私が生理用品を買えなくなった日

私が生理用品を買えなくなった日
「まさか夢にも思っていませんでした。生理用品を使うのはごはん食べるのと同じくらい当たり前のことだったのに買えないことがあるなんて。しかもそれがこんなに長い間続くなんて」

去年5月から市販の生理用品を買えなくなったというサクラさん。ごく普通の19歳に、いったい何が起きたのでしょうか。
(報道局政経・国際番組部ディレクター 市野 凜)

バイトを掛け持ちしても稼げない

サクラさん(仮名・19歳)は神奈川県内の専門学校に通っています。父親と二人暮らしですが幼いころから折り合いが悪く、高校生になってからは光熱費や家賃などを折半させられています。
これまでは飲食店のアルバイトをして月に13万円ほど稼ぎ、生活にかかる費用のほとんどを自分でまかなってきました。

なんとか保ってきたバランスが崩れたのは、専門学校に入学した直後の去年の春。新型コロナの影響で働いていた飲食店のシフトにほとんど入れなくなり、収入が激減したのです。
慌てて介護施設でバイトの掛け持ちを始めましたが、感染拡大で施設の利用者が減少。
結局、月に2~3回しかシフトに入れない日々が続き、先月の収入は2万円足らずでした。
専門学校への入学金などで貯金を使い果たし、手持ちのお金がほとんどなかったサクラさん。学費の支払いのために借りている奨学金を生活費にあてています。
それでも家賃・光熱費・定期代・教材代のほかに食費を確保するので精いっぱい。携帯電話を解約して、友達やアルバイト先とは無料の公衆無線LANを使ってやり取りしていますが、もうそれ以上、節約できるものがありませんでした。

国の支援策も届かない

新型コロナで収入が減った人や学費の支払いが難しくなった学生に対して、国はさまざまな支援策を打ち出しています。

でもサクラさんの元にはいずれも届いていません。

1人当たり10万円の一律給付は世帯主である父親が受け取りましたが、分けてはもらえませんでした。

学生支援給付金は父親と同居しているため申請を断念し、緊急小口資金や総合支援資金の申請も父親の理解を得られませんでした。
サクラさん
「自分も働いているので、父から家賃・生活費を要求されるのはしかたがないなと諦めています。自分一人では部屋を借りる契約もできないし、家を追い出されるとどうにもできない。今は親の言うことには従わなきゃなって」

食事か生理用品か…究極の選択を迫られて

生活を切り詰めていた去年5月、生理用品のストックがなくなりました。

いつものように薬局に向かったサクラさんは、生理用品売り場の前で考え込んでしまいました。
「ひとパックは300円とか500円とかですが、この500円あったら1日ごはん食べれるなって思ってしまいました。しかも生理用品って1種類で何とかなるものじゃなくて、経血の量によって何種類も使い分けなきゃいけないし、積み重なるとバカにならない出費です。まずは自分が食べていかなきゃいけないし学校は何としても続けたいので、生理用品にかけるお金はないなって思いました」
サクラさんは生理が重く、ナプキンやタンポンを1時間に1回は交換しなければならないほど経血量が多い日が、5~6日続くこともあります。

買ってもすぐになくなる生理用品はぜいたく品だと、いつしか思うようになったのです。

トイレットペーパーで代用 不安と緊張の日々

市販の生理用品を使わずに、どう対処するか。サクラさんはこの1年、ひとりで試行錯誤してきました。
最初はトイレットペーパーを畳んであてるだけでしたが、ずれやすくて経血が漏れるため、固く巻いてタンポンのようにして使ったり厚手の布を切ってあてがったりしています。
サクラさん
「いつ経血が漏れるかわからないので常に緊張しています。生理用品以外のもので代用することで、病気になるのがいちばん怖いです。ちょっとおなかが痛くなっただけでも、もしかしてずっとトイレットペーパーを入れてるからかなとか、不安がつきまといます」
不便なだけではありません。取り替えるたびに嫌悪感がして気持ちが沈むと言います。
「ひもが付いてるタンポンと違って、自分で作ったものだと中に指を突っ込まないと取れないんですよね。出したあとは当然、手が汚れます。公衆トイレで血がついたまま人に見られるようなところで手を洗わなきゃいけないのは恥ずかしいし、すごく引け目を感じます」
近年は使い捨てのナプキンやタンポンだけではなく、洗って何度も使える布ナプキンや月経カップなどが続々と市販化されています。

長期的にみれば経済的かもしれませんが、手元にお金がないサクラさんには手が届かないものです。
「布ナプキンなどは数千円するので、初期投資が高すぎて…。バイトで稼いでいた時なら考えたかもしれませんが、今を乗り切るのに必死なのでとても買う余裕はありません。しかも自分に合うかどうかも分からない。それだったら、家にある物で代用して頑張ろうかなって」

外に出られない…

本来はスポーツ好きで活発なサクラさん。

しかし生理期間中はなるべく外出しないようにして、家に閉じこもるようになりました。
「友達と勉強しに図書館へ行きたくても、いつ漏れるか気が気じゃないので、なかなか出歩けません。家にいてもバスタオルを折ってその上に座ったりして、いかに洗えるものを汚す程度にとどめておけるかって、考えながら過ごしています」

「飯は食えているんだろう」理解してくれない父

父親と同居はしているものの、経済的にはほとんど自立し互いに干渉しない関係になってしまっているというサクラさん。高校や専門学校に進学するとき、生理が重すぎて動けなくなったとき、いつも父親には相談できずに一人で乗り切ってきました。

でも今回ばかりはどうにもならない。思い切って生理用品も買えないほど収入が激減していることを相談することにしました。

しかし、父親から返ってきたことばに絶句しました。
サクラさん
「生理用品買えなくても飯食えてるじゃんって言われました。あ、そっか…ってことばを続けられなかったです。でも生理は止められるものじゃないじゃないですか。ごはん食べれてるから経血は垂れ流しでいいのかって言われたら絶対そうじゃない。だけどそのときは父に言っても分かってくれないんだな、やっぱり言ってもしょうがないなって」

友達には相談できない

生理用品が買えないことをサクラさんは友達にも伝えていません。以前はたまたま手持ちを切らした時などには気軽に借りていましたが、今はとても言い出せないと言います。
「生理用品は友達にとっても生活必需品だし、みんなバイト代がなくなっていろいろ大変そうなので人からもらうのはハードル高いです。周りもまさか私が生理用品を使えていないって気付いていないと思います。身だしなみはちゃんとしてないとよけいな心配をかけちゃうので、化粧こそしないですけどちゃんと清潔な服装で人前に出るようにはしていますし」

生理は“取るに足らない”ことなんかじゃない

親しい友達にも話せない生理の問題。サクラさんは、困っている人が声をあげなければ問題がないことにされ、生理のある人の暮らしや尊厳までもがぞんざいに扱われるのではないかと感じています。

現状を少しでも変えるきっかけになればと、取材に応えてくれました。
サクラさん
「私自身これまでそうでしたが、生理は隠すべきもの恥じるべきものっていう考えがあって、自分から困っていることを言いだしにくい話題なんです。私だけでなく見かけは普通にしていても生理用品を節約する子は他にもいると思います。生理は定期的にやってくるもので、生理用品は生きていく上で食事と同じ生活必需品だということがもう少し理解され、支援してもらえればと思います」
サクラさんのように経済的な理由などで生理用品の入手に苦労する問題は「生理の貧困」として急速に関心が高まっています。

若者のグループ「#みんなの生理」がことしインターネットで行ったアンケートでは生理用品を買うのに苦労した生徒・学生がおよそ2割に上っています。

3月15日には東京・豊島区が区役所の窓口などで生理用品の無料配付を始めるなど、自治体レベルでの支援の動きも広がり始めました。

生理用品が不自由なく手に入る環境にあるかどうかは生活の質を大きく左右します。しかし、支援の必要性はほとんど議論されてこなかったように思います。

19歳のサクラさんが現代の日本で、勇気を出して訴えなければならないという現実。取材を通してこの課題と向き合わなければならないと感じています。