度予算のポイントと、私たちの暮らしへの影響をまとめました。

新年度・令和3年度予算は、一般会計の総額が過去最大の106兆6097億円となりました。

主な歳出を項目別にみますと、全体の3分の1を占める「社会保障費」は、今年度の当初予算より1507億円増えて過去最大の35兆8421億円となりました。

「防衛費」は、今年度より610億円増えて過去最大の5兆3235億円となりました。

「公共事業費」は、今年度より26億円増えて6兆695億円、「文化、教育、科学技術関連予算」は、今年度より57億円増えて5兆3969億円となりました。

このほか、
▽地方自治体に配分する「地方交付税」は、今年度より1396億円増えて15兆9489億円、
▽過去に発行した国債の償還や利払いに充てる「国債費」は、4072億円増えて過去最大の23兆7588億円となっています。

加えて、新型コロナウイルス対策のため国会の承認を得ずに機動的に使いみちを決められる「予備費」として5兆円が盛り込まれています。
一方、歳入は、税収が新型コロナの影響による企業業績の悪化などを見込んで、今年度の当初予算より6兆650億円少ない57兆4480億円としています。

また、新規の国債の発行額は、
▽歳入不足を補うための赤字国債が37兆2560億円、
▽建設国債が6兆3410億円の合わせて43兆5970億円に上り、
今年度の当初予算の段階から11兆408億円増えています。

当初予算どうしの比較で、新規の国債の発行額が前の年度を上回るのは11年ぶりで、歳入全体に占める国債の割合は40.9%となり、財政状況は一段と深刻化しています。

新型コロナウイルス対策と重点施策

新年度予算に盛り込まれた新型コロナウイルス対策の主な事業と菅政権が掲げる重点施策です。

新型コロナウイルス対策

まず、感染拡大防止策として、
▽各地の保健所の体制がひっ迫していることを受けて、感染症対策を専門で担当する保健師を現在の1800人から1.5倍の2700人に増やせるようにするための経費として20億円、
▽保健所の危機管理体制を強化するため、結婚や出産などで働いていないいわゆる「潜在保健師」を登録する「人材バンク」を創設し、自治体間の応援を支援する費用などとして5億円が計上されました。

企業などの取り組みや雇用を下支えする支援策では、例えば、経営が厳しい航空会社を支援するため予算と税の両面から支援し、1200億円規模の負担軽減を図ります。

具体的には、
▽航空会社が支払う空港使用料は羽田空港など国が管理する空港では、国内線を対象に、90%減額するとともに、
▽国内線の燃料税は現在の半分に減額します。

また、輸入に頼っていた物資の不足が顕在化したことから、人工呼吸器や人工透析装置といった機器を国内で開発・製造するための補助金などとして65億円が計上されました。

一方、雇用調整助成金の上限額を引き上げる特例措置を延長する費用などとして、特別会計も含めて6240億円が盛り込まれています。

1.デジタル改革

菅政権が掲げる重点施策として、まずデジタル改革です。

▽国の情報システムを標準化していくための費用として合わせて2986億円、
▽小・中学校で1人1台、パソコンなどの端末を配備するのに伴って、小学校5年生と6年生、それに中学生を対象に、デジタル教科書を配布する費用として20億円が盛り込まれました。

また、令和4年度末までに、ほぼすべての国民にマイナンバーカードが行き渡るようにする目標の実現に向けて、カードの交付を担当する市区町村の体制整備を支援する経費などとして1001億円が計上されています。

2.脱炭素社会の実現

続いては、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「脱炭素社会」の実現に向けた事業です。

地域での排出削減に向けた計画づくりや再生可能エネルギーの導入などを支援する費用として204億円、
技術開発などを後押しする予算として、
▽将来の主力電源の1つと位置づける洋上風力発電に82億円、
▽水素の活用に66億円、
▽自動車の電動化のカギを握る蓄電池には23億円が盛り込まれました。

3.不妊治療

不妊治療についての予算も盛り込まれています。

妊娠しても流産や死産を繰り返す「不育症」の検査のほか、若い世代のがん患者などが将来子どもを授かる可能性を残すため、卵子や精子、受精卵の凍結保存などの治療にかかる費用負担を軽減するため、23億円が計上されました。

暮らしに身近な予算

暮らしに身近な予算です。

【介護報酬】
来月改定される介護報酬について、新型コロナウイルス対策の費用として0.05%を臨時に上乗せしたうえで、全体で0.7%のプラス改定を行うため196億円が盛り込まれました。

【薬価】
国が定める薬の価格については、来年度の改定で引き下げる品目を全体のおよそ7割とする一方、新型コロナの感染拡大の影響を勘案し、引き下げ幅を一定程度緩和して年間4315億円、国費ベースでは1001億円削減します。

【待機児童】
待機児童の解消に向けて保育所の運営費用を盛り込んだ「新子育て安心プラン」を実施する費用に111億円が計上されました。

【少人数学級】
少人数学級の実現に向けて、公立の小学校の1クラスの定員を新年度から5年かけて35人以下に引き下げる第1段階として、新年度、小学2年生の教員を増やすための費用として3億円を上積みするなど、1兆5164億円の義務教育費国庫負担金を計上しました。

予備費に異例の5兆円

成立した新年度予算には、新型コロナウイルス対策として国会の承認を得ずに使いみちを決められる5兆円に上る予備費が盛り込まれています。

今年度は、第1次補正予算で1兆5000億円、第2次補正予算で10兆円、合わせて11兆5000億円の予備費を計上しました。

これと比べると、新年度の予備費は半分ほどの規模となります。

しかし、リーマンショックを受けて計上された1兆円の予備費や、東日本大震災を受けて計上された8000億円の予備費と比べると、異例の規模であることが分かります。

予備費は憲法87条で「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任で支出することができる」と定められています。

新型コロナウイルスは収束のめどがたっておらず、感染拡大防止策や経営環境が悪化している企業や個人への支援など、予備費を活用した機動的な財政支援は欠かせない状況にあります。

しかし、支出する内容について国会で十分な審議が事前に行われない予備費は例外的な措置です。

日本の財政に目を向けると今年度、新規の国債の発行額が初めて100兆円を超えたほか、国と地方を合わせた債務残高は新年度・2021年度末には1166兆円余りに上る見通しです。

このため、政府は、予算の使いみちや実効性について丁寧な説明が求められます。

「赤字国債」発行へ特例法改正

新年度・令和3年度から5年間にわたって「赤字国債」を発行できるようにする特例法の改正案が26日の参議院本会議で可決され、成立しました。

歳入不足を補うための「赤字国債」は、財政規律を維持する観点から財政法で禁止されていて、発行するには特例法が必要です。

政府は、平成28年に成立したいまの特例法が今年度で期限を迎えることから新年度から令和7年度までさらに5年間、「赤字国債」を発行できるようにする特例法の改正案をいまの国会に提出し、26日の参議院本会議で賛成多数で可決され、成立しました。
新年度予算案では、新規の国債発行額が43兆5970億円と、当初予算の段階で11年ぶりに前の年度を上回り、このうち37兆2560億円が赤字国債になります。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今年度の国債の新規発行額は当初予算と補正予算を合わせて初めて100兆円を超え、財政状況は一段と悪化しています。

税制改正関連法も成立

新年度の税制改正関連法が26日の参議院本会議で賛成多数で可決され、成立しました。

新年度の税制改正関連法には、新型コロナウイルスで打撃を受けた企業や個人の負担を和らげるための措置が盛り込まれています。

このうち、住宅ローン減税が通常より3年長く適用される特例措置については、一定の条件を満たせば入居期限を来年12月末まで延長します。

また、住宅ローン減税が適用される物件の対象を拡大し、現在の床面積の50平方メートル以上から40平方メートル以上にします。

ただ、新たに対象となる40平方メートル以上、50平方メートル未満の物件については、所得制限を厳しくして3000万円以下から1000万円以下に引き下げます。

さらに、菅政権が掲げる2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するため、温室効果ガスの大幅な削減などにつながる最新設備を生産ラインに導入した場合、一定の条件を満たせば、投資額の最大10%を法人税額から差し引く措置なども導入します。

子育てに関する税制も見直されます。

ベビーシッターや認可外保育所を利用した場合に、地方自治体などから助成を受けると、「雑所得」となり、所得税や住民税の税額が増えて、子育て世代にとって負担となる場合がありましたが、今回、これらの助成は非課税となります。