新型コロナ関連の差別や偏見 相談2300件余 法務省が啓発強化へ

新型コロナウイルスに関連して全国の法務局に寄せられた差別や偏見などの人権相談の件数は先月までに延べ2300件余りに上ることが法務省への取材でわかりました。
法務省は差別が広がると、検査を避ける人などが増加し、感染防止対策にも影響を与えかねないとして啓発を強化する方針です。

法務省人権擁護局によりますと、全国の法務局には新型コロナウイルスに関連して差別や偏見を受けたという人権相談が相次いでいて、先月までの1年間に寄せられた相談件数は、延べ2380件余りに上るということです。

具体的には「職場に復帰したら、同僚から『まだうつるかもしれない』と距離を置かれた」など、感染者や濃厚接触者が周囲の過剰反応に悩んでいるという相談のほか医療従事者やその家族が「施設の利用や行事への参加を拒否された」という相談も数多く、寄せられているということです。

法務省は、こうした差別が広がると検査を避ける人や感染を隠す人が増加し、感染防止対策にも影響を与えかねないとして啓発を強化する方針です。

法務省が今月、立ち上げたコロナ差別防止の特設サイトには政府の分科会の尾身茂会長のメッセージ動画も掲載され「差別が広がれば、医療従事者の離職が増え、医療崩壊を招くおそれもある」として、正しい知識に基づいて行動してほしいと呼びかけています。

この動画は、今月15日から21日まで東京・大阪・名古屋の屋外の大型ビジョンなどで上映されるほか、人権擁護局の公式ツイッターやLINEなどでも発信される予定です。

クラスター発生の高校 ひぼう中傷の電話など相次ぐ

松江市にある私立高校では去年8月、生徒や教職員100人余りが感染する大規模なクラスターが発生しました。

高校にはその直後から「どんな教育をしているんだ」「松江から出て行け」などの批判やひぼう中傷の電話が相次いだということです。

さらにネット上には、高校が、部活動の様子などを紹介するためブログやSNSで発信していた生徒の写真が無断で転載され「外出自粛中にスーパーでアルバイトをしていた」とか「マスクを付けずに感染対策を怠った」などのデマやひぼう中傷の書き込みが多数確認されたということです。

島根県は書き込みが行われ、人権侵害の可能性が高いサイトを松江地方法務局に通報し、法務局は調査を行ったうえで、プロバイダーに削除を要請しました。

島根県によりますと、その後、通報したサイトの書き込みの一部は削除されたということです。

この高校の校長はNHKの取材に対し「行き場のない怒りが、原因を作った本校に向けられたのだと思いました。行政や公的機関が『差別・偏見を許さない』との強い発信をして人権を守る必要があるのではと思います」と手記を寄せています。

従業員が感染した飲食店でもひぼう中傷やデマ

長野県で飲食店を経営する八木択真さんは、去年11月アルバイトの従業員1人が新型コロナウイルスに感染した際、臆測やうわさが出回るのを避けるために、フェイスブックなどで感染を公表しました。

ところがその直後からネットの匿名の掲示板に「従業員がウイルスをばらまいた」などと多数のひぼう中傷やデマが書き込まれたほか、別の従業員が近所の人から直接「店を閉めろ」と言われたケースもあったということです。

このため八木さんは公表から6日後に記者会見を開き不当な差別はやめるべきだと訴えました。

八木さんは当時の心境について「自分たちが悪いわけではないのにみんな落ち込んでしまい精神的にもかなりつらかった。大きな人権問題だと思う」と振り返りました。

そのうえで「行政や公的機関にもう少ししっかり対応してもらえる窓口がほしかった。あすはわが身だと感じてほしい」と述べました。

法務局 申告あれば必要に応じて調査

全国の法務局は、いじめや虐待、差別などで「人権を侵害された」という申告があれば、必要に応じて学校や職場、家庭などを調査します。

その結果に基づいて、法律的なアドバイスなどを行う「援助」や当事者どうしの話し合いを仲介する「調整」、改善を求める「勧告」や「要請」などの措置をとります。

調査に強制力はありませんが相談は無料で、秘密は守られます。

ネット上の書き込みについては、調査の結果、名誉毀損やプライバシーの侵害など、違法性が認められれば法務局がプロバイダーに削除を要請することもあります。

法務局 人権擁護調査官「不安を思いやりの気持ちにつなげて」

法務省人権擁護局の齊藤雄一人権擁護調査官は「新型コロナに対する不安な気持ちは誰にでもあると思います。その不安を差別や偏見ではなく思いやりの気持ちにつなげてほしいと思います。困っている人は法務省のコロナ差別の相談窓口をぜひ利用してください」と話しています。

電話での人権相談は「みんなの人権110番」0570-003-110のほか、いじめや虐待などの「子どもの人権110番」は0120-007-110で、セクシャルハラスメントや家庭内暴力などは「女性の人権ホットライン」0570-070-810で、英語や中国語など10言語で対応している「外国語人権相談ダイヤル」は0570-090-911で受け付けています。

受け付けは、外国語の相談ダイヤルが平日の午前9時から午後5時まで、そのほかの相談ダイヤルは、平日の午前8時半から午後5時15分までです。

このほか法務省のホームページではメールでの相談も受け付けています。

https://www.jinken.go.jp/