“きっぷ鉄”が受難?

“きっぷ鉄”が受難?
鉄道愛好家にはいろんなタイプがありますが、「きっぷ鉄」というジャンルもあります。全国のきっぷを集める愛好家のことで、私もその一人です。新型コロナウイルスによって、交通機関を取り巻く環境は劇的に変わっています。鉄道会社と旅行会社は売り上げの急減に直面し、駅では無人化や出札窓口(きっぷ売り場)の廃止が、全国で加速しています。きっぷ収集の愛好家にとっては、いままでにない逆風といえます。(松山放送局記者 後藤茂文)

きっぷの魅力は

鉄道やバス、船。
乗り物に乗るのに欠かせないのが「きっぷ」です。

そして、鉄道のきっぷに焦点をあてた趣味が「きっぷ鉄」です。

鉄道に限っても、収集の対象は乗車券、特急券、入場券、回数券、定期券、手回り品きっぷ、硬券、補充券、常備券などなど、多岐に渡ります。

JRと私鉄で扱うきっぷの形式も異なりますし、券売機で買えるきっぷもあれば、窓口で発券するきっぷもあります。

きっぷ代わりとなるICカードが普及し、チケットレスで新幹線に乗ることもできるようになりましたが、それでも収集意欲を衰えさせないくらい、きっぷは無数に存在します。
きっぷが買えるのは、駅だけではありません。全国各地の旅行会社でも販売しています。
駅の窓口などで発券される、水色のJRのきっぷ、皆さんも使ったことがあると思います。
きっぷの下に注目して下さい。

きっぷを発券した駅や旅行会社の支店名が書かれていて、旅行会社が発券すると、その会社の略称が頭に付いています。

JTBだと○に「交」、日本旅行なら○に「日」、農協観光なら○に「農」と、どこの店舗で発券したかが分かるようになっています。

こうした特徴から、各地の駅や旅行会社をくまなく回って、きっぷを買い求めたくなるのです。

旅行会社の廃業、規模縮小

その旅行会社で廃業や規模縮小が相次いでいます。

インターネットによる宿泊施設・交通機関の予約が容易になり、気軽に個人旅行ができるようになった一方、旅行会社にとって店舗で利用客を捕まえるのは難しくなっているのです。
去年11月には、旅行会社最大手の「JTB」、そして「近畿日本ツーリスト」を展開する大手「KNTーCTホールディングス」が相次いで厳しい発表を行いました。
JTBは国内店舗の約4分の1にあたる、115店舗の削減を。
約130ある近畿日本ツーリストの店舗は、3分の1に削減。

両者とも、大規模な人員削減も合わせて発表していて、大きなニュースになりました。

店舗削減にとどまらず、廃業するところも出てきました。

1963年創業の「トラベル日本」(東京)は、去年12月で営業を終了しました。
また、静岡鉄道のグループ会社で1965年創業の「静鉄観光サービス」は3月末で、その歴史に幕を閉じます。
そしてことし1月半ば、1954年創業の「日通旅行」が3月末に廃業すると発表しました。

日通旅行は、1960年代には日本交通公社(現在のJTB)とともに海外旅行商品「ルック」を販売していた、旅行会社のパイオニアともいうべき老舗です。バブル期にはCMを積極的に出していて、記憶にある人もいるかもしれません。
いずれも業界中堅の老舗ですが、急激な需要減少に耐えられず、廃業せざるをえなくなったといいます。

また、鉄道会社の旅行業部門も、コロナ禍のあおりもあって、縮小が相次いでいます。

JR北海道は「ツインクルプラザ」、遠州鉄道(浜松市)は「遠鉄トラベル」のブランド名で個人向けの店舗を沿線各地に構えていましたが、2月末までにすべての店舗を閉店する事態に追い込まれました。

四国の雄も影響免れず

当然、四国もこうした流れと無縁ではありません。

愛媛県の旅行会社「フジ・トラベル・サービス」は、1月に店舗網の大幅な縮小を発表しました。
松山市に本社を置く旅行会社、フジトラベル。
四国最大手のスーパー「フジ」のグループ会社として、愛媛県を中心に中四国で23店舗を構えていた、四国を代表する旅行会社です。

新型コロナの影響で去年3月から11月までの旅行業の売り上げは、前年比で8割減となりました。

『今後も先行きは厳しい』として、半数近い10店舗の廃止を表明し『フジのネットワークが強く、人口も多い愛媛と広島』で営業を続けることにした、ということです。

閉店予定の店舗を訪ねてみた

フジトラベルの発表を受けて、私はある店舗を訪問しました。
2月下旬の閉店が決まった支店「トムズ高知営業所」です。

高知市朝倉地区の大型商業施設、フジグラン高知の入り口のすぐそばに、その店舗はありました。

店頭では、コロナ禍を反映して、海外旅行のパンフレットはほぼなく、近場の中四国を対象にした自社の国内旅行ブランド「SWING」や、JTB、ANAのパンフレットがずらりと並んでいました。
そして店の壁にはしっかりと「みどりの窓口」の看板が掲げられ、ここでJR券を購入できることが分かります。

9割余りの駅が無人駅で、旅行会社の店舗も少ない高知県では、JR全線のきっぷがその場で購入できる、貴重な場所と言えます。
さっそく、いくつかきっぷを注文すると、窓口のスタッフはカウンター後ろの端末を手際よく操作。

すぐにきっぷが出てきました。
フジトラベルの略称である、○に「FJ」。

それに支店名の高知、発券システムである「MARS(マルス)」の頭文字「M」を冠した、発行か所の名称が印字されていて、ここで購入したことを証明しています。
フジトラベルでは、去年秋以降、閉店予定の店舗も含めて、中国地方の店舗にある発券端末の大半を撤去しました。

フジトラベルの担当者はその理由について、新幹線のきっぷの購入客が店頭ではなく、「e5489」や「エクスプレス予約」といった、JRのネット予約サービスに流れていて、売り上げが減少傾向にあるためだと話していました。
2月下旬の大量閉店で、高知のほか高松の店舗が発券するきっぷも入手できなくなりました。

その意味でこれらのきっぷは、希少なものと言えそうです。

消えゆくきっぷを追いかけて

旅行業者は全国に1万1000社ほどありますが、JR6社から委託を受けて全線のきっぷを販売できるのは、第3セクターの鉄道会社も含めて、全国で50社ほどに限られています。

このうち、小売業が母体の旅行会社は唯一、フジトラベルだけです。
日常の風景だった、駅や旅行会社できっぷを買える環境。それがいつなくなっても、おかしくない時代になりました。

こうした状況だからこそ、各地で消えゆくきっぷを少しでも収集して記録に残したい。

集めたきっぷは、その時代を思い起こさせるものになると思います。
こうした趣味が、苦境にある旅行会社の応援に少しでもなれば、とも思っています。

変わっていく鉄道文化を、全国各地で追いかけ、これからもお伝えしていきます。
松山放送局
後藤茂文
津局、大分局を経て2020年から松山局
遊軍として公共交通や農業、文化など取材
全国のJR線の約95%を乗車済み