「どうせ飲みに行っていたんだろ」感染者苦しめる偏見

「どうせ飲みに行っていたんだろ」感染者苦しめる偏見
新型コロナウイルスに感染した男性。入院中、一時、酸素マスクが必要となり、高熱や突き刺すような胸の痛みに苦しみ、食事ものどを通りませんでした。
会社に迷惑をかけたくないと思いできるだけ早く職場に復帰しましたが、職場の偏見でさらに追い詰められています。
(社会部記者 間野まりえ)

労災認定も、GPSで監視…

「精神的なストレスで夜も眠れず耳鳴りにも悩まされています」
そう話すのは不動産会社に勤める40代の男性です。

男性は去年の夏に新型コロナウイルスに感染しました。感染経路は特定できませんでしたが、業務により感染した可能性が高いとして労災と認定されました。
労災を申請することに会社側は難色を示していたといいますが、労災と認められたあとさらに思わぬことが起きたと話します。
40代男性
「感染したときに行動履歴が分かるようにGPS機能のある端末が全員に貸与されました。社員はまるで信用されていないんだなと、だから監視することにしたのかと、感じてしまいました」

どうせ飲みに行っていたんだろう

不信感をいだく理由は感染が確認された後の会社の対応にありました。

男性は感染前2週間の行動記録を会社に報告していましたが、社長から、うそをついていると決めつけられ、それを周囲に言いふらされていたというのです。
40代男性
「職場復帰してすぐ、『迷惑かけてすみません』と謝ったのですが、社長からは『元気になってよかった』とか復帰を歓迎する声かけはありませんでした。そればかりか、他の店舗の従業員に『(自分が書いた)感染前2週間の行動記録のつじつまがあわない。本当のことを言っていない』『どうせ飲みに行っていたんだろう』などと話していると聞き、ショックを受けました」

コロナ禍でも出社を続け…

男性は感染の拡大が続く中でも業務の都合上、テレワークに切り替えることが難しく、出社を続けていました。

不動産会社の仕事は物件の案内や内見の同行など、不特定多数の人を相手にします。

どれだけ気をつけていても、当時は相手がマスクを着用していないこともあり、感染するのではないかと不安を感じながら働いていました。
そして去年夏、突然、38度5分の熱が出ました。

かかりつけ医に何度も相談して10日ほどたってからようやくPCR検査を受けることができ感染が確認されました。

すぐに入院した男性は肺炎となっていて「中等症」と判断され、一時、酸素マスクをつけて、治療を受けおよそ2週間後に退院しました。
会社や同僚にできるだけ迷惑をかけたくないと思い、早く仕事に復帰したいと考えていましたが、退院後も10日あまりは、体力が元に戻らず、自宅での療養を余儀なくされました。
40代の男性
「入院中はこのまま家族に会えなくなるのではないかと不安で、これ以上悪化しないでくれと祈るような気持ちでした。入院から10日ほどたってようやく食欲が徐々に出てきたのですが、退院するころには体重が10キロ減っていて、歩くだけでも息苦しかったです」

感染したら、“無給”?!

ほかにも精神的にショックを受けたことがありました。入院中も仕事のことが気がかりだったという男性。

社員が自由に見ることができ連絡用としても使われるインターネット上の掲示板をみたところ、ある「お知らせ」を見つけたといいます。

「就業規則の変更」についての連絡でした。
「新型コロナウイルスに感染して休む場合、会社に休業手当の支払い義務はありません」
会社から直接説明はありませんでしたが、男性は自分の感染をきっかけにした連絡であると感じました。

それとともに感染したら無給だと言われたように感じたといいます。

高熱や突き刺すような胸の痛みに苦しみ、食事ものどを通らない中で、男性は将来への不安に襲われました。
40代の男性
「病院でひとりで過ごしている時に、その文面を見たときには、ショックでした。当時はいつまで入院するかも分からないし、これから後遺症も残るかもしれない中で、自分や家族の生活がどうなってしまうのだろうと不安も大きかったです」
退院後にあらためて、会社の担当者に確認したところ、新型コロナウイルスに感染して休んだ場合は、「傷病手当」か労働基準法で認められた「年次有給休暇」で対応するという説明があったといいます。

労災申請に会社は難色

しかし、男性には、仕事中に感染したのではないかという思いがありました。

男性と同居している妻や子どものほか、2週間以内に食事をした知人がPCR検査の結果、全員が「陰性」と確認されたといいます。

一方、同じ店舗で働いていた社員のうち、男性のほかにも新型コロナの感染が確認された人がいました。

このため、労災を申請しようと考えましたが、会社は難色を示したといいます。
「不動産業は労災を申請しても難しい」
「労災が認定されるまでには時間がかかる」
さまざまな理由をつけて、できるだけ労災を申請しないよう、誘導されているように感じました。

労災申請 不動産業は少なく

厚生労働省は感染経路が分からない場合、医療従事者等は原則、労災と認める方針を示していますが、それ以外の仕事に従事する人についても、「職場で複数の感染者が確認された場合」や、「客と近づいたり接触したりする機会が多い場合」は、業務により感染する可能性が高いとして個別に判断するとしています。

労災申請の件数は医療従事者等が4144件と突出して多くなっていますが、それ以外では1228件、不動産業等に限ると24件にとどまっています。(2021年2月19日時点)

専門家からは社員が労災と認められれば、会社に落ち度があったととらえられかねないとして、申請に協力的でないケースがあるという指摘があります。

その場合、社員が申請をためらってしまうことにつながるといいます。

職場復帰後に待っていた“偏見の目”

男性の同僚で感染した別の社員も取材に応じてくれました。

この男性も職場に復帰した後の“偏見の目”に苦しんでいました。
別の社員
「社長に『遊びに行ってないだろうな』などと言われ、同僚にも『あいつ飲みに行ったりしていないか』などと探りを入れられることもありました。『感染することは悪』という空気をつくられているようで、働きづらくなってしまいました。好きで感染した訳ではないのにそういう対応をされることがとてもつらかったです。もう辞めてしまおうかという考えも頭をよぎりました」
同じ不動産会社で働く2人には匿名を条件に取材を受けていただいたため、会社になぜ、そのような対応をとったのか直接、確認することはできませんでした。

求められる感染者へのサポートとは

専門家によりますと
「感染した同僚が職場で悪口を言われていて自分も感染するのが怖い」
「感染した同僚が仕事を辞めてしまった」
などという相談が寄せられているといいます。
日本産業カウンセラー協会 シニア産業カウンセラー 伊藤とく美さん
「感染防止のために気をつけているだけに、身近で感染者が出ると、『何で感染したの?』と、責める気持ちが芽生えてしまうのでしょう。しかし、感染経路が分からないケースも多く、感染者の中には『なぜ感染したのか』、『職場に迷惑をかけた』と苦しんでいる人もいます。感染の経緯を詮索して回復者の居心地を悪くする言動も、ハラスメントにあたる可能性があります」
その上で、相手の気持ちに寄り添うことが大切だといいます。
日本産業カウンセラー協会 シニア産業カウンセラー 伊藤とく美さん
「感染防止のために気をつけていても感染してしまうことはあります。職場に復帰したら歓迎のことばをかけ、もし本人が謝ったとしても上司が『誰がかかってもおかしくない。迷惑をかけたとか申し訳ないなどと思う必要はない』と声かけすることも大事です。その上で、感染防止のためにみんなで気をつけていこうと前向きな雰囲気を作っていく必要があります」
検温、消毒、換気、テレワーク、飛沫防止シート、会食の自粛。去年以降、職場の雰囲気は大きく変わりました。感染が分かると私の職場でも、張り詰めた空気が流れることがありました。
コロナ禍のいま、社会全体が苦しい状況が長く続き、いつになったら終息するのかも見えません。

こんな時だからこそ
「自分が感染したらどのような状況になるのか」
「職場でどんな対応をされたら嫌な気持ちになるのか」
一呼吸をおいたうえで相手の気持ちや状況を思い言葉をかけることが大事だと改めて感じました。
社会部記者
間野まりえ