新型コロナ 変異ウイルス世界で感染拡大 WHO「対策強化を」

変異した新型コロナウイルスの感染が世界に広がり、各国は警戒を強めています。WHOは各国に対し、ウイルスの広がりを見る調査や戦略的な検査、ゲノム解析などを通じて、対策を強化し続けてほしいとしています。

世界各国で警戒が強められている変異ウイルスは主に3種類あります。
このうち、イギリスで最初に見つかった感染力が高いとされる変異ウイルスは、去年12月上旬に最初に報告されましたが、その後行われたウイルスの解析から去年9月20日にはこのウイルスに感染した人がいたことが分かっています。

イギリスでは、去年12月上旬には1日当たりの感染者数は、1万人台でしたが、その後急増し、12月下旬には5万人台に、そして1月に入ると6万人を超えた日もあり、増加の大きな要因は変異ウイルスによるものと見られています。
この間、多くの国に広がっていて、WHO=世界保健機関によりますと、2月23日までに101の国と地域で感染が確認されています。
また、南アフリカで最初に見つかった変異ウイルスは、去年8月上旬に発生したとされていて、11月中旬に南アフリカで行われた解析では、ほとんどのケースがこのタイプの変異ウイルスだったとみられています。WHOによりますと、2月23日までに51の国と地域で感染が確認されているといます。

さらに、もう1つ、警戒が高まっているのが、ブラジルで広がった変異ウイルスで、ブラジルから日本に到着した人からことし1月6日、最初に検出されました。WHOによりますと、2月23日までに29の国と地域で感染が確認されています。ブラジルでは、北部のマナウスで去年12月4日に最初に出現したと見られ、1月の時点ではマナウスで報告された感染者の91%がこの変異ウイルスへの感染だったということです。

WHOは、世界では59万を超える新型コロナウイルスの遺伝子配列がデータベースに公開されていると紹介したうえで、新たな変異ウイルスが次々に報告されていると説明しています。

アメリカでは24日、ニューヨーク州などで南アフリカやブラジルで見つかっているタイプに近い別の変異ウイルスの感染が相次いでいると、現地のメディアが伝えています。

WHOは各国に対し、ウイルスの広がりを見る調査や戦略的な検査、ゲノム解析などを通じて、対策を強化し続けてほしいとしています。

変異ウイルス イギリスの状況は

イギリスでは、去年9月に確認された変異ウイルスの感染が去年12月ごろから急速に拡大しました。

中心はロンドンを含むイングランド南東部で、ロンドンでは現在、新たな感染はほぼすべてがこの変異ウイルスとなっていて、イギリス全体でも大部分を占めています。

このほか、ワクチンの効果に影響を与えるおそれがあるとされる変異が新たに加わったものや、南アフリカで最初に確認された変異ウイルスも一部で確認されています。

イギリス政府は、国内外で確認されている変異ウイルスが海外から持ち込まれるのを防ごうと入国を厳しく規制し、南アフリカの変異ウイルスが見つかった場合は、その周辺で検査や追跡を集中的に行い、ウイルスが広がらないよう対策を徹底しています。

ロンドンなどでは去年12月下旬から、全土でもことし初めから外出制限など厳しい感染対策が行われた結果、1月には6万人を超える日もあった1日当たりの新たな感染者数は、最近では1万人を下回る日もあるなど減少傾向となっています。

政府は、去年12月に開始したワクチンの接種を急いでいて、これまでに人口のおよそ29%にあたる1900万人以上が1回は接種を受けています。

イギリスでは現在、2種類のワクチンの接種が進められていて、イギリス政府はこのうちファイザーなどが開発したワクチンについて、接種していない人と比べると、1回接種した人の場合、入院患者や死者の数は少なくとも75%減少すると分析しています。

一方で、ワクチンは変異ウイルスに対して十分な効果があるのか、一部で懸念も出ています。

イギリスのオックスフォード大学は、製薬大手アストラゼネカと共同開発したワクチンについて、南アフリカの変異ウイルスでは、軽度から中程度の症状を防ぐ効果は最小限だとする初期段階の研究結果の概要を公表しています。アストラゼネカとオックスフォード大学は、南アフリカの変異ウイルスにも対応する第2世代のワクチンの開発を進めていて、必要な場合は、この秋の供給を目指すとしています。

また、ジョンソン首相も変異ウイルスの状況次第では追加の接種や定期的な接種が必要になる可能性があると指摘しています。

米で変異ウイルスが大多数を占めるおそれも 米CDC報告

アメリカのCDC=疾病対策センターは、イギリスと南アフリカ、それにブラジルで確認された合わせて3つの変異ウイルスが、アメリカ国内でどれくらい検出されたか公表しています。

それによりますと、これまでにイギリスの変異ウイルスが45の州などで2102例、南アフリカの変異ウイルスは15の州などで49例、ブラジルの変異ウイルスは5つの州で6例となっています。

CDCは1月、新型コロナウイルスの感染拡大が続けば、アメリカで変異ウイルスが大多数を占めるようになるおそれがあるとする報告書を公表しています。

CDCのワレンスキー所長は26日の会見で、新たな感染者の減少傾向が鈍化しつつあることに懸念を示したうえで「イギリスの変異ウイルスの割合は新たな感染者のおよそ10%に上るとみられ、数週間前に比べて上昇しているとみられる」と述べ、警戒を緩める時ではないと訴えました。

“米で別の新たな変異ウイルス感染増加”との報道も

アメリカでは、これらとは別の新たな変異ウイルスの感染が増えていると報じられています。

アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」は24日、コロンビア大学や、カリフォルニア工科大学の研究で、東部のニューヨーク市で新たな変異ウイルスの感染が増加していると報じました。
これらの研究は外部の専門家が内容を精査しておらず、科学雑誌などに掲載される前のものですが、この変異ウイルスには、ワクチンの効果に影響を与えるおそれがあるとされる変異や、ヒトの細胞に結びつきやすくなるおそれがある変異がみられるということです。

一方、西部カリフォルニア州でもこれとは別の変異ウイルスの感染が増えていると複数のメディアが報じています。いずれも科学雑誌に掲載される前のものですが、感染はいまのところ州内でのみ顕著に増加しているということです。

ニューヨーク市とカリフォルニア州の変異ウイルスが、これまでのものに比べて実際に感染力が強いのか、重症化しやすいのかなどについて詳しいことはわかっていません。

CDCは2億ドル、210億円余りを投じてウイルスの遺伝子を検査する態勢を強化し、変異ウイルスの監視を続けることにしています。

米でのワクチンめぐる動きは

これらの変異ウイルスに対し、これまでに開発されたワクチンがどの程度の効果があるのか、研究が進んでいます。

新型コロナウイルスのワクチンを開発した製薬大手ファイザーや製薬会社モデルナは、変異ウイルスに対する効果について、初期段階の実験結果を相次いで発表しています。

それによりますと、イギリスの変異ウイルスではともに効果はほぼ変わらないとしています。一方、南アフリカの変異ウイルスでは、ともに効果への影響はあるものの、十分な免疫の反応が期待できるとしています。

このほか、FDAが緊急使用を許可するか審査中のジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは、変異ウイルスが確認されている南アフリカやブラジルで行われた臨床試験でも、これまでのウイルスとほぼ同じ程度の有効性を示したとされています。

一方、変異ウイルスに対応する動きも始まっていて、モデルナは3月半ばから、南アフリカの変異ウイルスに対応するワクチンの臨床試験を始めることにしています。また、ファイザーも現在は2回となっている接種を3回に増やした場合、変異ウイルスに対する効果が変わるか調べる臨床試験を始めるほか、南アフリカの変異ウイルスに対応するワクチンの開発を検討しているとしています。

アメリカ政府の首席医療顧問をつとめるファウチ博士は「マスクの着用や人との集まりを避けるなどの対策が引き続き重要となるほか、ワクチンの接種を加速して感染拡大を抑え、ウイルスに変異する機会を与えないようにすることが重要だ」と話しています。