「続けてほしい」 時短要請受けた“深夜食堂”のいま

「続けてほしい」 時短要請受けた“深夜食堂”のいま
深夜の中国料理店。近くの工場で働く人やトラックの運転手などが次々と店に入り、名物のタンタン麺を味わっていました。

夜中まで働く人たちの「続けてほしい」という声を受けて、政府の緊急事態宣言が出ても深夜の営業を続けてきた、この店。

しかし新型コロナウイルス対策の特別措置法が改正され、飲食店が営業時間短縮の命令に従わない場合に罰則が科せられることになり、店主は、自治体の要請通り、午後8時にのれんを下ろすことを決めました。先の見えない不安の中で、ギリギリの模索を続ける飲食店の“いま”を取材しようと、私は店を訪ねました。(国際放送局 井上登志子)

働く人の“深夜食堂”

その店は埼玉県草加市にあります。

工場が多く集まる郊外に店を構えて37年。タンタン麺が看板メニューで、まろやかな辛さのトウガラシとニンニクがきいた独特の味わいを求めて、多くの客が訪れます。
私が訪ねたのは、2月12日の夜。周囲の暗闇を照らすように、こうこうと輝く看板。

店では、周辺の工場で働く人たちや、運送会社のトラックの運転手、それに近所の住民が黙々と麺をすすっていました。

映画やドラマで話題になった「深夜食堂」のような光景です。
夜遅くまで働く人の需要にこたえるため、店はこれまで、午後6時から午前2時までの夜間に営業してきました。

客の一人に話を聞くと「夜遅く、家に帰っても食事を作る気力もない。この店が遅くまで開いていてくれて本当に助かっている」と話していました。

通常営業を続ける決断

店を経営するのは、梁祥亀さん(67)。ことし1月、ある決断をしました。

新型コロナウイルスの感染拡大防止を図る緊急事態宣言。埼玉県から午後8時で営業を終わるよう要請されました。

しかし、店が開くのは午後6時。要請どおりでは、一日たった2時間しか営業できません。そして、店を午後8時で終えてしまっては、深夜まで働く人たちの「食堂」の役目も果たせなくなります。

梁さんが考え抜いた末に出した結論は、県の要請に応じずに、「通常営業を続けること」でした。

通常営業を続けた理由は

なぜ通常営業を続けるのか。梁さんには、いくつかの主張がありました。
「2時間だけの営業では経営が成り立たない」
一日の売り上げはおよそ4分の1に減り、6万円の協力金が入っても店の維持費や従業員の給料には足りません。
「できるかぎりの感染防止対策をとっている」
入り口での検温と手の指の消毒。テーブルには仕切りを置き、使用後は毎回、消毒します。客には静かに食べて、食べ終わったらすぐに出てもらうよう、呼びかけました。

梁さんは、こう話します。
梁さん
「きちんと対策をとっている店もあるのに、飲食店だけが感染源であるかのように一律に規制されることは納得できなかった」
「食材の取引業者十数社のことも心配」
この店との取引が減れば、業者にも大きな打撃になります。

そして何よりも、店が午後8時で閉まると困る、続けてほしいという多くの客の声です。

周辺の工場で働く人やトラックの運転手など、夜遅く仕事が終わったあとに食事の場所に困るという人も多いのです。
店では通常営業を続ける理由を紙に書いて、テーブルに置いていました。これを見た客の一人が写真に撮り、「至極まっとうな内容だ」とツイッターに投稿したところ、その内容に共感して、7000近くの「いいね」が集まりました。

特措法改正で新たな決断

要請に応じずに営業を続けたこの店が、また新たな決断を迫られました。改正された新型コロナウイルス対策の特別措置法。

緊急事態宣言の対象地域で営業時間の短縮を求める自治体の知事による命令に飲食店が従わない場合、30万円以下の過料を科す罰則が新たに盛り込まれました。


宣言が出される前でも同様の命令ができる「まん延防止等重点措置」が設けられ、応じない場合は20万円以下の過料が科されます。

改正法は2月13日に施行。もし行政が命令を出し、それに従わなければ30万円以下の過料が科されます。罰則を科されても通常営業を続けるのか、店は再び、決断を迫られました。

店主の梁さんには、客のために、十分な対策をとって通常営業を続けてきたことは、間違ってはいなかったという思いもありました。
しかし、法律に背いてまで通常営業を続けることはできないと覚悟を決め、週末を挟んで次の営業日となる2月16日から、午後8時で店内営業を終えることを決めました。

新たな営業形式へ

経営への打撃を少しでも抑えようと、これまでより1時間早く店を開け、午後5時から8時まで3時間、店内営業を行うことにしました。そして新たに午後8時から10時の間はテイクアウトの営業も始めることにしました。
看板メニューのタンタン麺も持ち帰りできるよう、どんぶり型の容器も準備しました。

客に向けて、新たな方針を説明するため店内に掲示した紙には、こう書かれていました。
「時短命令は依然受け入れがたく、いかんともしがたいことではありますが、法律で決まった以上従わざるをえません」

先の見えない不安の中で

梁さん
「営業時間を短縮して、どこまで持ちこたえられるのか不安は大きいです。それでも、店に通ってくれる客のためにもなんとか工夫しながら経営を続けていきたい。国は飲食店に対して一律の規制をするのではなく、それぞれの店の実情に沿った柔軟な支援をしてほしい」
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、対象区域で一律に行われた飲食店への営業時間短縮の要請。経営が悪化し、閉店する店も増えています。

要請に応じない店が「ルールを守らない」と批判を受ける一方、なんとか店を守り、客の要望にも応えたいと通常営業を続けてきたこの店にはSNSで共感も寄せられました。

先の見えない状況のなか、多くの飲食店が、存続をかけてぎりぎりの模索を続けていることを強く感じました。
国際放送局
井上登志子
平成6年入局
鹿児島局、社会部などを経て現所属。
国際放送の海外へのプロモーションなどを担当。