東京五輪・パラ 1500億円の経済効果が失われるとの試算も

東京オリンピック・パラリンピックで、海外からの観客が見込めなくなったことによって失われる経済効果は1500億円に上るという試算もあります。

海外からの観客を見込んでいた業界やボランティアなどからは、落胆の声や国に支援を求める声があがっています。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、新型コロナウイルスの感染拡大前にあたるおととしの外国人観光客の消費額などをもとに、失われる経済効果はおよそ1500億円に上ると試算しています。

さらに、販売したチケットがキャンセルとなり、国内向けの再販売がない場合、数百億円規模のチケット収入が失われる可能性があるとしています。

一方、大和総研の鈴木雄大郎エコノミストは、輸送や警備などのコストを除いた消費支出だけで、600億円から700億円の経済効果が失われると試算しています。

海外からの観客の受け入れを見送る対応について、民間のエコノミストからは「仮に観客を受け入れて、変異したウイルスが国内で拡大した場合の経済への影響を考えると、理にかなった対応だ」といった意見がある一方、「日本の魅力を世界に発信する機会が減り、期待されていた観光客の増加の勢いが弱まる可能性もある」といった意見も出ています。

宿泊業界 国に支援を求める声

東京オリンピック・パラリンピックで海外からの観客受け入れが見送られることについて、苦しい経営が続く宿泊業界からは国による支援を求める声が上がっています。

3年前に発足した東京・港区のホテル運営会社「JHAT」は、外国人旅行者を主なターゲットとして、ホテルの開業を進めてきました。

現在、東京や京都で19のホテルを運営しています。

家族単位で長期間滞在できるように、4、5人用の部屋を充実させキッチンや洗濯機も備えているほか、畳の和室も用意するなど日本らしさの演出もしています。

外国人スタッフの雇用も進め、中国やベトナム、フランスそれにブラジルなど8つの国や地域から48人を採用しました。

これはスタッフ全体の3割にあたるということです。

インバウンドの堅調さと大会への盛り上がりから利用が順調に増えていましたが、去年以降は新型コロナウイルスの影響で売り上げが当初の想定の1割以下の月もあるなど大きく落ち込みました。

それだけに海外客の受け入れがなくなるのは痛手です。

この会社では、今年5月から大会の期間中にかけて、海外からの観客だけでおよそ3億4900万円分の予約が入っていました。

料金はすでに海外の旅行代理店などから支払われていますが、返金の依頼が出始めているということです。

契約上は返金の義務はないものの一定の返金に応じなければならないおそれがあり、苦しい経営の中、重い負担となっています。
平林朗社長は、「コロナ後に向けてなんとか事業を継続したいが、このままでは倒産する宿泊業者が相次ぐおそれがある。そうなると、インバウンドが復活しても宿泊施設がない事態となり、大きな経済損失につながる。いまこそ、返金や家賃への補助など充実した支援が必要だ」と話していました。

去年開業の外資系ホテルは

東京オリンピック・パラリンピックで海外からの観客の受け入れを見送ることについて、去年5月に横浜市に開業した外資系のホテルは「海外から来る多くの観客の宿泊を見込んでいただけに大変残念だ」と話しています。

去年5月に開業した横浜市中区にある外資系のホテル、「ハイアットリージェンシー横浜」は、野球やソフトボールの会場となる横浜スタジアムに歩いて行くことができ、観光地の横浜中華街も近いため海外からの観客に期待を寄せていました。

オリンピックの大会期間中は宿泊客のおよそ半分を海外からの観光客が占めると試算していたということです。

またこのうち4日間は、海外に多くの顧客を持つ企業がホテルを貸し切りにして宴会場でパーティーを開いたり、大規模な商談会を行ったりするプランも進んでいたということです。

しかし、海外からの観客受け入れが厳しいという見方が広がったことを受けてなくなり、今後は日本人にターゲットを絞って旅行代理店などと連携し、観戦チケット付きの宿泊プランを販売していくことにしています。
齋藤孝司総支配人は、「世界中の皆さんにホテルを堪能してもらいながら試合を観戦してほしいと思っていたので、大変残念です。引き続き日本人の観光客に向けた宿泊プランを提案し、満室を目指して営業していきたいです」と話していました。

ボランティアからは落胆の声

東京オリンピック・パラリンピックで、海外からの観客の受け入れが見送られることについて、語学研修などの準備を進めてきたボランティアからは落胆の声があがっています。

東京大会では、競技会場などでの「大会ボランティア」およそ8万人と、観客らに交通や観光の案内をする「都市ボランティア」4万人以上が活動する予定です。

「都市ボランティア」のひとり、千葉県酒々井町の主婦、杉松由香さんは(53)成田市を訪れる海外からの観客らを案内しようと感染拡大の中でも仲間とオンラインで中国語を学んできたほか、得意のイラストを生かした地図を作って、まちの魅力をPRしたいと考えていました。

杉松さんは、「海外からの観客が来なくなる、イコール私たちの活動の場はどこにあるのだろうと考えました。大会が延期されたあともできることはやろうと中国語の勉強に取り組み、満足のいく大会にしたいと思っていたのでショックはあります」と話しました。

一方で「気持ちはしぼみかけていますが、大会が終わるまでは私たちは都市ボランティアです。積み上げてきたものは無駄にはならないし、あまり残念がるのはアスリートの方や仲間に失礼なので、今はできることをやって、本当にがっかりするのは大会がなくなってからにしようと思っています」と話しています。

ボランティア予定の学生「自分たちができることを」

上智大学国際教養学部3年の瀬下一晟さんは、東京オリンピック・パラリンピックで得意の英語をいかして大会ボランティアとして活動する予定です。

さらに大会に向けた啓発活動などに取り組む大学のプロジェクトチームにも所属し、大会の開催に合わせて海外から訪れた観客に日本文化を発信する催しも計画していたということです。

瀬下さんは海外からの観客受け入れの見送りについて、「海外からの観客に日本特有の文化や価値観を発信することや、反対に日本人に海外の素晴らしさを伝えるためにもボランティアとして大きな役割があると考えていました。以前、大会が延期になったときも残念でしたが、『1年後には頑張ろう』という気持ちで準備していたので、今回も期待していた分だけ、残念な気持ちになりました」と話していました。

そのうえで「世界が1つになる4年に1度の国際的な祭典であることに変わりはないと思います。海外の観客と実際に触れ合ったりすることは難しくても、インターネットを通じて世界の人たちと交流できるようなイベントを企画するなど、自分たちができることを考えていきたい」と話していました。

インバウンド対策の鉄道業界「残念」

東京大会で海外からの観客受け入れが見送られることについて、多言語対応などの準備を進めてきた鉄道会社からは残念がる声も聞かれました。
成田空港と都内を特急「スカイライナー」などで結ぶ京成電鉄は、首都圏の鉄道の中でも外国人の利用者が多く、東京大会などに伴うインバウンド需要に対応しようと多言語対応への準備を急ピッチで進めて来ました。

この中では、駅員への語学研修に加え、災害や事故に備え、地震や津波など480パターンの自動音声が英語・中国語・韓国語で録音された「多言語拡声器」を65の駅すべてに配備し、使用方法の訓練も行ってきました。

さらに、
▽さまざまな国の人を迎えられるよう、すべての駅の窓口などに70か国語以上に対応できる翻訳機を、合わせて130個余り配置したほか、
▽成田空港駅や日暮里駅など特急が停車する駅では、ホームからの転落を防ぐホームドアの整備も急いできました。
京成電鉄鉄道本部の深井貴幸鉄道企画担当課長は、「訪日された方にとって日本での最初か最後の接点になる当社の対応が日本の印象を左右すると思い、準備を進めてきました。また東京大会は多くの海外の方に日本の良さや沿線の魅力を知ってもらう絶好のチャンスと捉えてきました。外国から観客が来ないことは率直に残念ですが、進めてきた取り組みは今後、コロナが収束して再び、お客様が海外から訪れる時に役立てていきたいです」と話していました。

街頭の人の声は

東京オリンピック・パラリンピックで海外からの観客受け入れを断念することについて、東京・渋谷の街頭では新型コロナウイルスの感染拡大でやむを得ないという意見の一方、国際交流の機会が失われることを惜しむ声も聞かれました。

東京・足立区に住む45歳の女性は「変異したウイルスが広がっているので海外から不特定多数の人が入ってくるのは不安だった。海外から受け入れないのはやむをえない」と話していました。

また、都内に住む50代の会社員の女性は受け入れの断念はやむをえないとしたうえで、「街に活気がないのでこのままオリンピックがなくなるのは寂しい。以前、チケットを申し込んで抽せんに外れたので余りが出るようならまた申し込みたい」と前向きに受け止めていました。

一方、東京・江東区に住む33歳の会社員の男性は「海外の方がワクチン接種が進んでおり検査したうえで入国するなら問題ないと思っていた。ラグビーワールドカップで盛り上がったように国際交流の場としての効果があったと思う。いろいろな国の人が一緒に応援するのがオリンピックの良さだったので残念でこのまま大会が開催されてもそれほど盛り上がらないのではないか」話していました。

国内の外国人 さらなる説明求める声も

東京大会で海外からの観客受け入れが見送られることについて、観戦チケットを購入した日本国内の外国人からは失望や、さらなる説明を求める声が上がっています。

中国出身で、大阪・阿倍野区に住む会社員、張頴ガイさん(33)は、日本国内で販売されたバスケットボールと競泳の観戦チケット合わせて4枚を購入し、中国・雲南省から母親を呼び寄せて一緒に観戦する予定でした。

スポーツをするのも見るのも好きだという張さんは、今回の決定について「4年に一度の、私にとってはとても重要な大会です。せっかくチケットが抽選で当たり、母と観戦できるようになったのに、とても残念です」と話しました。

そして「海外のチケット購入者の中には反感を感じる人もいるだろう。日本政府は、海外からの観客を受け入れないのであれば理由をしっかりと説明し、どのように大会を安全に開催するのかを示して、理解してもらう必要があると思う」と指摘しました。

また、張さんは、自分のように日本国内に住む外国人は観客として受け入れてほしいとしたうえで「選手や観客の健康を守れるやり方で開催してほしい。もしうまくいかず、かえって多くの人が感染してしまうことになれば、オリンピックの意義は失われてしまうし、誰にとっても幸せではない」と話していました。