総額2兆円!? ネコノミクスの正体とは

総額2兆円!? ネコノミクスの正体とは
「つらい時、悲しい時、かわいい猫に癒やされたい」…
そんな風に考える人が増えているようです。これも新型コロナウイルスの影響なのでしょうか。その経済効果は、思いがけないものでした。(経済部記者 長野幸代)

働き方の変化をきっかけに

東京 渋谷のIT企業で働く小林順子さんは、3月から猫を飼い始めました。きっかけは去年2月、リモートワーク中心の働き方になったことです。
当時住んでいたのは都心の1K。在宅で働くには少し手狭でした。出勤しないので都内に住む必要もなくなったと感じた小林さんは、ぺットの飼育が可能な千葉県の中古マンションを購入。ちょうどその時、たまたま生後1歳未満で保護された猫を友人から紹介され、譲り受けて飼うことになりました。動物を飼うのは初めての経験です。
小林さん
「一人暮らしに慣れていたので、ペットを飼う責任や覚悟を考えると本当に自分に飼えるのか悩みましたが、いざ飼い始めると本当にかわいくて仕方がないです。私がいなくても会社も社会も回りますが、この子には私がいないと、という気持ちになります。癒やされますし、本当に幸せな気持ちでいっぱいです」

コロナでペットが増えた

犬と猫の飼育数は、2020年の推計で1813万3000匹にのぼります(ペットフード協会まとめ)。

そしてこのコロナ禍で、1年以内に新たに飼育されたペットが増えています。去年は猫が16%、犬が14%、それぞれ前の年より増加しました。過去5年では最も大きい増加率です。
飼育を始めた理由は猫・犬ともに「過去に飼育経験があり、また飼いたくなった」、「生活に癒やし・安らぎがほしかった」が上位でした。感染拡大による外出自粛などのストレスから、ペットに癒やしを求める人が増えているのかもしれません。

猫グッズが次々と

2020年度のペットの関連グッズなどの市場規模は推計で1兆6242億円(矢野経済研究所まとめ)。飼い始める時に必要なケージや食器、首輪などの需要が伸びています。旅行や外食の支出が減ったことでペットフードの高級志向が強まるとして、今後も市場は拡大するという予測もあります。

中でも勢いがあるのが、猫。2017年に飼育数でそれまでトップだった犬を追い越しました。去年は猫が100万匹余り犬を上回っています。猫関連の本やグッズなどが次々と市場に登場しています。
「にゃっぷる」
ガイドブック「まっぷる」で知られる昭文社が、ことし1月、全国各地にある猫の名所や看板猫などを紹介するガイドブックを発売しました。SNSで話題となり予約が殺到。発売前に緊急増刷という異例の人気ぶりです。
「ネコレット」
住宅メーカーの大和ハウス工業が、2月に発売した猫専用のユニットバス。猫が用を足し、トイレから離れるのをセンサーが検知すると、自動で洗い流す機能がついています。猫が動いても洗いやすいシャワー台も取り付けられていて、飼い主の負担が軽減できるとしています。
このほか、名古屋市のバス会社は「ネコ好きのためのバスツアー」を発売。猫カフェや、猫をモチーフにしたパンの店をめぐったり、招き猫の絵付け体験を楽しめます。
大阪のホテルは、猫を見ながらテレワークができるプランを始めました。ガラス越しに猫を眺めながら、個室で仕事ができます。

猫関連の経済効果は

猫に関連する経済効果「ネコノミクス」はいったいどれぐらいあるのか。関西大学の宮本勝浩名誉教授は3月、試算を発表しました。
●キャットフード、医療費など基本的な飼育費用
●猫の写真集や関連グッズの消費
●猫で有名な観光地への旅行や、猫カフェなどに関連する消費
これらの費用と、その波及効果から計算すると…なんと総額2兆824億円(2020年)。
宮本名誉教授
「都市に人口が集中し、都心のマンションに移り住む人が増える中で、比較的マンションで飼育しやすい猫が注目されるようになったのではないか。猫は犬と違って散歩をさせる必要もなく、世話や手間がかからないことも人気の要因とみられる」
ちなみに犬の経済効果「イヌノミクス」の試算は2兆8995億円。猫と犬の経済効果を単純に足し合わせると、およそ5兆円規模にのぼります。

「ペットは家族」

ペットが増えて心配されるのが、飼い主が飼育を放棄するケースも増えるおそれがあること。コロナ禍で癒やしを求めて飼い始めたものの、慣れない世話にストレスを感じて投げ出してしまった…ということはあってはなりませんが、こうしたケースも考えられます。
日本で初めて「保護猫カフェ」の運営を始めたという都内のNPO「東京キャットガーディアン」を取材しました。このNPOは、自治体や一般の人から「保護猫」を受け入れる活動を行っています。
保護猫とは、何らかの事情で飼えなくなった人から託されたり、道路などで事故にあったりして保健所などに保護される猫のこと。NPOでは、こうした猫たちが生活する空間を「保護猫カフェ」として運営し、猫好きの人がゆっくりふれあえるようにしています。

このNPOでは、「里親」を希望する人に面談の上で保護猫を譲渡する活動を2008年から行っています。このところ、里親として猫を引き受ける人が増えていて、去年は8月だけで、これまでで最も多い122匹を譲渡しました。一方でこのNPOでは、新型コロナの影響でペットを飼い続けられなくなる人が出てくる心配もあるとしています。
山本さん
「譲渡が増えているのは、これまで猫に関心があった人たちが、コロナをきっかけに飼い始めた動きだとみています。安易な飼育放棄による保護猫は今の時点では増えていないと思いますが、例えば職場で雇い止めにあってしまい、引っ越し先ではペットを飼えないので保護してほしいという経済的な事情による相談も寄せられています」

「これから飼おうと思っている人は、自分の年齢や経済状況、ライフスタイルが変化することなどをふまえて、本当に飼うことができるかしっかり考えてほしいと思います。飼えなくても、猫カフェや預かりボランティアなどのサービスもあり、猫とふれあうことはできます。ペットは15年から20年、一緒に過ごす家族ですので、よく考えてみてください」
コロナをきっかけにネコノミクスが盛り上がっていますが、ペットたちは一緒に過ごす家族の一員でもあります。かわいくて、癒やしてくれるペットたちを末永く大切に育ててあげたいですね。
経済部記者
長野 幸代
平成23年入局
岐阜放送局、鹿児島放送局を経て現職