どうなる?瀬戸際の“ONKYO”

どうなる?瀬戸際の“ONKYO”
繊細でクリアな高音域を奏でるスピーカー。オーディオファンをとりこにしてきた名門企業「オンキヨー」は今、業績悪化に苦しんでいます。過去最大の赤字。そして債務超過の状態になっていて、今月末までに解消しないと最悪、株式の上場廃止になるおそれがあるというのです。なぜここまで追い込まれてしまったのか、今、取り組んでいる戦略は何か。耳を澄ませてみたいと思います。(大阪放送局記者 谷川浩太朗)

栄光の時代

「ゆっくりと好きになってほしい」

しっとりとした声で語りかけてくるのはアイドルの南野陽子さん。これは1986年、「オンキヨー」の人気ミニコンポ「Radian」のコマーシャルの1シーンです。

このミニコンポは当時、若い世代が進学や就職をきっかけに手に入れたいと人気となり、オンキヨーを代表する製品でした。
1991年には、ペアで240万円する高級スピーカー「Grand Scepter GS-1」がフランスの権威ある賞を受賞。伝説の名機として今も語られています。

会社は大阪が創業の地です。今のパナソニック、旧松下電器産業のスピーカー製造工場の工場長だった五代武氏が1946年、「大阪電気音響」として起業。
音にこだわった製品を次々と世に送り出し、日本を代表するオーディオブランドへと成長しました。

5年連続赤字に債務超過

しかし、このところ経営は苦しい状況に追い込まれています。

2014年3月期の決算から5期連続の最終赤字に。2020年3月期の決算では98億円余りと過去最大の赤字を記録し、33億円の債務超過に陥りました。東京証券取引所の元来のルールでは、2年連続の債務超過は上場廃止となりえます。

今は新型コロナの特別措置があり、猶予期間が延長される可能性はありますが、厳しい状況に変わりはありません。

アップルという黒船来襲

なぜ名門オーディオブランドがここまで凋落(ちょうらく)したのか。要因の1つはアップルという黒船の来襲でした。

アップルは2003年、音楽をインターネットを使ってダウンロードして楽しむiTunesのサービスをアメリカでスタート。それまでCDを購入して聴くのが当たり前だった音楽をネットの世界へ解き放ったのです。
2007年にはiPhoneが発売。音楽はスマホの中に取り込まれ、音楽のデジタル化が急加速していきました。

市場の変化に追いつけず

オンキヨーも指をくわえて見ていたわけではありません。パソコンメーカーを買収するなどデジタル化に対応しようとしていました。

しかし、市場の変化は想像を超える早さだったこと、何よりスマホに音楽が取り込まれたことで、音を再生するオーディオ機器の存在意義が急速に薄れてしまったことが大きな痛手だったと会社の経営幹部、林亨取締役は振り返ります。
林取締役
「マーケットの動きが予想よりもはるかに早く、デジタル技術が進化していったというところに見間違いがあった。オーディオしかやっていない会社なので、その影響をまともに受け、市場に追いつくスピードが足りなかった」

他社との違いは?

環境の急激な変化に苦戦したメーカーはもちろんオンキヨーだけではありません。

デノンとマランツは2002年に早くも経営統合し、合理化を進めていました。

ケンウッドも日本ビクターと2008年に経営統合し、カーオーディオやドライブレコーダーなど車関連の機器を強みにしていきました。

そして、大企業であるソニーは、オーディオ以外の収益力があり、開発への投資余力があります。

日本の製造業にありがちな…

オンキヨーも企業買収に乗り出します。かつてオンキヨーよりも上位、オーディオ御三家とも呼ばれたメーカー、パイオニアのAV機器事業部門を2015年に買収。商品開発を共通化し、収益力を高めて飛躍を図ろうとしたのです。

しかし、会社の規模を維持することにこだわりすぎました。
市場が縮小しているにもかかわらず、売り上げを維持することにばかり目が行き、ミニコンポなど幅広い価格帯の製品を大量に売り出し続けました。このことで逆に開発費がかさみ、収益が悪化してしまったといいます。

会社の幹部は統合の効果が出るよりも、経営が弱体化するスピードが上回ってしまったと悔しがります。

また、小さなことと思われがちですが、製品の丁寧な説明やアフターケアを怠ったと指摘する業界関係者もいます。店頭で詳しい説明をする担当者が少なく、ファンの心が離れてしまったといいます。

企業経営に詳しい早稲田大学ビジネススクールの長内厚教授はオンキヨーの業績悪化は日本の製造業にありがちなケースだとみています。
長内教授
「20世紀の日本のエレクトロニクスメーカーは、ほとんどの会社が技術で差をつけてきた。このため、性能が高い商品を開発すれば、あとはなんとでもなるという発想になってしまっていた。オンキヨーは、いい商品を作ればいつかは客はわかってくれるだろうという、いわば『作りっぱなし』になっていた。売るというプロセスをあまり重要視してこなかったことが問題で、日本の製造業の典型的な失敗例と言える」

挽回なるか

瀬戸際に追い込まれたオンキヨー。今、どのような戦略をとっているのでしょうか。

まず、会社の規模を維持するという考えを捨てました。徹底したコスト削減のため、本社を大阪市中心部から東大阪市に移転。大胆な人員削減にも踏み切りました。最盛期には4600人いた従業員は、今、およそ4分の1の1200人余りにまで絞り込んでいます。

ニーズのある製品をつくるという当たり前のことに取り組んでいます。
注力しているのは補聴器や集音器の販売です。高齢化社会を見据えて、オーディオで鍛え抜いた技術力を「よく聞こえる」製品づくりにいかそうというのです。

新型コロナによって、マスク越しの会話が増えたこともあり、高齢者からは聞きやすい補聴器や集音器を求める声が高まっていました。

ことし1月までの1年間の補聴器の販売台数は、前の年の4倍に伸びていて、今後も強化していきたい分野だとしています。
なんでも自前で完成品をつくる主義をやめました。今は他メーカーのノートパソコンやテレビに組み込むスピーカーのOEM生産を強化しています。ただ、納品している一部の製品には、「ONKYO」のロゴを入れてもらっており、ささやかながらブランドへのプライドを持ち続けています。

このほか、会社を3つに分割し、資金調達しやすい環境をつくるなど、打てる手はなんでも行い、がむしゃらに再建をはかろうとしています。

林取締役がインタビューで語ったことばが私は印象に残っています。

「新しい場所で新しい音を出していく」

過去の栄光を捨て、自分たちの技術を活用し、ニーズのある分野に柔軟に対応していく戦略。これはwithコロナ、afterコロナを問わない、今の時代の生き残り方のように思います。

オンキヨーの新しい市場での新しい音づくりは当面、模索が続きそうです。
大阪放送局記者
谷川 浩太朗
平成25年入局
沖縄局を経て地元・大阪で経済取材を担当