探偵小説家の小栗虫太郎 作家像の見直しも 家庭小説を確認

昭和初期に活躍した探偵小説家で「黒死館殺人事件」などの作品で知られる小栗虫太郎が、昭和16年にほかの作品とは作風が全く異なる家庭小説を発表していたことが確認されました。
検閲が強まる中、探偵小説の代わりに創作したと考えられ、調査に当たった専門家は「これまでの作家像の見直しが迫られる発見だ」と指摘しています。

小栗虫太郎は、横溝正史などとともに昭和初期に活躍した探偵小説家で、名探偵 法水麟太郎が登場する「後光殺人事件」や「黒死館殺人事件」などの作品で知られています。

二松学舎大学の山口直孝教授が作品の調査を進めたところ、「亜細亜の旗」というタイトルの新聞連載が新たに見つかり、著作目録に記録がない長編小説と確認されました。

山口教授によりますと、この作品は太平洋戦争が始まる昭和16年から翌年にかけて、九州などの地方新聞に連載され、主人公の青年医師をめぐる恋愛や人間関係が描かれています。

これまでに知られている難解なことばを駆使した幻想的・怪奇的な作品とは作風が全く異なる家庭小説で、検閲が強まる中で発表が難しくなっていた探偵小説の代わりに創作したと考えられるということです。

山口教授は「小栗は探偵小説、冒険小説と時期によって作風が変わりますが、これだけ違ったものはなく、これまでの作家像の見直しが迫られることになるのではないか」と指摘しています。

「亜細亜の旗」は今月、単行本として出版される予定です。

二松学舎大 山口教授「戦時中 苦心しながら創作」

小栗虫太郎は明治34年に東京で生まれ、32歳の時に発表した「完全犯罪」で一躍、注目を集めたあと、探偵小説や冒険小説など多くの傑作を生み出しました。

その才能は、江戸川乱歩や横溝正史なども認めていましたが、昭和21年、44歳の若さで亡くなりました。

日本の探偵小説のすそ野を広げた1人で、二松学舎大学の山口直孝教授は「特殊な知識を駆使して、日常とは異なる幻想的な物語空間を作ることに情熱を傾けた作家で、グロテスクでロマンチックな物語世界は、ほかの作家がまねできないものがある」と評価しています。

一方、今回見つかった「亜細亜の旗」は、日本と中国 上海を舞台にした家庭小説で、ほかの作品に見られるような非現実的な場面設定や難解な専門用語は用いられていません。

トラブルや波乱が立て続けに起きるなど、読者を飽きさせない工夫が見られ、登場人物の会話の多い読みやすい作品となっています。

山口教授によりますと、探偵小説は戦時中、表現を規制されて発表の場を失い、探偵小説家は、時代小説や家庭小説などほかのジャンルに手を広げて表現活動を続けていて「亜細亜の旗」は、そうした時代背景の中で小栗が生み出した作品の1つとみられるということです。

山口教授は「探偵小説が書けないから、やむをえず筆を執ったところはあると思いますが、その中でもおもしろく読ませる物語を作っていこうというような工夫をしている。与えられた状況の中で、作家が苦心しながら創作をしていたということが、今の時代に読むとより鮮明に見て取れると思います」と指摘しています。