小林陵侑 スキージャンプW杯18勝目 葛西抜き日本男子単独最多

スキージャンプ男子の日本のエース、小林陵侑選手が19日、ルーマニアで行われたワールドカップで優勝し、ワールドカップの勝利数で葛西紀明選手を抜いて日本の男子では単独最多となる通算18勝としました。

スキージャンプ男子のワールドカップ、個人の22戦目は19日、ルーマニアでヒルサイズ97メートルのノーマルヒルで行われ、小林選手は1回目に94メートルを飛んでトップと3.9ポイント差の7位につけました。

小林選手は逆転をねらった2回目に、この日の最長不倒となる98メートル50の大ジャンプを見せ、合計ポイントを257.9としてこの時点でトップに立ちました。

その後、1回目トップで2回目の最後に飛んだノルウェーの選手が合計ポイントで小林選手を上回りましたが、スーツの規定違反で失格となり、思わぬ形で小林選手が優勝しました。

小林選手は今シーズン2回目、通算18回目の優勝で、ワールドカップの通算勝利数で並んでいた葛西選手を抜いて日本の男子選手で単独最多となりました。

中村直幹選手は26位でした。

佐藤幸椰選手は1回目33位、佐藤慧一選手は36位で、上位30人で争う2回目には、進めませんでした。

小林陵侑選手とは

小林陵侑選手は、岩手県八幡平市出身の24歳。

2018年-19年のシーズンには、スキージャンプ男子で日本選手初のワールドカップ総合優勝を成し遂げましたが、昨シーズンは、腰痛などケガに悩まされ3勝したものの、個人総合3位となりました。

盛岡中央高校では、ジャンプとクロスカントリーで競うノルディック複合にも取り組みました。

高校卒業後は葛西紀明選手が監督を務める札幌市の土屋ホームに所属し、ジャンプ競技に専念し、ピョンチャンオリンピックのノーマルヒルで7位に入るなど飛躍のきっかけをつかみました。

そして2年前のシーズン、ワールドカップ第2戦で初優勝を果たし年末年始に行われる伝統の「ジャンプ週間」で4戦全勝での総合優勝という史上3人目の快挙を達成、シーズン13勝と圧倒的な強さでワールドカップ総合優勝も成し遂げました。

今シーズンはここまで、去年11月の開幕戦で27位、その後も1回目のジャンプで上位30人以内に入れない日やふた桁順位となる日もあるなど、苦戦を強いられていましたが、ことしに入ってからは徐々に調子を上げていて今月13日、自身のワールドカップデビュー戦となったポーランドのジャンプ台で、今シーズン初優勝を果たし、わずか6年で日本の男子選手の最多勝利数「18」に並びました。

持ち味は高い運動能力を生かしたダイナミックなジャンプで、プレッシャーのかかる2回目にヒルサイズを超えるような大きなジャンプを出す勝負強さも持ち合わせています。

兄の潤志郎選手、姉の諭果選手、弟の龍尚選手もジャンプの選手で、スキー界では「小林4きょうだい」としても知られています。

レジェンド 葛西紀明選手の背中を追って

小林陵侑選手が塗り替えた日本の男子選手の最多勝利記録は、これまでスキー界のレジェンド、葛西紀明選手(48)が持っていました。

小林選手がワールドカップ参戦から6年で快挙を成し遂げたのは、“師匠”と慕うレジェンドの背中を追い続けたからでした。

葛西選手は19歳の時からオリンピックに出場し、これまで史上最多となる8回出場しているほか、ワールドカップでは42歳5か月で優勝を果たし、年齢がひとまわり以上も下の世界の強豪をおさえて最年長勝利記録を樹立するなど、数々の記録を作ってきました。

小林選手は高校卒業後「ジャンプをして生きていきたい」との志から葛西選手が監督を兼ねるチームに所属しました。

同じチームで一緒に行動することでレジェンドの偉大さを肌で感じ、技術的面やプライベートでも大きな影響を受けてきました。

葛西選手が課したトレーニングがきっかけの1つ

葛西選手とふたまわりも下の24歳の小林選手が急成長を遂げて、日本選手ではワールドカップで初めてとなる総合優勝を果たすなど、偉業を達成することができたのは葛西選手が課したトレーニングがきっかけの1つでした。

2018年、シーズンに入る前の夏合宿。

葛西選手は、重りをつけたバーベルを担ぎながらのスクワットやインラインスケートで障害物を飛び越えるメニューを与えました。

もともと運動能力には定評があった小林選手ですが、ジャンプで安定した成績を残すためには、助走姿勢を安定させスピードにも乗れるよう下半身の強化が必要でした。

レジェンドが考えた専用のトレーニングをこなした結果、小林選手は、姿勢の低い安定した助走の姿勢が身について力強い踏み切りが可能になり、飛距離が伸びるようになったのです。

「師匠であり、兄貴みたいな存在」

プライベートでも、葛西選手が趣味にしているゴルフに一緒に行ったり、車について話したりしているという小林選手。

当初はレジェンドの存在を怖いのではないかと思っていたということですが、今では「気さくでおもしろい」と親しみを持っています。

昨シーズンごろから葛西選手にアドバイスを受ける機会が減ったという小林選手は、今でも気になった点があればすぐに助言を求めるということです。

小林選手は「師匠であり、兄貴みたいな存在ですね。言ってくるタイプではないので気になったときに聞いたら教えてくれる。趣味でも影響を受けています」と変わらず“師弟関係”が続いていると話していました。

葛西紀明選手「悔しいが うれしい」

小林陵侑選手とワールドカップの通算勝利数で並んでいたスキー界の「レジェンド」、48歳の葛西紀明選手は「僕が何年もかけて積み上げた記録を24歳で抜かれたのは悔しいですが、自分のチームの後輩なのでとてもうれしいです。これからも世界一目指して頑張ってほしいですね」とコメントし、自身が監督も務めるチームの後輩の快挙を喜んでいました。

異例の調整強いられる中でも

小林陵侑選手は、新型コロナウイルスの影響で異例の調整が強いられる中でも課題を少しずつ乗り越えて快挙を成し遂げました。

ジャンプ男子では、日本選手として初めて総合優勝を果たし、昨シーズンはチャンピオンの証し金色のゼッケンを着けて臨み連覇を目指しましたが、腰痛などに悩まされ、個人総合では3位にとどまりました。

コンディションを一定に保つ難しさを実感した小林選手は、体のどこかに痛みがある中でも好成績を残さなければ総合優勝に届かないことを痛感し、今シーズンに向けては「体がどんな状況でもベストなパフォーマンスを出せるように体調面やフィジカル面も安定させないといけない」と筋肉トレーニングだけでなく、テニスやゴルフといったさまざまな競技を取り入れて基礎体力を向上させました。

ところが、今シーズンは感染拡大の影響でこれまでとは全く異なる調整方法を強いられました。

例年は、開幕までに海外遠征をして雪上でジャンプの感覚をつかみますが、去年2月にワールドカップが中断されて以降は、一度も雪上での大会出場や練習ができなかったほか、ヨーロッパのライバル選手の細かな情報も入りませんでした。

コロナ影響の中、技術面見直し

それでも小林選手は、海外遠征ができなくなった時間を利用し、技術面での見直しを始めました。

スタートゲートから踏み切り台までの助走路での姿勢の修正です。

助走路でのアプローチが安定せず、ジャンプにばらつきが出ると感じていた小林選手は、踏み切り台で飛び出す時、わずかに尻の位置を下げることで重心が低くなった分、力が伝わるように意識したのです。

さらに、コロナ禍の状況や経験を逆手に取って、精神面の強化にもつなげました。

札幌市でのサマージャンプの大会は、去年10月末からの6日間で集中的に5つの大会が実施されました。

異例の日程の大会に出場し「ワールドカップでも同じジャンプ台で4日間続けての試合はないし、かなり過酷だった。でもこういう状況での連戦は、勝ち抜くためのいいメンタルトレーニングができたと思う」と精神面にも手応えを感じていました。

ワールドカップでの目標については必ず「先のことは考えずまず1勝」とあくまで目の前の大会だけを考える姿勢を崩さなかった小林選手。

感染拡大の中、先の見えない現状や不安を受け入れ対応する能力や精神的な強さが、“レジェンド”と呼ばれる葛西選手を超える偉業達成につながったといえそうです。

スキージャンプ “もっとメジャーにしたい”

ヨーロッパでは人気の高いスキージャンプ。

小林陵侑選手は「人生そのものだ」という競技を日本でもっとメジャーにしたいという強い思いがあります。

その思いを込める1つが自身のインスタグラムで、5万6000人がフォロー。

競技の様子だけでなく、あえて私服のコーディネートや自宅のインテリアの画像を投稿することで若者の人気を集めています。

ファッションアイテムをそろえることが趣味の1つという小林選手の自宅には、色や柄ごとに分けられたTシャツや「いくつあるかわからない」というスニーカーが所狭しと並んでいます。

若者が興味を抱くテーマにした画像を投稿することで、ジャンプにあまり関心のない人たちにも少しずつ知名度が上がってきたということです。

小林選手は、好きなものを更新しているだけと謙遜しますが「どんな入り口であっても僕を知ってもらい、そこからジャンプが楽しいと共感してくれる人が1人でも増えたらうれしい」と自身のSNSを活用しています。

大会会場の雰囲気作りにも

こうした地道な取り組みだけでなく、大会の会場の雰囲気作りにも積極的に関わってアイデアを出しています。

去年10月、札幌市で行われたサマージャンプの大会の会場ではDJが試合を盛り上げ、ヒップホップが大音量で流れました。

観客が盛り上がって試合を観戦できるように一部を選曲したのです。

出場する選手が会場で流れる曲を選ぶことはほとんどなく、小林選手は「いい雰囲気で試合ができて、飛んでいるほうも楽しいし、ジャンプの見せ方を考えていきたい。見に来たらもっとおもしろいものだよというのを作り上げたい」と話していました。

世界王者を経験した小林選手が日本のジャンプ界を盛り上げていこうと率先して取り組む姿勢は、ほかの若い選手にも大きな刺激を与えています。

小林選手は、今回の快挙で注目を浴び、興味を持つ人たちが増えることで、ジャンプがかつての長野オリンピックのような大きな盛り上がりを見せて、さらにメジャーになることを願っています。

スキージャンプ W杯 日本の男子選手 過去の記録

スキージャンプワールドカップ、日本の男子選手でこれまでの最多勝利となる通算17勝を挙げたのは、小林陵侑選手が所属するチームの監督も務める48歳のレジェンド、葛西紀明選手と小林選手の2人です。

次いで船木和喜選手が通算15勝、原田雅彦さんが通算9勝をあげています。

また、日本の男子選手の1シーズンの最多勝利記録は、小林陵侑選手がジャンプ週間で完全優勝を達成するなど圧倒的な強さを見せ、男子の日本選手として初めてワールドカップ総合優勝を果たした2018-19年シーズンの13勝です。