コロナで外出自粛 高齢者の健康に深刻な影響 研究グループ調査

新型コロナウイルスの感染拡大で外出の自粛が続く中、特に高齢者の健康に深刻な影響が出ていることが大規模な調査で明らかになりました。運動不足による体の機能の衰えだけでなく、人と会う機会が減ったことで「物忘れが気になるようになった」「生きがいを感じなくなった」という人が60代以上で増えていて、専門家は対策が必要だと指摘しています。

筑波大学大学院の研究グループは千葉県白子町や新潟県見附市など全国の6つの自治体と協力し40代以上を対象にアンケート方式による調査を行っておよそ8000人から有効な回答を得ました。

それによりますと、去年11月の時点で外出するのが週に1回以下だという人が70代で22%80代で28%90代で47%にのぼり、外出の機会が大幅に減っていることが分かりました。

運動不足はすべての年代に広がっていて、調査した40代以上のうち17%の人が、自分の健康状態が悪化していると感じています。

さらに60代以上では「同じ事を何度も聞いたり物忘れが気になるようになった」という人が27%、「生きがいや生活意欲がなくなった」という人が50%に上っていることも明らかになりました。

運動不足による体の不調だけではなく、特に高齢の世代では外出が少なくなったことで友人や地域の人とのコミュニケーションが減り、認知機能の低下や精神状態への影響も深刻になっています。

調査にあたった筑波大学大学院の久野譜也教授は「新型コロナの感染予防は重要だが、運動不足や外出の自粛が長く続くと2次的な健康被害が生じてしまう。特に高齢者の認知機能への影響が大きく、必要な対策を十分にとる必要がある」と指摘しています。

体操教室が中止 つえが必要になった男性も

千葉県白子町に住む大原慶弘さん(95)は妻と2人暮らしです。

新型コロナウイルスの感染が広がる前は町が主催する体操教室に毎週通っていて体の不調を訴えることもほとんどなかったといいます。

しかし、去年3月に体操教室は中止となり、買い物以外は外出の機会がほとんどなくなりました。

すると徐々に足が動きにくくなり、つえがなければ体をうまく支えられなくなったということです。

大原さんは「知らず知らずのうちに体の動きが悪くなっている。動かないから悪くなり、悪くなるから動かないという、悪循環になっていると実感している」と話しています。

体操教室はその後再開し月に1回ほど通うにようにしていますが、以前のように歩き回れるまでには回復していません。

大原さんは「なんとか以前のような元気な体に戻れるよう少しでも頑張りたい」と話していました。

物忘れがひどくなった80代女性は

神戸市東灘区で1人暮らしをしている齊藤和子さん(87)は、新型コロナウイルスの感染が拡大する前は地域の合唱団に所属し、週に1、2回仲間と一緒にコーラスを楽しんでいました。

しかし、合唱団は去年3月に活動を休止。齊藤さんは去年4月の緊急事態宣言以降、自宅に閉じこもりがちになり、一日中、誰とも話さない日が多くなりました。

その後、徐々に物忘れがひどくなり、買い物に行くために用意した財布を机の上に忘れたまま外出してしまうこともあったということです。

神戸市の地域包括支援センターの職員で看護師の渡辺かおりさんは、去年9月、齊藤さんから体の不調などについて相談を受けました。

渡辺さんは、齊藤さんについて「歩行がちょっとおぼつかない感じで、よくこれで転ばないなと思いました。コロナによる自粛もあって、趣味などの活動の場がなくなり引きこもった状態で社会的に孤立している感じでした」と振り返っています。

そして「コロナ禍という今までないことが長く続き、齊藤さんのような方は氷山の一角であって、まだまだ埋もれている方がたくさんいらっしゃると思います。家の外に出て人と関わることが高齢者の健康改善には重要で、私たちも手助けしていきたいと考えています」と話しています。

調査にあたった専門家「予防に取り組む必要がある」

健康政策が専門の筑波大学大学院の久野譜也教授は「外出の機会が減ることによる運動不足は自宅で体を動かすことなどである適度は補えるが、それだけでは認知機能が低下してしまう。人と会って話をし、笑い声が出るような時間が重要で、そういう機会をどうやって作っていくのかが課題だ」と話しています。

そのうえで「感染に対する怖さなどで家の外に出なくなっている人は特に高齢者で多いが、逆に外出しないことによる心身への影響はまだほとんど知られておらず対策も進んでいない。正しく予防することは必要だが家の中にずっといることで健康2次被害ともいう深刻な問題が生じることも知ってもらい、予防に取り組む必要がある」と指摘しています。

高齢者が健康に過ごすためには 産官学で協議始まる

先月には、研究者や自治体それに介護事業者の団体やスポーツ関係者などが集まって、コロナ禍で広がる高齢者の新たな健康被害について話し合われました。

この中では高齢者などが安全に集まって運動や交流を楽しめる場所を設けることや健康に過ごすための情報発信などを行っていくことを確認しました。

会議に参加したオリンピック女子マラソンのメダリスト有森裕子さんは「例えば、オリンピアンがみんなでラジオ体操をやろうよと言ったら驚くかもしれないが、家の中でもできるし日本特有のすばらしい手法だ。別の新しいノリノリの音楽で体操をしてもいいし、年配の方でも楽しめて家族と一緒にできる何かを提供できるように考えていきたい」と話していました。