バナナを悩ます もう一つの“感染拡大”

バナナを悩ます もう一つの“感染拡大”
在宅ワークの増加で、おやつでバナナを食べる機会が増えたという人も多いかもしれません。実は私たちに身近なバナナにも、ある病気の感染が広がっているんです。いったいどんな病気なのか?食卓のバナナはどうなるのでしょうか?
(ネットワーク報道部記者 谷井実穂子 吉永なつみ 斉藤直哉)

コロナ禍でバナナに注目

最近、バナナジュースやスムージーを扱う店を街中でよく見かけますよね。

タピオカドリンクの次にトレンドになるのではとSNS上でも話題になっていて、健康志向の高まりで栄養価の高いバナナへの注目が高まっています。
青果店でも、いまバナナが売れているといいます。

「八百屋にとってバナナとは、食卓で言えば白米みたいな存在ですよ。一年中、売り場に欠かせません」
こう話すのは、東京・北区の青果店「スターフルーツ駒込店」の上岡勝さん。
平日の午前中に店を訪ねると、軒下の一角には、山と積まれたバナナのケースがありました。

上岡さんによると、外食が減って料理をする機会が増えたためか、新型コロナが流行する前と比べて来店客が2割近く増えています。

まっさきにバナナを買い求める子連れ客、野菜のついでに買う高齢者とさまざまですが、バナナケースの前では多くの客が立ち止まります。
多い日だと1日に560房が売り切れるそうです。

80代の女性は「コロナもあるので毎日1本は食べてます」と話していました。

バナナの輸入価格 なぜ上昇?

手ごろな価格や栄養価の高さで人気が高まっているバナナ。
その販売価格は、昭和40年以降、半世紀余りにわたってほどんど変わっていませんでした。
しかし、9年前に212円(1キロ当たり)だった価格は、おととしには270円と少し値上がりしています。※総務省統計局の家計調査より

背景にあるのが輸入価格の高騰です。
バナナの輸入量は20年間ほぼ一定ですが、2000年に593億円だった輸入金額は、去年(2020年)は1052億円と2倍近くに増加し、過去最高を記録しました。

バナナの輸入企業などでつくる日本バナナ輸入組合によると、消費拡大が著しい中国との購買競争に加え、バナナがかかる「新パナマ病」と呼ばれる病気が、フィリピンなどで広がっているため高騰しているといいます。
日本バナナ輸入組合 明石英次事務局長
「原価が上昇する中でも企業努力で価格を安定させています。今後すぐに価格が跳ね上がることはないと考えていますが、企業側の努力がさらに求められています」

繰り返すバナナの病気 その原因は

あまり聞いたことがない「新パナマ病」。

病名に「新」とついていることからもわかるように、バナナの病気の流行は、これまでにもありました。

1950年代から1960年代にかけて、バナナの栽培は酸味を残した「グロス・ミシェル」という品種が主流でした。

しかし、「パナマ病」という病気にやられほぼ壊滅状態に。

研究を行う東京農工大学の有江力教授によると、「パナマ病」は土の中に生息するカビの一種を根から吸い上げることで、バナナの木全体が枯れてしまう病気です。
こうした中で、白羽の矢が立ったのが日本にも輸入され、いま私たちが食べている「キャベンディッシュ」という新品種です。

「パナマ病」の病原菌に強いため、フィリピンなど世界各地の大規模農場で栽培が行われるようになりました。

しかし、半世紀近くたった今度はこの「キャベンディッシュ」でも病気が見つかります。

これが「新パナマ病」で、木が枯れてしまうためバナナの収穫ができなくなってしまうのです。

ただ、感染してもそもそも実が育たないので、病気のバナナが日本などに出荷されることはないといいます。
有江教授
「世界的に『キャベンディッシュ』ばかりを栽培していたことが、『新パナマ病』の被害拡大につながりました。広大な農地で、単一品種を大量に生産する『プランテーション』は効率はよいのですが、ひとたび病原菌が入ると一気にやられてしまいます」

病気が広がり放棄される農園も

バナナの輸入販売を手がける「ユニフルーティージャパン」の奥井慶樹さんによると、数年前に新パナマ病が世界的に問題になってから生産者は封じ込めなどの対策を行っているものの、被害は広がっています。

日本で流通する7割近くのバナナを生産するフィリピンから、国外への去年のバナナの輸出量は、おととしと比べておよそ2割減少していて、病気の広がったバナナ農園を放棄するケースも出ているといいます。

このため、「キャベンディッシュ」の別の品種に植え替えるなどの対応をとっています。
ユニフルーティージャパン 奥井慶樹さん
「病気に強いだけでなく食味のいい品種を選抜しています。これからもフィリピン産バナナを安定的に食卓に届けられるよう努力していきます」

バナナの病気 どう向き合う

「新パナマ病」が流行する中で、どうすればバナナを守れるのか。
病気に強い品種の改良が行われていますが、まだ流通のめどは立っていません。

東京農工大学の有江教授に尋ねると「バナナに種がないことが大きい」と教えてくれました。
東京農工大学 有江力教授
「野生のバナナと違って今食べているバナナには種がありません。トマトなど、一般的な食物の品種改良は交配で行われますが、種のないバナナではそれが難しいのです。このため、中国や台湾、オランダなどでは、遺伝子組み換えやゲノム編集も行われていますが簡単ではありません」
東南アジアなどを中心に拡大してきた「新パナマ病」は、去年の夏、南米ではじめてコロンビアで確認されました。

バナナの生産が盛んな地域は国境を越えて陸続きでつながっているため、予断を許さない状況だといいます。

新パナマ病に感染してもバナナが育たないため人体には影響ありませんが、有江教授は安定的な供給を守っていくためには、病気の拡大防止のための防疫を徹底していくことが、当面の間、最優先の課題だと指摘しています。

そして、病気にかかった植物が出たらそのたびに焼いて駆除していくことが、現実的な対応策だとしています。
東京農工大学 有江力教授
「安定的な供給のためにはしかたないのですが、バナナに代表される農作物の栽培環境は、コロナで例えると『密』そのものです。病気に弱い品種が、密集して栽培されています。ひとたび病気が入ると一気に拡大してしまう。これは、人間の作り上げてきた効率的なシステムの欠点だと思います」

超高級国産バナナ 参入相次ぐ

これまで、バナナのほとんどを海外産に依存してきた日本の食卓。

実はいま国内で、バナナを栽培する動きが広がっています。

今のところ日本で、「新パナマ病」は確認されていません。

岡山県の農業法人が、寒さに強いバナナの苗を開発したことをきっかけに、“南国”のイメージの強いバナナの栽培が、北海道や東北など寒冷地を含む全国各地で行われるようになったのです。

このうちの1つ、秋田県美郷町の「秋田食産」は、3年前からバナナの栽培を始めました。
無農薬で皮まで食べられるのが売りで、価格は1本800円。

外国産バナナの代替となることは目指してはいないものの、国産バナナの出荷を増やしていきたいと考えています。
佐藤社長
「私たち単体では出荷量が少ないので、東京のデパートなどではなかなか取り扱ってもらえません。各地の生産者と連携して、栽培方法のノウハウを共有し国産バナナのブランド化を図り、広く流通させていきたいです」

食卓のバナナは貴重だった

これまで当たり前のように食べてきたバナナですが、取材を通じて「全然、当たり前ではない」現実が見えてきました。
病気に強い新しい品種はいつ開発されるのか、それまでの間に、防疫を徹底して産地を守ることはできるのか。ギリギリの攻防が続いています。
バナナを食べる時、新型コロナの陰で起きている“バナナ・パンデミック”を思い出してみたいと思います。