【詳細分析 北朝鮮の狙いは】約1年ぶりに弾道ミサイル発射

政府は、25日朝、北朝鮮が弾道ミサイル2発を発射し、いずれも日本のEEZ=排他的経済水域の外側の日本海に落下したと推定されると発表しました。去年3月以来、およそ1年ぶりとなった北朝鮮による弾道ミサイルの発射。このタイミングでなぜ。その狙いは何なのか。北朝鮮とアメリカや中国などをめぐる最近の国際情勢を踏まえ、分析しました。

政府によりますと、北朝鮮は、25日午前7時4分ごろと23分ごろ、北朝鮮の東岸のソンドク付近から1発ずつ、合わせて2発の弾道ミサイルを東方向に発射し、いずれも、およそ450キロ飛しょうしたと推定されるということです。

日本のEEZの外側に落下か

落下したのは、いずれも、日本のEEZ=排他的経済水域の外側の日本海と推定され、これまでに、航空機や船舶への被害などは確認されていないとしています。
菅総理大臣は「去年3月29日以来、およそ1年ぶりのミサイル発射は、わが国と地域の平和、安全を脅かすものだ。国連の安保理決議に違反するものでもあり、厳重に抗議し強く非難する」と述べました。

そして、「これまで以上に警戒・監視を強める必要がありアメリカや韓国をはじめ、関係諸国と緊密に連携し、国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜く決意だ」と述べました。
北朝鮮の狙いは何なのか。専門家に聞きました。

元海将「訓練繰り返し 発射能力を高める目的か」

海上自衛隊の司令官を務めた元海将の香田洋二さんは、「今回、発射した短距離弾道ミサイルでは日本は射程圏内に入らず、直接の脅威にはならない」とする一方、「北朝鮮にとっては訓練を繰り返すことで、発射能力を高める目的があったとみられる。今後、日本が射程圏内に入る中・長距離のミサイルの性能の向上に短距離ミサイルの技術が応用される可能性があり、注視することが必要だ」と指摘しています。

また、発射の狙いについて、香田さんは「バイデン政権が誕生し、アメリカが対北朝鮮政策の見直しを進める中、アメリカを過度に刺激しない範囲で自らの存在を意識させようという意図があるのではないか」としたうえで、「北朝鮮にとってはアメリカ本土が射程に入る大陸間弾道ミサイルの存在を示すことが重要だ。アメリカが対北朝鮮政策を固める前に、その能力を示したいと考える可能性は十分にある」と話し、ICBM=大陸間弾道ミサイルなど、より射程の長いミサイルを発射する可能性も否定できないと指摘しました。

平岩俊司教授「アメリカの反応 見たいという思いか」

北朝鮮情勢に詳しい南山大学の平岩俊司教授は、今回の発射に先立つ今月21日の巡航ミサイルとみられる2発の発射に触れて、「アメリカの反応が『国連決議違反ではないので特に問題はない』という判断だったのをみて、それでは決議違反にあたるような行為を行って、アメリカの反応を見たいという思いだったのだろう」という見方を示しました。

そのうえで、「トランプ前大統領とキム・ジョンウン総書記との間で、ICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験と核実験を控えるとの約束があったが、これを超えなければいいのかどうか、確認したいという思いもあったのだろう」と指摘しました。

そのうえで、「日米・米韓の『2プラス2』が終わり、米中の対話も終わって、今度は日米韓の安全保障担当の高官協議が予定されている。この時期に北朝鮮の姿勢を示すことに意味があったのだろう。今後の日米韓の安全保障担当の高官協議や、日米首脳会談の結果を見て、北朝鮮は次の対応を考えることになると思う」と述べました。

「韓国と日本を防衛する決意 揺るがず」米インド太平洋軍

アメリカは北朝鮮による発射を受けてインド太平洋軍の報道官が声明を発表しました。
声明では「北朝鮮のミサイル発射を認識している。状況を注視するとともに同盟国や友好国と緊密に協議している。こうした行動は北朝鮮の違法な兵器開発が近隣国や国際社会にもたらす脅威を示している。韓国と日本を防衛するアメリカの決意は揺るがない」としています。

北朝鮮 おととしは25発 去年は8発

北朝鮮による弾道ミサイル発射に関する最近の動きです。

おととしは、5月から11月にかけて短距離弾道ミサイルなど合わせて25発を発射し、このうち10月の発射について北朝鮮はSLBM=潜水艦発射弾道ミサイル「北極星3型」と発表しました。

このときは、日本のEEZ=排他的経済水域内に落下したとみられています。
去年は、3月に短距離弾道ミサイルなどを合わせて8発発射し、このとき1回の発射で2発ずつを短い間隔で発射したことから、連射能力の向上を図ったものとみられていました。

これ以降は、弾道ミサイルの発射は確認されていませんが、去年4月には日本海に向けて、短距離の巡航ミサイルとみられる数発を発射していました。

最近の米朝関係

北朝鮮はアメリカのトランプ前政権と3回にわたって首脳会談を行いましたが、非核化を巡る立場の隔たりは埋まりませんでした。

おととし10月にはスウェーデンで米朝の実務者協議が行われましたが、北朝鮮はアメリカの姿勢に変化がないとして、「協議は決裂した」と主張し、その後、具体的な協議の進展はみられないままです。
キム・ジョンウン(金正恩)総書記はことし1月の朝鮮労働党大会でアメリカを「最大の敵」と呼んでバイデン政権を念頭に対決姿勢を示しました。ただ、キム総書記は「新たな米朝関係を樹立するかぎは、アメリカが敵視政策を撤回することだ」とも述べ、対話に含みを持たせました。

3月に入ると、キム総書記の妹、ヨジョン(金与正)氏がアメリカ軍と韓国軍による合同軍事演習に反発する談話を発表し、バイデン政権をけん制していました。
一方、バイデン政権は先月から北朝鮮との接触を試みていると明らかにしていますが、これに対し北朝鮮外務省のチェ・ソニ第1次官は「敵視政策を撤回しないかぎり、無視する」と談話を出し、反発していました。

北朝鮮政策の見直し進めるバイデン政権

アメリカのバイデン政権は現在、対北朝鮮政策の見直しを進めていて、今月の日本や韓国との外務・防衛の閣僚協議に加え、来週後半には両国の安全保障問題担当の当局者を招いて協議するとしています。
政府高官は先に北朝鮮が巡航ミサイルとみられる2発を発射したことが明らかになった際には「弾道ミサイルを制限する国連安保理決議の制裁の対象にはなっていないものだ。対話の扉を閉じるものではない」と述べ、外交を通じて関与していく姿勢を示していました。

アメリカ政府は現時点で今回、発射されたミサイルが弾道ミサイルかどうかの認識を明らかにしていませんが、弾道ミサイルと断定した場合はバイデン政権では初めてです。

弾道ミサイルの発射は国連安保理の決議違反で、バイデン政権としても対応を迫られる可能性があります。

北朝鮮のミサイル発射を巡っては、トランプ前政権がアメリカ本土に届くICBM=大陸間弾道ミサイル級の発射実験を強くけん制する一方、短距離のミサイルは事実上、問題視せずに厳しい対応はとらず、日米の間で温度差も指摘されていました。

バイデン政権は近く対北朝鮮政策の見直しを終える考えですが、同盟国との連携を重視する方針を強調していて、北朝鮮による発射を受けて今後どのような姿勢を示すかも焦点になります。