どんなEVにも対応!?注目のイスラエル企業

どんなEVにも対応!?注目のイスラエル企業
世界的に加速するEV=電気自動車へのシフト。従来の自動車は3万点ほどの部品から成るが、電気自動車では、エンジン関連を中心に部品の数が半分から3分の1程度になるとも言われ、既存の自動車メーカー以外の企業の参入が容易になる。ユニークな技術で存在感を高めようとするスタートアップ企業が、イスラエルにある。(エルサレム支局長・曽我太一)

“走る部分”だけに着目

こちらの画像。イスラエルのスタートアップ企業、「リー・オートモーティブ(REE Automotive)」が開発した「EVプラットフォーム」だ。

一見すると単なるシャーシの様にも見えるが、シャーシの部分にはバッテリーが備わっている。そして、独自の技術が凝縮されているのがタイヤの部分だ。狭い空間の中に、モーターやサスペンション、ブレーキ機能、ステアリングに必要なパーツなど、走るための機能が一体化されて収まっている。
タイヤの部分をシャーシに組み合わせることでプラットフォームが完成し、電気自動車として走ることができる。乗用車向けからトラック向けまで、5種類のプラットフォームを用意していて、ボディーや内装の組み合わせによって、幅広い電気自動車に対応できるという。
バレルCEO
「プラットフォームをかえることで、あらゆる大きさの電気自動車に合わせることができますし、電気自動車だけでなく、水素エンジンにも対応できます。市場ではほかに誰もやっていないユニークなポジションにいると思っています」

狙うは商用車 日本市場も

同社の創業は2011年。バレルCEOは当初からEVプラットフォームに特化した開発を目指してきた。他社との差異化のために導き出したのが、部品のモジュール化(=一定の部品を組み合わせて汎用性のあるひとかたまりの部品にすること)。走る機能をすべて詰め込んだ「タイヤの部分」がそれだ。

EVプラットフォームは、来年から大量生産を始めることを目指していて、自動車メーカーなどに連携を呼びかけている。当面のターゲットは、商用車だ。アメリカを中心に、トラックやバスなど商用車のEV化が進みつつあるからだ。
バレルCEO
「乗用車と商用車のうち、今は商用車を狙う時期だと思っています。例えば、宅配のトラックやタクシーを見たときに、それが何の車種かは誰も気にしません。その一方で、運送業者などは早く電気自動車に切り替えたいと考えているはずなのです。自分たちの技術を活用すれば、速やかに電気自動車に切り替えることができるのです。

アメリカ、ヨーロッパ、そして、日本の市場に注目しています。日本は新しいテクノロジーを早く取り入れるのが得意で、投資意欲も持っているので、そうした企業をパートナーとして考えています」

日本メーカーも熱い視線

彼らの技術には、日本企業も注目している。愛知県に本社を置く部品メーカー武蔵精密工業だ。

ホンダ系のメーカーとしてエンジン関連の部品などを主力製品としてきたが、EVシフトが進めば、会社を取り巻く環境が大きく変わると危機感を持ってきた。会社は3年前にリー社に出資。現在はパートナーとして「ギアボックス」と呼ばれる部品を供給している。

大塚浩史社長は、電気自動車の時代は、自動車メーカーを頂点とした「垂直統合」の産業から、各社が製造した部品を組み立てる「水平分業」の産業に変わっていく可能性があると考えている。

イスラエル企業との協業は、会社の生き残りをかけた“オープン・イノベーション”の一環だという。
大塚社長
「彼らが大胆な発想で新しい駆動部品をつくり、私たちが精度の高い耐久性のある優れたギアを提供できれば、非常に良い作用が生まれると思いました。3年後や5年後ではEV化による変化はまだ限られると思いますが、10年後には確実に世の中が大きく変わる。何もしなければ15年後くらいには死んでしまうので、今のうちから“種まき”を進めているのです」

市場の評価は

2月、リー社は、SPAC(特別買収目的会社)と呼ばれる手法を活用してアメリカ・ナスダック市場に上場することが決まった。インドの自動車メーカーや、北米の自動車部品メーカーなどが出資する見込みで、会社の発表によれば、時価総額は36億ドル、日本円で約3900億円規模になると見積もられている。

シリコンバレーに拠点をおき、スタートアップ企業への投資動向に詳しい山本康正氏は、EVシフトの時代を反映した市場の評価だと見る一方、まだ競争は始まったばかりだと指摘する。
山本氏
「電気自動車では、企業どうしが連携してスマートフォンのように各部品を組み合わせてつくるという流れになります。この流れのなかで、プラットフォームになりうる技術には期待が集まっています。リー社の技術は、手軽に電気自動車をつくる土台にはなるが、実用性を高めていく上ではさらなる差別化が必要になり、今後も評価は変わっていくと思います」

大変革期だからこそ

自動車業界では、いわゆる「CASE」(自動運転や電動化、インターネットにつなぐコネクテッド技術など)への対応をはじめ、100年に1度と呼ばれるほどの変革期が訪れている。

従来の発想にとらわれない新興企業がこのチャンスをいかそうとしのぎを削るなか、既存の自動車産業は、変化の速い時代にどう対応し生き残っていくのか。日本をはじめとする世界の自動車産業全体の戦略が問われてくることになるだろう。
エルサレム支局長
曽我 太一
旭川局や国際部を経て2020年からエルサレム支局
和平問題のほか最新のデジタル技術を取材