インスリン用注射器でファイザーのワクチン 7回接種も可能に

新型コロナウイルスのワクチン接種について、京都府宇治市の病院はインスリン用の注射器を使用すれば1つの容器から想定よりも多い7回分の接種ができるとして、この注射器を使った医療従事者への接種を始めています。

本格的に始まった医療従事者へのワクチンの優先接種で、宇治市にある宇治徳洲会病院は、糖尿病の治療などで使われるインスリンを投与する注射器を使うことで、1つの容器から7回分の接種を行っています。

ファイザーのワクチンは、1つの容器に生理食塩水を加えて、2.25ミリリットルに希釈したうえで、注射器で1回分の量を吸い出して筋肉注射を行うことになっています。

1回の接種に必要な量は0.3ミリリットルで、計算上は1つの容器で7回分ありますが、通常の注射器では先端に液体が残るため5回分、特殊な注射器でも6回分しか取れません。
一方、インスリン用の注射器は液体が中にほとんど残らない構造になっているため7回分取ることができるということです。

インスリン用注射器 使える条件は

新型コロナウイルスのワクチン接種は皮下脂肪のさらに奥にある筋肉に打つ「筋肉注射」で行われますが、京都府宇治市の宇治徳洲会病院が使っているインスリン用の注射器は、針の長さがおよそ13ミリで、通常の注射器の半分ほどしかありません。

このため病院では、医師や看護師が接種を受ける前に30秒ほどエコー検査を行って腕の皮下脂肪の厚さを測り、10ミリを下回ることが確認できた人に限って使用するという条件を設けています。
この病院では1257人が接種を希望していて届いたワクチンの量を容器1つあたり5回で換算すると975回分と不足していますが、すべて7回で換算した場合は1365回分になります。

病院によりますと、8日までに接種を受けた人のおよそ85%が条件を満たしてインスリン用の注射器を使用できたということで、同じような割合だとすると、次のワクチンが届く前に希望者全員が接種できるということです。

また、ワクチン1つの容器から7回分取るのにすべてインスリン用の注射器を使う必要はなく、このうち最大で2回分は通常の注射器で取ることもできるということで、エコー検査の結果、条件を満たさなかった人への接種も並行して実施できるとしています。

接種を受けた医療従事者 「ワクチン不足に貢献か」

8日、接種した259人のうち222人でこの注射器を使用したということで、病院は、「ワクチン量が限られている中、希望する人ができるだけ接種できるような方法を模索していきたい」としています。

インスリン用の注射器でワクチンの接種を受けた20代の女性看護師は、「針が細く小さいので、思っていたほど痛みがなかったというのが正直な感想です。危険な方法でないのであれば、ワクチン不足に貢献できるのでいいのではと思います」と話していました。

また、60代の男性医師は、「ほとんどの人がこの注射器を使える対象に含まれると思います。ワクチンをできるだけ有効に使うべきだと思うので、理にかなった手法だと思います」と話していました。

宇治徳洲会病院 末吉院長「多くの人にワクチンが届けば」

宇治徳洲会病院の末吉敦院長は、「ワクチンの到着を待ち望んでいる施設も多いので、この手法を広く知ってもらい、たくさんの人にワクチンが届くようになればと思っている。余ったワクチンを他の希望者に回せるような形を日本全体で作れたらいい」と話していました。

京都府 「行政として対応を制限せず」

京都府によりますと、医療従事者などを対象にした優先接種向けとして、先週までに国から府内12の医療機関にワクチンと合わせて注射針とシリンジも供給されています。

供給された注射針とシリンジは、1つのワクチンの容器から5回分接種できるもので、今回、供給されたのはおよそ1万人分にあたります。

府全体の対象者はこれまでのところ医師や看護師、救急隊員など9万8000人あまりで、多くの医療機関が国からのワクチンの配布を待っている状態です。

宇治徳洲会病院が発表した1つの容器から7回の接種を行う方法について、京都府は「医師が必要性や有効性を判断して行った行為であり、行政として対応を制限するものではない。一方で、筋肉まで届く人でなければ対応できないなど制約もあり、今のところ、ほかの医療機関に薦められるものかどうか判断できない」としています。

専門家 「大勢に接種進める必要 現実的ではない」

ファイザー製のワクチンにインスリン用の注射器を使って1つの容器から7回分採取することについてワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は「インスリン用の注射器は針が短く、エコーで確認しながらであれば正しく注射できるとは思うが、大勢の人に接種を進める必要がある中で現実的ではないのではないか。全国的にみんなでこの手法を採用しようというものではない。あくまでも大切なのは何回、打てるかではなく正しく筋肉注射ができるかということだ」と話していました。

テルモ 7回接種可能な注射器 生産へ

アメリカの製薬大手、ファイザーなどが開発した新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、医療機器メーカーのテルモが1つの容器から7回の接種ができるという新しい注射器の生産を始めることになりました。

ファイザーとドイツ企業のビオンテックが開発したワクチンをめぐっては、接種回数を増やすため、1つの容器から6回の接種ができる特殊な注射器の確保が課題となっています。

こうした中、医療機器メーカーのテルモは1つの容器から7回の接種ができるという新しい注射器の生産を3月下旬にも始めると明らかにしました。

新しい注射器は、2009年に感染が広がった新型インフルエンザ用に作られた注射器に改良を加えたもので、▼針を長くして「筋肉注射」に適した16ミリとしたほか、▼針と薬液を入れる本体部分がはじめから一体となっている構造です。

会社は注射器の中に薬液が残りにくく無駄なく接種できるとしていて、3月5日に厚生労働省から製造と販売の承認を得たということです。

山梨県の工場ではすでに量産の準備を進めていて、3月下旬から来年3月にかけて2000万本を生産する計画です。

テルモの冨田剛上席執行役員は「多くの需要が予想されることから、生産開始後はすみやかに設備の増強を進めたい」と話しています。