放射性廃棄物という難題

放射性廃棄物という難題
東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年。原発の構内では、地道な廃炉作業が続けられています。その最大の難関とされているのは、溶け落ちた核燃料の取り出しですが、実はもうひとつ「放射性廃棄物」をどう処分するのかという困難な問題があります。国は廃炉を最長40年で終えるとしています。しかし廃棄物の処分の仕方によっては廃炉を終えて敷地を再利用できるまでには100年から300年の期間が必要という試算もあります。国民的な議論が求められています。廃炉への道に立ちふさがる大量の放射性廃棄物の問題とはいったいどんなものなのか、記者とディレクターによる取材班が現場の作業に密着しました。(NHKスペシャル「廃炉への道」取材班)

“場合によっては300年も”大量の放射性廃棄物

福島第一原発の廃炉作業にともない発生する放射性廃棄物。今後、廃炉作業が進む中でより多く発生していきます。

福島第一原発はそのほかの原発と異なり事故を起こしたことから大量の放射性物質が拡散しました。原子炉がある原子炉建屋の中だけでなく、敷地の建物や道路、それに土や木々などにも放射性物質が付着して汚染されました。このため、福島第一原発の廃炉を進め、放射線の影響がないさら地に戻そうとすれば、大量の放射性廃棄物が発生することになるのです。
そもそも、放射性廃棄物はどれくらいの量になるのか。その量の推計を試みた研究者がいます。

大手建設会社で放射性廃棄物の処分を研究していた河村秀紀さんです。河村さんはアメリカにある同じタイプの原発の資料などをもとにその発生量を推計し論文にまとめました。

それによりますと、廃棄物の減量などの対策を何も行わなかった場合、その総量はおよそ780万トンにものぼるとの試算結果がでました。これは、福島第一原発と同じタイプの原発で発電出力が110万キロワット級の比較的新しい原発を廃炉にした場合と比較するとなんとおよそ600基分にも相当する量です。

そしてこの論文をもとにしてまとめられた報告書が注目されることになります。放射性廃棄物の問題や廃炉の最終形について議論を続けてきた原子力などの専門家で作る日本原子力学会の報告書です。去年7月、公表されました。原子力学会はこの中で廃炉の最終形についていくつかのシナリオを素案として初めて提示したのです。

専門家たちはいったいどんなシナリオがありえると考えたのか。報告書では福島第一原発の施設を『すべて撤去してさら地にする場合』と『地下にある構造物は残して管理する場合』とに大きく2つに分けて考えています。その上で、廃炉の進め方や廃棄物の処分の仕方によって、発生する廃棄物の量が大きく異なり、敷地を利用できるようになるまでの期間も大きく変わってくると指摘しています。

廃炉作業で、溶け落ちた核燃料、いわゆる燃料デブリをすべて取り出すことができるかどうかは現時点でまだ技術的な見通しが立っていませんが、シナリオは仮に取り出しを終えることが出来たとの前提で作られました。

デブリを取り出したあとすぐに建屋などの解体を始め、発生する廃棄物をすべて撤去するシナリオでは、敷地を再利用できるまでには100年程度かかると推定され、処分が必要な放射性廃棄物はおよそ760万トンと試算されました。(水処理施設で発生する廃棄物を除く)
一方、建屋の地上部分は撤去するものの、地下の構造物やその周辺の汚染された土壌を残す場合では、残した地下の構造物やその周辺は土やモルタルで埋め、立ち入りを制限して放射線量を監視しながら管理することになります。この場合、廃棄物の量はおよそ440万トンに減らすことができますが地下部分の放射線量が十分に下がるまで300年程度、管理が必要なります。

さらに、デブリを取り出したあと、放射線量を下げるため一定期間を置いた上で、地上部分だけを撤去する場合は 廃棄物をおよそ110万トンにまで減らせると試算されています。
原子力学会は、これらのシナリオはあくまで例であり、ほかにも選択肢がありうるとした上で、大量の放射性廃棄物をどこでどのように処分するのか、福島だけでなく国民全体で考えるべきだとしています。

いずれにしても、原子力学会が示したシナリオでは福島第一原発の敷地を再び利用できるようになるまでには大量の放射性廃棄物をどうするのかという問題が立ちはだかり、多くの時間と労力がかかることを一定の科学的な根拠をもって突きつけました。

国は、原子力学会が示したこれらのシナリオをどう受け止めているのか。

取材をしたところ、国と東京電力が示しているロードマップは廃炉の手順の想定が学会のものと違うため、一概に比較はできないとした上で、国は次のように回答しました。
「炉内状況の把握や廃棄物の処理・処分の検討状況など、不確定要素が多い状態であり、まだ具体的な絵姿を示せる状況にありません。今後、検討を深めていくことが必要です。国としては、廃棄物が適切に処分されるよう、最後まで責任をもって対応していきます」
国は、最長40年で廃炉を終えるとしていますが、放射性廃棄物がどれだけの量発生しどこに持ち出し、どのように処分するのかなど、廃炉の最終形については、これまでのところ具体的に示していません。

未知の放射性廃棄物分析は途上

福島第一原発で発生する大量の放射性廃棄物。その処分の方針を決めるために欠かせないのが廃棄物に含まれる放射性物質の詳しい分析だといいます。

セシウムやウランやプルトニウムなど放射性物質は種類によって放射線を出し続ける期間が異なります。また放射性物質は時間の経過とともに放出する放射線量が徐々に減っていく特徴をもっています。
少し詳しい言葉を使うと、放射線の量が元々の量の半分に減るまでにかかる時間を「半減期」と呼びます。

セシウム137の半減期はおよそ30年。30年で元の放射線量の半分になります。プルトニウム239は半減期が2万4千年。半分の放射線量になるまでに2万4千年もかかります。放射性物質によって半減期は異なり、また出す放射線の種類や強さも異なるのです。

こうした特徴を把握した上で廃棄物を閉じ込める容器の厚さを設計し、地下に埋める場合にはその深さを検討することになるのです。つまり、廃棄物ごとに含まれる放射性物質を詳しく分析しておかなければ、どのような保管が適切か、またどのくらいの間管理が必要かなど、的確なプランが立てられないと言います。

今後は毎年200種類分析

この分析を中心的に進めてきたのが日本原子力研究開発機構です。
事故直後の2011年から福島第一原発を技術者たちが訪れ、様々な放射性物質のサンプルを採取してきました。敷地の土や樹木、原子炉建屋内部のコンクリートなどこれまで分析したサンプルは400種類に及びます。しかし、これでも分析は足りていないといいます。
担当する日本原子力研究開発機構の駒義和ディビジョン長が分析に関わる作業の難しさについて説明をしてくれました。

汚染水処理に伴って発生する極めて複雑な廃棄物

駒さんのチームが現在、取り組んでいる廃棄物の1つが汚染水を処理した後にでる廃棄物です。

福島第一原発では原子炉や格納容器の中に残るデブリを冷却するため常時、注水が続けられていて、これが汚染水となります。汚染水は放射性物質を取り除く装置を通してセシウムやストロンチウムなどを多くの放射性物質を除去しています。
その中心的な装置の1つが通称ALPS(アルプス)と呼ばれる「多核種除去設備」。62種類の放射性物質を取り除く能力があります。ALPSには、多様な放射性物質を取り除くために、多層式のフィルターが取り付けてあります。このフィルターは使い終わると当然放射性物質が付着しているため放射性廃棄物となります。
駒さんのチームではどの種類の放射性物質がどれだけフィルターに着いているか1つ1つ分析しています。サンプルを硝酸で溶解し、放射性物質の種類ごとに取り出して計測していきます。1つのサンプルを分析するだけで1週間以上かかるといいます。

今回、私たちはこのフィルターを交換する作業も取材することが出来ました。
ALPSで使用されたフィルターは円筒形をした専用の容器に移され厳重に保管されます。放射線のリスクがあるため取り出す際には放射線量を計測します。そして専用の容器はさらに周囲を鉛の板で囲って保管場所に運搬します。放射線を遮蔽するためです。

ここまで厳重に管理した形で保管される容器。すでに3702個(2月4日時点)の容器にフィルターが収められています。容器の数は汚染水を処理する限り今後も増え続けるのです。そして将来的にどこにどのように処分するかを決めなければなりません。放射性廃棄物の適切な処分に欠かせない分析作業は多くの時間と手間がかかるのです。

駒さんは分析作業には今後も様々な困難があると話します。
日本原子力研究開発機構 駒義和ディビジョン長
「実は事故当時の汚染水と10年たった今の汚染水では含まれる放射性物質もかなり違ってきていて分析をする上では課題となっています。さらに今後は極めて強い放射線が計測されている格納容器内部のデブリなどのサンプルの取得も行う必要があります。これは簡単ではありません。そもそも放射性廃棄物はそれ自体が放射線を出すのでアクセスがしにくいというのが根本的にあり、作業を難しくしているのです」

福島県だけの問題ではない事故の後始末「廃炉」の責任は

今回、取材で見えてきた廃炉で発生する大量の放射性廃棄物の課題。地元の自治体は、速やかにすべての放射性廃棄物を撤去し、県外で処分することを求めています。

半世紀近くにわたり、福島第一原発が生み出してきた大量の電力は首都圏で消費され、日本の経済を支えてきました。その原発の後始末をどうするのか。福島県だけでなく、社会全体の問題として受け止め、向き合っていく必要があるといえます。

そしてそれは世代を超えて継続していかなければならないかもしれません。NHKでは今後も取材を続け、その実像を伝えていきます。
科学文化部記者
阿部智己
2008年入局。福井局・札幌局を経て
2015年から現職
現在は原子力分野を担当
科学文化部記者
長谷川拓
2014年入局
福島放送局で震災・原発事故からの復興を取材
2019年から科学文化部で原子力分野を担当
制作局第3制作ユニット
チーフプロデューサー
藤川正浩
1992年入局
2010年より現職
福島第一原発事故直後から関連取材継続中
仙台放送局チーフディレクター
鈴木章雄
2000年入局
2019年より現職
福島第一原発を取材