変異ウイルス検査 1都3県で感染発表の1割にとどまる… 理由は?

イギリスなど海外で広がる変異した新型コロナウイルスは国内でどこまで検査されているのか。緊急事態宣言が延長された首都圏の1都3県で、先月末までの1週間に400人余りに変異ウイルスの検査が行われたことがわかりました。

これは、この期間に発表された新規感染者の1割ほどの数…。専門家は「検査などの監視体制をさらに強化する必要がある」と指摘しています。なぜ、このような事態になっているのでしょうか。

全国20都府県 計194人から検出(空港検疫除く)

海外で猛威をふるう変異ウイルスはこれまでより感染力が強いと考えられていて、今後の国内の感染状況を大きく左右するとも言われています。

国内では、今月5日までに空港の検疫を除いて全国20の都府県で合わせて194人から変異ウイルスが検出されています。

検査の仕組みとは?

そもそも変異ウイルスはどのような体制で検査しているのか、その仕組みです。
まず、自治体が新型コロナの陽性者のうち一部の人を抽出して原則、地方衛生研究所でPCR検査による分析を行います。
自治体の検査で変異ウイルスの疑いが出た場合、国立感染症研究所に検体を送ってゲノム解析を行い結果を確定させてきました。

1都3県 検査は新規感染者発表の約1割

変異ウイルスの検査はすべての感染者に対して行われているわけではなく自治体が一部の人を抽出して行っているため、感染者をすべて見つけられていない可能性があります。

今回、NHKは緊急事態宣言が延長された東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県を対象に、変異ウイルスの検査がどれくらい行われたのかを調査しました。

その結果、1都3県全体では先月28日までの1週間に合わせて418人に変異ウイルスの検査が実施されていたことがわかりました。

これは、この期間に発表された新規感染者の1割ほどの数となります。

ただ、実際は変異ウイルスの検査は感染が確認されてからしばらくたって実施されることもあり、この期間の検査率を示す数字ではありません。
都県別では、
▽東京は149人を検査し、変異ウイルスが確認された人はいませんでした。
▽神奈川は43人を検査し、最終的な結果はまだ出ていません。
▽埼玉は44人を検査し、変異ウイルスが確認された人はいませんでした。
▽千葉は182人を検査し、このうち1人が変異ウイルスに感染していることがわかりました。

検査 一部にとどまる “体制整備の途中” “検体保存されず”…

国は自治体に対して新規感染者の5%から10%を目安に検体を抽出して調べるよう求めています。

変異ウイルスの検査について自治体からは、
▽まだ体制を整えている途中であることに加えて、
▽そもそも検体が保存されていなかったり収集できていなかったりするケースや、
▽確定検査ができるほどウイルスの遺伝子の量が十分でない検体もあることなどが課題にあがっています。

一方で、いずれの地域も今後、変異ウイルスの検査体制を強化したいとしています。

また、厚生労働省によりますとこれから順次、自治体の検査だけでも結果を確定していくということです。

変異ウイルスが確認された自治体の中には検体を抽出する割合を増やして検査を広げるところも出てきています。

国内の感染の広がりは?

イギリスなど海外で広がる変異した新型コロナウイルスは国内では去年12月に初めて見つかり、それ以降、徐々に感染が拡大しています。今月5日までに確認された地域は合わせて20の都府県にのぼっています。
国内で最初に変異ウイルスが確認されたのは去年の12月25日。イギリスを出て羽田空港や関西空港に到着した5人から検出されました。

その翌日には、東京都で空港の検疫以外では初めて変異ウイルスが確認されました。

年が明けた1月、
▽6日には兵庫県、
▽18日には静岡県、
▽28日には埼玉県で、
空港の検疫以外では初めて変異ウイルスが確認されました。

この時期になると海外に滞在歴が無い、いわゆる市中感染したと見られる人も出てきました。
2月に入ってさらに地域が拡大し、
▽4日には神奈川県、
▽9日には福島県、栃木県、群馬県、茨城県、新潟県、長野県、
▽12日には山梨県と滋賀県、
▽16日には京都府と鹿児島県、
▽18日には岡山県、
▽22日には大阪府で、
変異ウイルスの検出が初めて報告されました。

職場や保育園などで変異ウイルスによるクラスターが発生したとみられる地域もありました。

3月になっても、
▽3日に千葉県と岐阜県で
▽5日に石川県で
初めて変異ウイルスが確認されました。

国内全体 計251人の感染確認

都道府県別では、
▽埼玉県で40人
▽兵庫県で37人
▽新潟県で31人
▽神奈川県で15人
▽東京都で14人
▽大阪府で12人
▽京都府で9人
▽静岡県で7人
▽福島県で5人
▽鹿児島県で5人
▽岐阜県で4人
▽群馬県で3人
▽岡山県で3人
▽山梨県で2人
▽滋賀県で2人
▽茨城県で1人
▽千葉県で1人
▽栃木県で1人
▽長野県で1人
▽石川県で1人
変異ウイルスが確認されています。

月別に見ると、
▽去年12月は3人、
▽ことし1月は21人だったのに対し、
▽2月は134人と大幅に増加。
▽3月も5日までにすでに36人となっています。

これ以外に空港の検疫が57人いて、国内全体では合わせて251人の感染が確認されています。

厚生労働省は国内での変異ウイルスの感染状況について「クラスターが複数報告され海外とのつながりのない事例が継続して確認されているが、地域で広く流行している状況ではない」としています。

専門家「検査数やや少ない 体制強化が必要」

東京医科大学・濱田篤郎教授(海外の感染症に詳しい)
「国内でも感染者の数が多い1都3県で検査数が1割程度というのは変異ウイルスの感染状況を把握するにはやや少ないと感じる。ウイルスの広がりを早期に把握し対策に生かすためにも、検査などの監視体制をさらに強化する必要があるのではないか」と指摘しています。

そのうえで検査機関に検体が保存されていないなどの理由で変異ウイルスの検査ができないケースがあることについては、民間の検査機関を含め検体をきちんと採取して保存する体制をとる必要があるとしています。

また、今後の見通しについて「世界の状況を見ると変異ウイルスは欧米を中心に広がっており日本もいずれそうなる可能性は高い。第3波の状況がようやく落ち着きつつあるが、感染力の高いウイルスが広がると医療機関が再びひっ迫し深刻な状況に陥るおそれもあるため変異ウイルスが流行する時期をなるべく遅らせる必要がある」と注意を呼びかけています。

そのうえで一般の人たちについても「緊急事態宣言が解除されてもこうしたウイルスの脅威にさらされていることを認識し、会食を控えるなどしばらくは対策を続けてほしい」と呼びかけています。