コロナ禍が生理に影響 “生理痛など悪化30%” 初の調査で判明

感染拡大による生活環境の変化が、女性の体にも影響を及ぼしています。東京の民間企業が先月行った初めての調査で、回答したおよそ5000人のうち生理痛や生理前の心や体の不調といった症状が感染拡大前より悪化したと答えた女性が30%に上っていることが分かりました。専門家は「生活環境の変化によるストレスが原因だ」として我慢せず治療を受けるよう呼びかけています。

この調査は女性の健康に関する情報を提供している東京のIT企業「エムティーアイ」が初めて行ったもので、およそ5000人の女性から回答がありました。

それによりますと、感染拡大前と比べて生理痛や生理前の心や体の不調といった症状が悪化したと答えた人は、全体のおよそ30%にあたる1420人に上りました。

症状別に見ますと、複数回答で「イライラする」が62%と最も多く、次いで「不安になる」「頭痛」「生理痛」がそれぞれ50%余りとなっています。

このうち、不安など心の不調は「PMS」と呼ばれる生理前の典型的な症状だということです。

考えられる原因については、外出の自粛や在宅勤務などの影響で「人と会ったり話したりする機会が減り、ストレスを感じる」とか「仕事の負担が増えた」と答える人が多かったということです。

一方、症状が悪化した人のうち病院で治療を受けたと答えたのは20%余りにとどまり、多くの女性が「感染対策」や「我慢できるから」といった理由で受診を控えている傾向が明らかになったということです。

こうした結果について、調査を監修した「成城松村クリニック」の松村圭子院長は「生活環境の変化によるストレスが大きな原因と考えられる。受診を控えると症状をさらに悪化させるだけでなく、最悪の場合、子宮体がんなどの重い病気を見落とすことにもつながるので我慢せず治療を受けてほしい」と話しています。

在宅勤務で症状悪化の女性は

在宅勤務になったことで生理前の症状が悪化し、仕事に影響が出ているという女性もいます。

愛知県内の自動車メーカーに勤める39歳の女性は、感染拡大を受けて去年4月から在宅勤務に移行しました。

これまでは週5日、徒歩で片道20分かけて通勤する生活でしたが、今は外出することはほとんどないといいます。

在宅勤務が始まった当初は自分のペースで仕事ができると前向きに捉えていた女性でしたが、半年ほど前から「PMS」と呼ばれる生理前の症状が悪化したことに気付きました。

生理の1週間ほど前になると不安や無気力、それに強い眠気といった症状に襲われ、ひどい時には床に倒れ込んでしまうこともあるということです。

女性の場合、生理が始まるとこうした症状はいったん治まりますが、次の生理の前には再び現れ、その繰り返しに悩まされているといいます。

症状が悪化した原因について女性は「環境が大きく変わって外出せず人とも会わずに1人でパソコンに向かう生活になり、とてもつらいと感じるようになりました。そのストレスで症状が悪化し、精神的に落ち込んでいる自分に気付いてまた落ち込むという悪循環に陥っていると感じます」と話しています。

こうした中、最近では仕事のペースが落ちたり、これまでにないミスをしたりといった影響も出ているということです。

しかし、男性の上司には相談しにくく、職場には伝えていないということで、女性は「気を遣わせてはいけないという思いもあるし、生理で休むことへの遠慮もあります。ただ、誰にも話せないままこの状態が続くのはしんどいので、病院で治療を受けることも考えたい」と話していました。

専門家「我慢せず治療を」

今回の調査で生理痛などの症状が悪化したという女性が30%に上ったことについて、調査を監修した「成城松村クリニック」の松村圭子院長は「生理痛など女性特有の症状はストレスの影響を受けやすく、新型コロナウイルスの感染拡大による生活環境の変化が大きな原因と考えられる。外出の自粛で家族との関係がうまくいかない、在宅勤務で意思疎通がうまく図れず仕事が進まない、などストレスの要因は増えており、生理前の心の不調で夫婦げんかが増えるなど対人関係に影響するおそれもある」と指摘しています。

また、受診を控える女性が多いことについては「自分の症状がひどいのかどうか人と比較しにくいことも影響していると思う」としたうえで「受診を控えると症状をさらに悪化させるだけでなく、不妊の原因になったり、最悪の場合、子宮体がんなどの重い病気を見落としたりすることにもつながるので、我慢せず治療を受けてほしい」と話しています。

一方、在宅勤務によって人間関係の悩みなどが減り、症状が軽くなる人もいるということで、感じる変化は人によって異なるということです。

松村院長は「現在の生活環境に慣れていくことが大事だ」としたうえで、適度な運動や趣味の時間を作るなどストレスをできるだけ和らげる過ごし方を身につけてほしいとしています。

SNSで悩み共有する取り組みも

こうした中、症状がある女性どうしで悩みを共有しようとSNSで活動を始めた人もいます。

埼玉県の大学院生、中安紀子さん(38)は10年ほど前から生理前になるとイライラしたり、不安に襲われたりする症状に悩まされています。

ひどい時は「死にたい」とか「自分は生きていても価値がない」と感じて精神的に追い詰められることもあるといいます。

ひと月のうち半分はこうした症状が続くため、現在は定期的に治療を受けているということです。
中安さんは、みずからの症状に向き合うとともに、多くの人に状況を知ってほしいと3年前からツイッターで情報を発信していますが、感染が拡大した去年4月からは不安や孤独感といった生理前の症状について解説するイラストを描き、投稿するようになりました。

すると、イラストを見た100人以上の女性から「私も同じような症状で悩んでいる」とか「新型コロナウイルスの影響かもしれない」といった相談や問い合わせが相次ぐようになったということです。

中には「人に話せず孤独を感じていたが、同じ症状の人がいると分かっただけで安心した」という声も寄せられているといいます。

中安さんは今後もこうした交流を通じて症状がある女性どうしで悩みを共有できる場を作りたいとしています。

中安さんは「外出自粛などによるストレスで症状が悪化し、1人で抱え込んでしまう人が増えていると感じます。つらいと思いますが、自分が弱いわけでも悪いわけでもありません。私自身、仲間がいると知った時は本当に心強かったので、SNSを通じて1人じゃないんだよ、ということを伝えたいです」と話していました。

生理休暇の制度 拡充の企業も

生理に関する悩みを抱える女性が増える中、働きやすい環境を整えようという企業も出てきました。

大阪市中央区の化粧品メーカーでは、感染が拡大したあとの去年6月に生理休暇の制度を拡充し、生理痛だけでなく心の不調を含む生理前の症状でも休暇を取得できるようにしました。

この会社では400人余りいる社員のうち7割が女性のため、症状がある中で働くことは、本人の体調はもちろん業務そのものにも影響が出かねないと考え、制度の拡充を決めたということです。

その結果、1月までに前の年の2倍を超える37人が生理休暇を取得しました。

この中には在宅勤務の社員も含まれているということです。

会社では、女性が働きやすくなっただけでなく男性にとっても女性の体調を把握し、業務を効率的に進めることにつながったとしています。

女性社員の1人は「生理前の症状は女性でも現れない人がいてなかなか分かってもらえませんが、会社が理解を示してくれるのはありがたいです」と話していました。

また、管理職の男性は「女性の体調の変化を理解するきっかけになりました。休暇を積極的に取得し、働く時には集中力を高めてもらうことで会社全体にとってもメリットがあると思います」と話していました。

「桃谷順天館」人事部の松尾由佳さんは「働いている人がしんどい時、つらい時に休みを取れるという環境はコロナ禍のストレス軽減にもつながっていると感じている。こうした制度を通じて、社員が男女関係なくお互いを理解し合えるような関係性を築いていければ、より魅力的な企業になると思う」と話しています。