痕跡調査で浮かぶ「スーパーサイクル」 “超”巨大地震の周期

東日本大震災の発生で、地震や津波の想定は大きな見直しを迫られました。過去の痕跡の調査から浮かび上がってきたのは、数十年から100年単位で起きる大地震の周期とは別に、広域に甚大な被害をもたらす“超”巨大地震ともいえる地震が数百年単位で起きる、「スーパーサイクル」という周期の存在です。この10年の研究で、日本の沿岸の各地に「スーパーサイクル」が存在し、しかも、発生が切迫しているおそれのある場所も見えてきています。

産業技術総合研究所の宍倉正展研究グループ長は、東日本大震災の直前、過去の地層からかつてどのような津波が襲ったかを推測する津波堆積物の調査などから、当時想定されていた大地震をはるかに上回る、「スーパーサイクル」の巨大地震と大津波が東北の沿岸に切迫していると考え対策の必要性を訴えていました。

しかし、その知見は生かされないまま東日本大震災が発生しました。

南海トラフ・次の地震がスーパーサイクルか

「スーパーサイクル」の巨大地震や大津波のリスクが各地にあると考えた宍倉グループ長は、地震の規模や起こるメカニズムについてわかっていないことも多い、南海トラフの地震について、過去の痕跡を調べました。

震源域のほぼ中央に位置する紀伊半島の和歌山県串本町などでフジツボやゴカイなどの海辺の生物の化石のかたまりが異なる高さで相次いで見つかったことに注目。
およそ5500年分の化石の年代を調べたところ、おおむね400年から600年の周期で地盤が大きく隆起し、巨大地震が起きていた可能性が高いことを突き止めました。

宍倉グループ長は、最後に発生した「スーパーサイクル」の巨大地震が1707年の「宝永地震」で、すでに300年以上がたっていることから次に起きる地震は、広域に甚大な被害をもたらす「スーパーサイクル」の巨大地震となる可能性があると考えています。

千島海溝・スーパーサイクル切迫か

さらに、「スーパーサイクル」の巨大地震が切迫しているとみられるのが、北海道の沖合にある「千島海溝」です。

産業技術総合研究所が過去6500年分の津波堆積物を調べた結果、大津波をもたらす巨大地震が平均で350年前後に1度、繰り返し起きていたとみられることがわかりました。
千島海溝については、国の地震調査研究推進本部も津波の想定を発表し、マグニチュード9クラスの巨大地震が「切迫している可能性が高い」としていますが、宍倉グループ長も「前回からすでに400年程度が経過しており、もはや、いつ起きてもおかしくない」と警鐘を鳴らしています。
さらに、関東の房総半島の沖合でも、スーパーサイクルにあたる巨大地震が起きていた可能性があるとして、今後、調査を進めることにしています。
宍倉グループ長は「東日本大震災は『間に合わなかった』という思いで悔しかった。研究成果はいち早く社会に広め防災対応に生かしてもらう必要性を痛感した。過去に繰り返しスーパーサイクルによる巨大地震が起きていた事実を自治体関係者など多くの人に理解してもらい、社会全体の防災対応を前に進めていくことが我々に課された使命だと思っている」と話しています。

南海トラフのスーパーサイクル・化石が証明

南海トラフでの「スーパーサイクル」のメカニズムを突き止める上で宍倉グループ長が注目したのが紀伊半島の先端部分でみつかったフジツボやゴカイなどの海辺に生息する生物の化石です。

南海トラフのプレート境界では、ふだん陸側のプレートがゆっくりと“沈み込み”、地震が起きると、先端の部分が急激に跳ね上がります。

先端の地盤はこのとき“隆起”します。

フジツボやゴカイは海面付近の岩場などに生息しているため、岩場ごと隆起すると生きることができず、化石となります。

宍倉グループ長は和歌山県串本町を中心に30か所以上で化石を採取。

それぞれの化石は層のように積み重なっていて、90年から150年ほどの間隔で3つの層を持つ化石も見つかりました。

これは地盤の“隆起”と“沈み込み”の繰り返し、つまり、過去の大地震を記録していると考えられています。

離れた場所の化石・スーパーサイクルの“物差し”に

さらに宍倉グループ長が注目したのは、この、層状に積み重なった化石がさらに標高の高い場所から相次いで見つかったことです。

「スーパーサイクル」の巨大地震が起きると、“隆起”の規模も大きくなります。

このため化石の高さの差が「スーパーサイクル」を知るいわば“物差し”にあたると考えたのです。

さまざまな場所から集めた過去およそ5500年分の化石を分析したところ少なくとも7回、ふだんの大地震とは明らかに異なる「スーパーサイクル」の巨大地震の地盤の“隆起”を確認。

その周期はおよそ400年から600年だったことを突き止めました。

さらに、最近の観測では紀伊半島の地下20キロから30キロでプレート境界がゆっくりとずれ動く、「スロースリップ」がこの地域では起きていないことが確認され、地下のプレートどうしがしっかりくっついているとみられています。

このため「スーパーサイクル」の巨大地震の時だけ広い範囲が一気にずれ動いて地盤が大きく隆起すると考えられています。

▽江戸時代の1854年と▽昭和の1944年と46年に起きた南海トラフ地震の痕跡を示す化石は見つかっておらず、最後に発生した「スーパーサイクル」の巨大地震は1707年に起きた宝永地震だとみられています。

宍倉グループ長は、すでに300年以上がたっていることから、次の地震が「スーパーサイクル」の巨大地震になる可能性があるとみて、「最悪に備えた対策を進めていく必要がある」としています。

千島海溝の切迫度は

「スーパーサイクル」による巨大地震の発生が特に切迫していると考えられているのが、北海道東部の沖合の「千島海溝」です。

「千島海溝」では▽1973年(昭和48年)の「根室半島沖地震」や▽1952年(昭和27年)と2003年(平成15年)の「十勝沖地震」など根室沖と十勝沖で平均して70年前後の間隔で津波を伴うような巨大地震が繰り返し起きています。

一方、津波堆積物の調査からは、17世紀にはこれらの地震の規模をはるかに上回る巨大地震が起き、大津波が押し寄せていたことがわかってきました。

過去6500年分の津波堆積物の調査から千島海溝での「スーパーサイクル」は平均して350年前後で、前回の巨大地震からすでに400年程度が経過していることから、政府の地震調査研究推進本部は、千島海溝では、次の巨大地震の発生が「切迫している可能性が高い」としています。

去年(2020)国が公表した想定では巨大地震の規模は最大でマグニチュード9.3とされ、津波の高さは、北海道東部の広い範囲で20メートルを超えるとされました。

国は現在、被害想定の検討を進めています。

また産業技術総合研究所の宍倉正展グループ長は関東では房総半島の▽東の沖合にある日本海溝沿いや、▽南の沖合にある相模トラフでも「スーパーサイクル」にあたる巨大地震が繰り返し起きている可能性があるとして、今後、調査を進めることにしています。

東日本大震災もスーパーサイクルで発生

10年前に巨大地震が起きた東北沖でも600年程度の「スーパーサイクル」があると考えられています。

青森県東方沖から房総沖にかけての「日本海溝」沿いでは過去繰り返し大きな地震が発生していて、東日本大震災の発生前は、およそ30年に1度発生するマグニチュード7クラスの宮城県沖地震をはじめ、三陸沖の地震など、複数の領域で、それぞれ数十年から百年程度に1度起きると考えられてきました。

一方、津波堆積物などの調査結果から宍倉グループ長は、複数の領域が一気にずれ動くような巨大地震が600年程度の間隔で繰り返し起きていた可能性が高いと考えていました。

東日本大震災の直前、宍倉グループ長は最後の「スーパーサイクル」よる巨大地震が15世紀ごろで、すでに600年程度が経過して切迫した状況だとして、想定に加えるよう訴えていたのです。

現在、国の地震調査研究推進本部は、岩手県沖南部から茨城県沖の領域全体が一気にずれ動くマグニチュード9程度の巨大地震は、平均で550年から600年に1度の間隔で発生しているとしています。

一方、「日本海溝」のうち、北海道の南の沖合から岩手県の沖合にかけての領域でも「スーパーサイクル」があるという指摘があり国はマグニチュード9.1の巨大地震の想定を公表しています。

スーパーサイクル・どう備えたら

南海トラフや千島海溝では国も“最悪ケース”としての被害想定をすでに発表したり、現在、検討を進めたりしています。

国や自治体も対策を進めていますが、起こりうる地震や津波の規模は大きくすべてをハードで守りきるのは難しいといえます。

東日本大震災の教訓を改めて思い起こし、地域のリスクにあわせた避難場所や避難方法を決めておいてください。

また、被災した状況を具体的にイメージし、事前にどのように復興するかを決めたり、課題をまとめたりする、「事前復興」の取り組みを進めておくことも重要です。