デマやうわさを見抜く4つのスイッチ 大人も必要な小学校の授業

デマやうわさを見抜く4つのスイッチ 大人も必要な小学校の授業
「デマは、事実が中に紛れているので、本物っぽいというか、よけいに不安になります」
近所の中学校で新型コロナのクラスターが発生したというデマを信じかけた母親は、こう語りました。
SNSの使い方やメディアリテラシー教育を受けてこなかった時代に育った今の大人たちは、デマを見抜く方法を身につけていないと専門家は指摘します。
そこで「4つのスイッチ」。多くの小学生が習うというデマやうわさを見抜くための授業を体験してみませんか。
(報道局 映像センター 清水希理・小林可奈)

情報を見極められない大人たち

「○○中学でクラスター出た」

兵庫県に住む40代の女性は去年12月、ママ友どうしのグループLINEでこの情報を受け取りました。
複数人同時に休んだらしいし、学校名も具体的だし、それに知り合いが話しているので「事実に違いない!」と思ったと言います。
母親
「コロナの第1波のときは感染者がそこまで多くなかったので、やつぎばやに話が膨らんでこないんですけど、第3波になると感染者数が多くなっているので、話が膨らんでくるんです。でも真実が含まれているから、どこまでが本当でどこまでがうそでどこまでが推測なのか、身近な情報も混ざってくると心配さが増しました」
コロナ禍になり、人づてやSNSでデマに接する機会も増えたという人も多いのではないかと思います。
デマを見抜く力が一層求められている一方で、メディアリテラシー教育を受けてこなかった時代に育った私たち大人は、その力が身についているでしょうか。
メディアリテラシーに詳しい白鴎大学特任教授の下村健一さんは、大人こそ子どもと一緒に学ぶ必要があると指摘します。
下村健一さん
「情報を見極めるメディアリテラシーは、父親・母親の世代は学校で教わっていないんですね。だから理科や算数、国語みたいに親が子どもに教えるという構造が成立しません。では、どうすればいいのか?子どもと一緒に学ぶことです」

小学校で使われる4つのスイッチ

そして、下村さんが提唱しているのが「4つのスイッチ」を身につけること。「まだわからないよね」「事実かな 印象かな」「他の見方もないかな」「何が隠れているかな」という情報を見極める4つの方法です。
これ、実は全国の約6割の小学校で使われる、国語の教科書に載っている内容なんです。
その「4つのスイッチ」を、埼玉県の小学校で子どもたちが実際に使う姿を見られると聞き、取材に行ってきました。
訪ねたのは、杉戸町立西小学校の5年生のクラスです。
担任の上山諒教諭です。
子どもたちに実際の生活の中で“4つのスイッチ”を使えるようになってほしいと、およそ2か月にわたって授業を重ねてきました。
この日は、これまでの授業の集大成。ニュースや新聞記事に書かれるような情報を例示して、子どもたちの見極める力を試しました。
【授業で使った例文】

「再度の緊急事態宣言を出し、二度目の一斉休校をするのではないか」

「コロナ疲れのためか、旅行に行く人で空港はごった返した。どの家族も楽しそうに、わくわくした表情で足早になって歩いていた」
授業では、この文章に含まれる事実とあやふやな情報を仕分けます。この時使うのが、これまで学んできた「4つのスイッチ」です。
先生「皆さん、頭にスイッチ入れてくださいね!」
はじめの例文で、子どもたちが注目したのは「二度目の一斉休校をするのではないか」という部分です。
Aさん:まだ二度目の一斉休校をするか分からない
Bさん:Aさんと同じで、ぼくも。二度目の一斉休校にならないかもしれない。まだわからないよねスイッチ
情報をすぐにうのみにせず、「まだわからないよね」といったん立ち止まって考える。これが4つのスイッチの1つ目、最も大事なスイッチです。その場で正しい、正しくないと決めつけない、結論を急がないということなんだそうです。

さらに、こんな意見も出てきました。
Cさん:政府が言ったわけじゃないから、休校は確実じゃない
Dさん:政府に限らず、まだ誰も言ってない
子どもたちは、この情報を言ったのは誰なのか?と情報源を考えていました。そして、情報源が示されていないことから、これは不確かな情報なのではないかと考えたようです。
続いて、取り組んだのはこちらの例文です。
コロナ疲れのためか、旅行で空港はごった返した。
どの家族も楽しそうに、わくわくした表情で足早になって歩いていた。
まずはスイッチを使わずに読んでみます。
先生:どう感じた?
Bさん:楽しみという感じ
Cさん:危機感が薄いように思った
では、次に4つのスイッチの2つ目「事実かな 印象かな」スイッチを使って読むと、どうなるでしょうか。
Bさん:「コロナ疲れのためか」とか「わくわくした」の部分は事実ではなく、記者の印象?
このスイッチを入れると、印象が混じったことばを取り除くことができます。
残ったのは「旅行に行く人が空港にいた」「どの家族も歩いていた」というシンプルな情報。
スイッチを使わずに読んだときの「楽しみという感じ」「危機感が薄いように思った」という感想は、印象が混じったことばに左右された感想だったことに気付かされます。
そして、3つ目のスイッチを使うと、この情報はさらに違って見えます。「他の見方もないかな」スイッチです。
Cさん:旅行じゃない人もいるかも
Dさん:家に帰れなくて空港にいるのかも
見方を変えることで、旅行ではない理由で空港にいるのかもしれないと考えていました。確かに、旅行に行く人だという根拠は情報のどこにも書かれていません。根拠がないことから、思い込みの混じった不確かな情報かもしれないと考えたようです。
さらに、同じ部分を「何が隠れているかな」スイッチを使って考えた子どもも。
Eさん:出かけていない人もいる
Dさん:あーそれもあるか!
「何が隠れているかな」と情報が伝えていない部分について想像し、そもそも出かけていない人もいるのではないかと考えていました。
子どもたちはさらに想像を広げます。「ずっと自粛している人もいる」「外出しているけど空港じゃないところにいる人もいる」と、隠れていた部分に次々と光を当て、見える景色を広げていました。
授業を受けた子ども
「『まだわからないよね』スイッチが上手に使えました。『事実かな 印象かな』スイッチは使い方が難しかったです」
「4つのスイッチの使い方が分かって、使い分けられるようになりました。ふだんの生活でもぜひ使ってみたいです」
杉戸町立西小学校 上山諒教諭
「実生活の部分で必ず使えるのかというとまだ分からないかもしれないですが、少なくとも何か考えるきっかけになったと思うので、これ本当かなってつぶやくこと、考えることができるようになっているとうれしいです」

親はどう学ぶ

さらに、この授業を行った杉戸町立西小学校の保護者にアンケートをすると、同じ悩みを抱えていることもわかりました。

「SNSの使用に心配なことがある」
「親の私もよくわからない」
小学3年生から中学3年生の4人の子どもを育てる長島尚子さんです。
長島尚子さん
「一方的な物の見方にならないように家族で共有することが大事だと思います。しかし、SNSなどで自分が詳しくないツールも中にはあるので今後対応できるのか不安はあります」
自宅に取材に訪れた日も、小学5年生の眞智さんと尚子さんが、テレビやインターネットで見聞きした情報について親子で話をしていました。
尚子さん「昨年の春ごろにトイレットペーパーが不足したことは知ってる?」
眞智さん「ニュースで聞いたことある」
尚子さん「SNSとかでトイレットペーパーがなくなるって騒ぎになって、みんなが買いに行っちゃったんだよね」
このあと眞智さんは尚子さんに、そろそろ携帯電話がほしいと話します。
眞智さん「(携帯電話)持ってないけどほしい」
尚子さん「今のとこ、必要性とかないもんね。でもLINEとかはやりたいでしょ」
眞智さん「うん。ツイッターとかSNSは周りでやってる人いないから、あんまりよくわかんない」
こんな会話が繰り返されるたびに、尚子さんは、眞智さんが携帯電話に流れてくるデマやうわさに惑わされないだろうか、心配になると言います。
長島尚子さん
「大きくなるにつれて、(携帯電話を)持たせてあげたいなとは思うけど、不安はやっぱりありますよね。大人も、情報の扱い方というのを考えながら、勉強しながら、一緒に成長していくのは大事だなとは思っています。子どもはきたものをすべて受け取ってしまうと思うので、その中でやっぱり正しい選択をしてほしいなと思うし、迷ったときは親に相談してほしいし、最後のとりでになりたいなと思いますね」
情報が次々と押し寄せる現代に暮らす私たち。
インターネットやスマートフォンといった現代のツールとの向き合い方について、4つのスイッチの提唱者、白鴎大学特任教授の下村さんは、親と子が一緒に学ぶことが大切だと指摘します。
下村健一さん
「包丁が危ないから使うなとは言わないですよね。子どもと会話をしながら、一緒に学んでいくことはとても大切です。教える側と教わる側に分かれるんじゃなくって、親子で一緒にテレビやスマホの画面を見ながら、『まだわからないよね』とか『他の見方もないかな』とか親がつぶやいてみせる。その姿をぜひお子さんに見せてあげてください。保護者の皆さんもこの情報が合ってるのかなというのを真剣にチェックする。その様子を横で子どもたちが見ていればこうやって受け取るんだってわかってくる。それが大事なんじゃないでしょうか」
情報を吟味することを、幼いうちから親が一緒になって教えること。
こうした意見に対しては、ひねくれた子どもを育ててしまうのではないかという指摘もありますが、専門家は「決してそうはならない」と言います。メディアリテラシーで育むのは、うがった見方ではなく、多様な見方なんだそうです。
私には保育園に通う子どもがいますが、この子はすでにスマートフォンに向かって「ぐるぐる検索して!」と話しかけています。
一緒に料理をしながら包丁の使い方を学ぶように、情報との向き合い方を、私も子どもと一緒になって学んでいかなければいけないと思いました。
報道局 映像センター
清水希理
2013年入局 初任地は静岡局
一児の母 休日は子どもと電車を見に出かけます
報道局 映像センター
小林可奈
2008年入局 初任地は岡山局
二児の母 休日は子どもと公園で虫取りに