「わが社の黒歴史」エレコム “コンピューターに雪辱を”

「わが社の黒歴史」エレコム “コンピューターに雪辱を”
NHKでは、3月19日(金)午後11時15分~BSプレミアムにて、企業の過去の失敗=“黒歴史”を振り返りつつ、そこからヒントや教訓を探す番組、「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」を放送します。
そこで、今週のビジネス特集ではそのスピンオフ企画として、過去の“黒歴史”を教訓に今を生き抜く企業を2回シリーズで紹介します。「黒歴史とは、苦労(くろう)の歴史」。かつて逆風の下で歯を食いしばった先人たちの血と汗と涙の記憶から、混迷の時代を生き抜く教訓を、見つけ出そうじゃありませんか…

スピンオフ企画の2回目は、大阪に本社を置く「エレコム」。おなじみの卵形をしたパソコンのマウスを初めて世に出したIT周辺機器メーカーです。創業から30年余りの会社の歩みは、変化の激しいコンピューター業界の荒波に翻弄される“黒歴史”の連続。何度も訪れたピンチから得た教訓は、「変化に飛び込め」というものでした。

コンピューターに雪辱を

最初の“黒歴史”は、エレコム創業前夜までさかのぼります。

創業者で、いまも社長を務める葉田順治さん。大学卒業後の1977年、経営が厳しかった家業の製材所を継ぎ、再建に奔走します。

トンネル工事に使う「矢板」に力を入れ、いったんは経営が上向きましたが、急速に普及していたコンピューターによる新工法の登場で、「矢板」の需要は一気に消え去り、最終的に会社は倒産を余儀なくされました。
エレコム 葉田社長
「悔しかったですね。年間363日ぐらい、むちゃくちゃ働いたんですけど、うまくいかなくて。なんでこんなにうまくいかないんかなってずっと思って」
みずからを追い詰めたコンピューターに雪辱を!
葉田さんは、1986年にエレコムを創業。

デスクトップパソコンを収納するラックを主力に、パソコンの普及に合わせて、さまざまな周辺機器に手を広げ、売り上げは順調に伸びていきました。

パソコンブームで価格が暴落!

しかし、再び試練が訪れます。

「ウィンドウズ95」が発売され、一般の人たちにもパソコンブームが到来したころ、売り上げの半分を占める主力製品になっていたハードディスクの価格が、国内外のメーカーの競争激化で“暴落”したのです。
葉田社長
「売り上げ重視でガンガンイケイケで進めていて、損益管理ができていなかった。ふたを開けてみれば、7億円の大赤字ということで、ぽかぽかの春陽気からいきなり氷点下50度ぐらいになりましてね。世間の目も変わりましたし、社員も辞めていきました。自分が悪いのですが」

ノート型という脅威

ピンチは立て続けに襲いかかります。ノート型パソコンの台頭で、創業以来の主力製品であるデスクトップ用のラックの売り上げが激減したのです。

家業に続いて再び、倒産の悪夢も頭をよぎる中、葉田さんはノートパソコン向けの製品開発に取り組みました。
葉田社長
「ノートパソコンが出た時には、会社がつぶれるかなと思いました。もう死に物狂いで、ノート用のバッグとか、小さなマウスとか、需要をキャッチアップしようと。とにかくやらざるをえなかったです」

変化の兆しをつかむ

価格の急落に、市場を大きく塗り替える新製品。いずれも、会社を揺るがす大ピンチ。

そんな相次ぐ“黒歴史”から葉田さんが得た教訓は、ビジネスが好調な中にあっても、「変化の兆しを早くつかむ」ことです。

例えば葉田さんはアップルの「iPhone」が登場する数年前に、スマートフォンの可能性を確信したといいます。アメリカ出張の機内で、ブラックベリーというメーカーのスマホを使う乗客の姿を見て、新時代を予感したといいます。
葉田社長
「『もうこれや』と思いましたね。便利じゃないですか、圧倒的に。社員には、会社に来たら『おはようございまスマートフォン』、帰る時は『おつかれさまでスマートフォン』と言うようにと。絶対に時代が来るからと。まあ、誰も言わなかったんですけどね」。

変化に飛び込め!

社内のあいさつは思うように浸透しませんでしたが、充電器やスマホのケースなど関連製品の生産体制をいち早く整備。国内でスマホが普及した時には、他社より大きな売り場を確保できるようになっていたといいます。

スマホは次々と新しいモデルが発売されるので、在庫が何億円もむだになってしまうこともあるといいますが、葉田さんは損が出たとしても、変化に合わせてビジネスモデルをつくっていくしかないと考えています。
葉田社長
「変化に対応するのが経営であって、ぐちぐち言ってもしょうがないです。変化に飛び込んでいくいうんですか、それしか生きる道ないですよね」

コロナの時代にも対応を

世界中の暮らしや経済を一変させた新型コロナウイルス。
エレコムの経営にも影響は及びましたが、葉田さんは、この変化も新たなニーズを捉える機会と、製品開発を進めています。

在宅勤務に使うウェブカメラ用のスタンドや、マスクを1枚ずつ取り出せるケース。逆境や変化をおそれず、会社の成長につなげようと、葉田さんは意気込みます。
葉田社長
「常に前を見て、成長のチャンスをうかがう。すると、変化は当たり前ということになってきます。『百尺竿頭(ひゃくしゃくかんとう)に1歩を進む』ということばがありますが、1センチでも1ミリでも努力しておくことではないでしょうか。うちの会社には『成長』することはあっても『成功』することはないんです」
大阪放送局
甲木智和
2007年入局。
経済部で金融業界などを取材し、現在、大阪局で経済担当。