あのナイキに激震!?~新型コロナが加速させる“転売”市場~

あのナイキに激震!?~新型コロナが加速させる“転売”市場~
「ビジネスは人とのつながりである」-。
格言というほどでもないが、納得することばでもある。人脈、コネクション…。ただ、ひとつ間違えば「ルール違反」にもなりかねない。とあるスキャンダルは、新型コロナウイルスの感染拡大下でも急成長するビジネスの“産物”でもあった。(アメリカ総局記者 野口修司)。

ナイキに激震!?

話は、2月末にさかのぼる。

大手経済ニュースメディア ブルームバーグが定期発行するビジネス雑誌の表紙は、ナイキの「エア・ジョーダン1」が陣取っていた。シューレース(靴ひも)はゴールド。見出しには、こうある。

『これはシューズではない。投資商品だ』。
スニーカーの「リセールマーケット」(「2次流通市場」「転売市場」とも)は、急速に成長している。筆者は、おととし夏にもこの話を取材したのだが、人気商品の場合、定価の2倍、3倍、いやもっと高額で売れる。当時、「転売を礼賛するのか」との指摘も受けたが、決してそんなつもりはなく、需要と供給が合致すればそこに取り引きが生まれる。

今や無視できない市場のひとつとなっているのは、ニューヨークの街を歩いていても感じる。小売り業の苦戦が叫ばれる中、“異端の急成長マーケット”でもある。その傾向はさらに強まり、あのブルームバーグが「いまや投資対象になってしまった」と特集記事を書いたのだが、その中に登場した人物が物議を醸した。
要は、こうだ(以下、ブルームバーグの記事より)。
転売で利益をあげている19歳の少年。匿名に近いインタビューだったが、彼が使っていたクレジットカードや携帯電話は、実は母親名義のもの。で、その母親というのが、アン・ヘバートというナイキの北米地区担当の副社長だった…。冒頭のことばではないが、息子がコネを利用して入手困難なスニーカーを転売していた…!?

ナイキの反応は素早かった。3月1日には、ヘバート副社長は突如、辞任。理由は明らかにはされなかったが…。

コロナ禍が“転売”を加速

スニーカー業界を調査するコーエン・エクイティ・リサーチ社は、前回、取材した2019年8月時点でのレポートで、リセール市場は、2020年の90億ドル(約1兆円)から2025年には160億ドル(1兆7000億円)規模になるとしていた。5年で2倍近くだ。

それが、去年(2020年7月)のレポートを見てみると、290億ドル(!)に大幅に上方修正されている。3兆円を超える…。

理由は簡単だ。「新型コロナウイルスの感染拡大で、デジタル(ネット)市場が急加速した」-。ニューヨーク、マンハッタン南のソーホー地区には、スニーカーのリセールを行う小売店が多くあるのだが、去年3月末の“ロックダウン”直後は、ほぼ全店が休業を余儀なくされた。しかし、ユーザーの欲望はネットで満たされた。
コロナ禍前は、多くのリセールイベントが全米で行われていた。ニセモノをつかまされては元も子もない。実物を手にとって、は欠かせないところだが、ソーホー地区にある多くのリセール店は、対面でなくネットだけでも売れるだけの「信頼」がある。「巣ごもり消費」には、うってつけ。

よく見れば、コロナ禍の中でもナイキをはじめ、多くのメーカーは、「変わることなく」新作を発表し続けている。コロナ禍のニューヨークで、去年は、ニーマン・マーカスやブルックス ブラザーズ、それにJCペニーなど、多くの小売りやファッションブランドの「経営破綻」ニュースを書くことになった。5番街からは人が消え、買い物客なぞ、“目撃”するかどうかのレベルだったような記憶だが、そもそもネット中心だったリセール市場は成長を続けていたということになる。

ナイキもネット勝者

せっかくなので、3月18日に発表されたナイキの決算発表の中身を見てみる。

今回が第3四半期(去年12月~ことし2月)。売り上げは、前年同期比3%増の104億ドル(1兆1200億円)。市場の予想は下回るも、1兆円超え。北米の売り上げは10%減ったが、中国では51%伸びたという。(ちなみに日本を含む「アジア太平洋&ラテンアメリカ」は7%減)ネットの売り上げは、なんと59%アップ。

アメリカ市場をよく見れば、3年前にはNBA・アメリカ プロ バスケットボールの全チームのユニフォームがナイキになった。そして、去年からは、メジャーリーグも…。ヤンキースのピンストライプユニフォームの右胸には、ナイキを象徴する「スウッシュ」が。「これはヤンキースのユニフォームじゃない!」と怒るニューヨーカーもいるが、アメリカスポーツ界を席けんしている。

独アディダスは、先日、保有するリーボックの売却を発表した。ライバルは、苦戦している。

これも金余りのなせる業か…

10年ちょっと前、ロンドン駐在の時「絵画オークションに大勢の中国人投資家」というニュースを取材した。そのあとは、ワインだったか、ウイスキーだったか。市場過熱の要因はさまざまあるが、まずは、中国、それに中東の人たちの需要増。

スニーカーブームが始まったとされる1990年前後にはまだ若かった世代が、年を重ね、購買力をつけた…。有名デザイナーや高級ブランドとのコラボレーション。直近では、コロナ禍による工場閉鎖などでの、品薄…。需要に供給が間に合わないのだから、価格上昇は道理。

ほかには、高級腕時計もそうだろう。定価(希望小売価格)と比べ、びっくりするような値決めがされている。そもそも、正規の小売店に人気のモノはない。
去年、大手のサザビーズ、それにクリスティーズが、あのマイケル・ジョーダンが履いていたバスケットボールシューズを相次いでオークションにかけた。コロナ禍のさなか、にだ。どちらも記念の試合で履いたという希少品だが、ついた値段は、5月のサザビーズが56万ドル、8月のクリスティーズのが61万5000ドルと、いずれも6000万円(!)を超えた。

新型コロナウイルスの感染拡大で大きく傷ついたアメリカ経済を立て直すため、中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、大規模な金融緩和に踏み切った。じゃぶじゃぶの資金が株価を押し上げ、債券市場、穀物、あらゆるマーケットに流れ込む中で、スニーカー市場も例外ではなかったようだ。

ハジけるのか、成長するのか

そう考えると「これはバブルで、いつかはじける…」という予測は、スニーカー市場に当てはまるのか。「いや、実体経済は着実に回復していて、先取りしている動きだ」というのだろうか。

市場リサーチレポートには、こうある。
「スニーカーは『新興のオルタナティブ投資商品』であることに何の疑問もない」。
“オルタナティブ投資”とは、“伝統的投資”と呼ばれる株式や債券に代わる、たとえば不動産や穀物、いわゆる仮想通貨(暗号資産)など、新たな投資先のことを言う。

3月に入っても、ダウ平均株価は、連日最高値を更新する勢いだ。株価の上昇と景気実感の「かい離」が言われて、久しい。

ビットコイン“高騰”のニュースを見ながら、「そのうち、“○日のニューヨーク・スニーカー市場の終値は…”なんて原稿書くのかな」などと思ったりしている。
アメリカ総局記者
野口 修司
平成4年入局
政治部、経済部、ロンドン支局などをへて現職