社会

コロナ禍 結婚式にも大きな影響 24万組が延期や中止 業界推計

長期化するコロナ禍は人生の新たな門出となる結婚式にも大きな影響を与えています。ブライダルの業界団体が結婚式場への調査を基に推計したところ、去年1年間におよそ24万組の結婚式が延期や中止を余儀なくされ、業界の経済損失はおよそ8500億円に上るとみられることが分かりました。
式場やホテルなどが加盟する「日本ブライダル文化振興協会」は、各地の式場を対象に結婚式に関するアンケート調査を行い、去年1年間の業界への経済的影響を推計しました。

それによりますと、去年、新型コロナウイルスの感染拡大で延期や中止を余儀なくされた結婚式はおよそ24万組に上り、1年間に式を挙げるカップルのおよそ80%に影響があったとみられることが分かりました。

業界の経済損失はおよそ8500億円に上るとみられ、これは年間の推計市場規模の60%に当たるということです。

協会では、先月の2度目の緊急事態宣言を受け、ことしに入ってからも損失は拡大していると推計しています。

また、結婚に関するプロデュースを手がける東京の会社(エニマリ)が、式を予定しているカップルを対象に先月行ったアンケート調査では、回答した96組のうちおよそ30%が、2度目の緊急事態宣言で結婚式の開催に変更が生じたと答えたということです。

このうち、「延期・再延期を決めた」が47%と最も多かった一方、43%が、1回の招待人数を減らすため“2部制”にしたり、写真撮影だけにとどめたりするなど、「開催の形式を変えた」と答え、新型コロナの影響で結婚式のスタイルが多様化していることをうかがわせています。

「次こそは安心できる日常になってから決めたい」

千葉県出身の幸田翼さん(36)と新潟県出身の梓沙さん(34)は都内で結婚式を挙げる予定でしたが、去年以降の2回にわたる緊急事態宣言で、2度の延期を余儀なくされました。親族や友人を新婦の地元の新潟から東京に呼ぶことに不安を感じたことが大きかったと言います。
二人が用意していた親族や友人、職場の同僚など120人分の招待状は、緊急事態宣言を受けて、発送されることはありませんでした。
二人は「まさか自分たちの結婚式が2度も延期になるとは思ってもいませんでした。どうしようかと、ぎりぎりまで悩みましたが、出席者に感染への不安を感じさせては申し訳ないと考えました」と話していました。
式場にも特別な思い入れがありました。
挙式を計画しているのは、ガラス張りの天井から東京タワーが望めるチャペル。
二人が梓沙さんの実家に結婚のあいさつに行ったとき、話題になったのが東京タワーでした。
「父が東京タワーと同い年で、『俺、東京タワー好きなんだよ』と言ってくれて、そこで式を挙げたら喜んでもらえるかなと」。
東京タワーの真下で父親に感謝の気持ちを伝えることを決めた梓沙さん。
招待者の数を減らして開催することも一時は検討しましたが、多くの仲間に祝福される姿を両親に見せたいという思いもあり、もともと想定していた形での式を考えています。
二人は「次こそは絶対に式を挙げたいので、ちゃんと安心できる日常になってから決めていきたい。今、いちばん優先したいのは、子どもを授かることなので、できれば1年以内に式を挙げられれば。2回延期したことを出席してくれる人にもよい思い出とするために、すばらしい結婚式にしたいと思っています」と話していました。

2部制で結婚式 「感染対策を取れば十分やれる」

「大切な人の前で誓いを立てたい」という思いから工夫を重ね、感染対策を講じながら結婚式を開く動きも出ています。

緊急事態宣言が出ている福岡市で今月、式を挙げたのは、佐賀県出身の田代和也さん(29)と愛知県出身の山岡真紀さん(28)です。

二人は去年、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、友人や会社の同僚などおよそ80人を招いて予定していた結婚式を延期しました。

しかし、新郎の田代さんが、ことしの春、海外赴任することに。

「せめて日本にいる間に」と、今月、式を挙げることを決断しました。

感染対策が必要な今の状況に合った式にしようと、二人は計画していたプランを大幅に変更しました。

まず、密を避けるため式は「2部制」に。

出席者が遠方から移動して来なくてもいいように、新郎新婦がそれぞれの地元に近い福岡と名古屋を訪れて開くことにしたのです。

このうち、今月7日に福岡市で開かれた式では、出席者を親族だけに限定しました。

チャペルに入る際も、検温をしたうえで新しいマスクを着用。
佐賀県に住む80代の祖母は、自宅からオンラインで参加しました。

続いて行われた披露宴も80人が入れる広い会場が使われました。

改めてアルコール消毒をし、新郎新婦と親族が囲んだテーブルには飛まつを防ぐアクリル板も設けられました。

幼い頃から「おばあちゃん子」だったという田代さんは、リモートで参加した祖母に向けて手紙を朗読。

「体が弱かった僕は、おばあちゃんのごはんのおかげで強くなりました。コロナで面と向かって会えないのは本当に悔しいです。おばあちゃんを見て成長できたのでありがとう」と感謝の気持ちを伝えました。

祖母は、画面越しに笑顔で「おめでとう。二人で仲よく頑張って」と語りかけていました。

式場側の配慮で、広い会場には装飾を施した多くの円卓が配置され、タブレット端末に映った祖母との記念撮影も演出されました。
新郎の田代さんは「コロナでどうしようもない中、怒りの持って行き場すらなく、結婚式の開催は半ば諦めていましたが、妻のためにも何とか開きたかった。今回やってみて、感染対策を取れば十分やれると感じたし、むしろ、家族との時間を大切にできてよかった。祖母にも本当は会いたかったが、こういう形でも気持ちは伝わると感じました」と話していました。

式に関わったウエディングプランナーの中平舞さんは「結婚式という大切な一日をお祝いしたい方はたくさんいて、大切な人に見てほしいという気持ちがあると思います。もともと考えていたスタイルとは違う形になったかもしれませんが、家族に感謝が伝わる温かな場になりました」と話していました。

結婚式事情 コロナ禍でどうなっていく?

新型コロナの影響で結婚式事情はどうなっていくのか。

結婚式などの相談に乗っている「ブライダルナビ」の中西由美代表によりますと、開催を両親に反対されたり、感染を広げてしまわないかという不安や世間への後ろめたさに悩むカップルからの相談が増えているということです。

その一方で、親族だけが出席する小規模の式や、式は挙げず二人の結婚写真を思い出として残す「フォトウエディング」など、多様なスタイルも生まれているということです。

中西代表は「大切な人が一堂に集まる機会がどれだけ貴重な時間だったかが、コロナ禍でより鮮明になったのではないか。コロナ以前は、たくさんの人を呼んで余興もして、出席者にどう楽しんでもらうかを重視する新郎新婦が多かったが、多くの人が集まるのが難しい状況の中、結婚式に込める感謝の気持ちや、祝福の在り方そのものに改めて向き合う、いわば“原点回帰”の時を迎えているのではないか」と話しています。

コロナ対策 式場などにきめ細かいガイドライン

およそ350の式場やホテルなどが加盟する「日本ブライダル文化振興協会」は、新型コロナウイルス対策としてきめ細かいガイドラインを作っています。

まず、事前の打ち合わせでは、顧客からの要望があればオンラインで対応できる環境を整えるよう求めています。

そして、結婚式当日は、出席者に、マスクをして会話を控えるよう呼びかけることとしています。

ゴスペルなどの演奏時には、演者と出席者の間隔を2メートル確保するか、飛まつ防止のアクリル板などの設置を求めています。

披露宴の際は、▽できるだけ広い会場を手配したうえで隣とは1席程度の間隔を空け、▽料理は大皿ではなく1人ずつ配膳し、▽お酌や、おちょこの回し飲みは避けるよう求めています。

また、▽会場のドアの開閉は手袋をしたスタッフが行うほか、▽大声を出すような余興は控えてもらい、▽マイクは使用のたびに消毒または交換することとしています。

写真撮影の際は、直前までマスクをして会話を控えてもらい、密集しない形での撮影を求めています。

終了後には、出入り口などで密な状態にならないよう、あらかじめ参列客で混み合う時間帯を把握して係員が誘導することとしています。

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