ビジネスホテルがコロナ禍でも休業できないワケとは

ビジネスホテルがコロナ禍でも休業できないワケとは
全国有数の温泉地、愛媛県松山市の「道後温泉」。新型コロナウイルスの感染拡大やGo Toトラベルの一時停止の大打撃を受けキャンセルが相次ぎ、2月は地区全体の6割にあたる施設が休業の措置をとった。
ところが道後以外のホテルに目を向けると、稼働率が下がってもほとんどが営業を続けている。その結果、松山で起きているのが熾烈な価格競争だ。宿泊料金から経費を差し引くと利益はほとんど残らない。それなのに、なぜビジネスホテルは休業せずに赤字覚悟で値下げを続けるのか。(松山放送局記者 武田智成)

「値下げ地獄と言っていいでしょ」

肩を落として話すのは、JR松山駅に程近いビジネスホテル「ホテルサンルート松山」の大橋隆三社長だ。
安さが売りのこのホテル。平均価格は1泊およそ6000円だ。ここ数年は、外国人観光客の増加もあって売り上げは右肩上がり。ここに限らず、松山市内のホテルの多くは、観光シーズンに入ると予約が取りにくくなりホテル業界は好調そのものだった。
ところが、新型コロナウイルスで状況は一変。第1波で緊急事態宣言が出た去年春は売り上げが7割以上も減った。Go Toキャンペーンで一時は回復したが、第2波、第3波に見舞われ客足が遠のき値下げに踏み切った。1泊の平均価格を2000円安い4000円台に引き下げたのだ。

1泊2000円台のホテルも

ただ、考えることは皆同じ。市内のホテルが一斉に値下げを始めた。

大橋社長は、ある旅行予約サイトを見せてくれた。下げ幅で目立つのがもともと単価が高い比較的高級なホテルだ。1泊9000円から1万円のホテルは、5000円から6000円ほどに値下げしていた。値引き前のビジネスホテルと同じ価格帯だと大橋社長は嘆く。
大橋社長
「消費者は値下げ幅に目が行くので、ビジネスホテルよりお得感を感じる高級ホテルに泊まろうとするもの。さらに客足が遠のきますよ」
サイトには1泊2000円台にまで値下げしているホテルもあった。縮小するパイの中で顧客の確保に向けた価格競争が起きている。まさに値下げ地獄だ。

利益は1000円以下

値下げによって犠牲になるのが利益だ。ホテル運営には維持費がかかる。
ホテルサンルート松山の場合、1部屋1泊につき歯ブラシなどの消耗品に1500円、電気代や人件費などの費用も合わせると、合計3000円かかるという。平均単価を6000円から4000円台に下げると、利益は1000円も残らない。
取材中、大橋社長がふと後ろを振り向く。
「ここの壁はヒビが入ってるから今後、改修するつもりだったんだけどな…」
利益が残らず、運転資金のための借り入ればかりが増えていく。
「この先の債務をどうやって返済すればよいか…」
従業員の生活を守らねばならない経営者の苦悩をかいま見た。

ビジネスホテルが休館できないわけは

感染拡大やGo Toトラベルの一斉停止を受けて、道後温泉のホテルの多くが休館している。2月8日から3月7日までの間に1日以上休館する施設は、全体の6割の20に上る。その一つ、収容宿泊客が550人の「道後プリンスホテル」は1日の客数が150人を下回ると赤字になるという。企業である以上、赤字を垂れ流してまで経営できないとしてほぼ全期間の休館を決めた。経営判断としては正しいのだろう。
しかし、ビジネスホテルは休めないという。その理由がホテルの予約サイトだ。ホテル業にとっては、サイトの上位に掲載されることが経営に直結する。上に行けば行くほど多くの人が見るので予約が入りやすくなる。

関係者によると、例えばあるサイトの場合、順位を決める要素は「予約サイトに提供する部屋数」と「売り上げ」だという。

ここでいう部屋数とは、ホテルが予約サイトに割り当てる数だ。例えばあるホテルは150の部屋のうち、予約サイトに80部屋、旅行会社に40部屋、当日直接フロントにくる人などのため30部屋を分配している。

予約サイトにとっては、部屋数が多くかつ人気のあるホテルを掲載したいのは当然のことだ。売り上げも重視される。閑古鳥が鳴いているホテルに魅力はない。特に過去1か月分の売り上げが指標になるという。さらに口コミなどの評価も加味されて掲載の順位が決まっていく。
もし今休館するとどうなるか。順位は当然下がる。すると利用者の目にとまらなくなるため、売り上げが減りさらに順位が沈む負のスパイラルに陥る。利益が出ず、赤字を垂れ流しながらでも、営業を続けなければならないジレンマがある。

ホテルは供給過多なのか

松山市内では、感染拡大の前からホテル開発が続いていた。ことし秋には松山三越が改装工事を終えてグランドオープンする。上層階にはデパートでは全国でも珍しいというホテルが入る予定だ。ほかにも開発中のホテルが数軒あるが果たして需要はあるのか。
愛媛ホテル協会の野村忠秀会長は供給過多を懸念している。テレワークの浸透で出張客はさらに減り、外国人観光客が戻ってくるのにもまだ時間を要するとみている。少ないパイを奪い合う構図だ。体力をすり減らす価格競争は当面続き、市場価格が上昇しなくなるおそれがあるという。

どう反転攻勢

先行きが不透明なホテル業でいかにして生き残りをはかるか。野村会長が参考になるとあげた事例が、「帝国ホテル東京」が2月に発表したサービスアパートメントだ。
月額36万円を支払えば、都心の一等地で30平方メートルの部屋に滞在できる。ホテルの強みである立地のよさやサービスを売りにした戦略だ。
松山ではまだ同様の動きは見られないが、ホテルの部屋をテレワークで利用してもらう動きが広がっている。愛媛県は1月からテレワークプランを提供する宿泊施設などに対し、1日当たり3000円の協力金を支給していて、50を超える県内の施設が実施している。
愛媛では感染状況が落ち着きつつあり、県民向けに1泊当たりの宿泊代金を5000円割り引く観光需要の喚起策が2月に再開された。コロナ後のホテル業界ではデジタル化への対応、そして新業態へのチャレンジが求められることになるだろう。「値下げ地獄」を抜け出し「反転攻勢」に出る地方の現場を伝えていきたい。
愛媛のニュースを深掘りしたサイト WEB特集「愛媛インサイト」。
以下のリンクからぜひご覧ください。
松山放送局記者
武田 智成
平成30年入局
愛媛の経済取材を担当
趣味は鉛筆で風景画を
描くこと