羽毛は使いません 注目集めるサステナブル・ファッションとは

羽毛は使いません 注目集めるサステナブル・ファッションとは
寒い時期に手放せなくなるダウンジャケット。一般的には水鳥の羽毛が使われます。一方、最近は羽毛を使わないタイプも次々と登場。使用済みのペットボトルから東南アジアの植物の繊維まで、その幅を広げています。背景には、岐路に立つファッション業界の事情もあります。(国際部記者 田村銀河)

“アヒルを救え”

「羽毛は一切使っていません」

都内の百貨店に設けられた期間限定の店舗で取材したのは、「アヒルを救え」という意味のブランド名がついたジャケットです。その名のとおり、内部の詰め物には水鳥の羽毛は使われていません。一方、見た目の膨らみや柔らかさは変わらず、着てみると、暖かさや軽さが印象に残ります。
2012年に創業し、これまでに33の国や地域で店舗を展開。日本にも、去年秋に本格進出しました。

2つの危機をきっかけに

創業したのはイタリア北部・ミラノで、祖父母の代からアパレル業界にいるというニコラス・バルジさん。小さい頃から自然が好きで、アパレル業界に身を置いてからも、水鳥から羽を引き抜いてダウンジャケットに使われていることに漠然と疑問を持っていたと言います。

そんな中、2つの危機がバルジさんの考え方を明確に変えました。2008年のリーマンショックと、それに続いて起きたヨーロッパの信用不安、ユーロ危機です。

ファッション業界でも破綻するブランドが相次いだのです。
バルジCEO
「当時は既存のファッション業界にとってとても厳しい時期でした。そうした時期に将来を考えた結果、『持続可能性=サステナビリティー』という発想に寄り添って新しい事業を始めてみようと思いつきました。文化や社会の大きな変化のなかで、『サステナビリティー』が求められる時代になるだろうと考えたのです」

羽毛の代わりは…

羽毛の代わりになるものはないか。

試行錯誤の末、バルジさんが目をつけたのは、ペットボトルです。使用済みのペットボトルを粒子状にし、ポリエステル繊維に絡めることで、羽毛に引けを取らない機能を持つ独自の素材を開発しました。
使用済みペットボトルの素材だけを詰め物に使ったジャケットでは、1着当たり20本が使われ、6~8羽の水鳥の羽毛を使わなくてよい計算になるということです。

新型コロナウイルスの感染拡大以前は年に2回は日本を訪れていたというバルジさん。日本の消費者の間でも、「サステナビリティー」の意識は高まっていくとみています。
バルジCEO
「日本には新しいアイデアを発明する文化があると思います。動物愛護の観点はこれまではあまり重んじられて来なかったかも知れませんが、サステナビリティーや技術革新の点で人々の意識は高いので、環境に配慮された質の高い技術は好まれると思っています」

日本発の“脱羽毛”も

一方、日本の企業の間でも、新たな素材で“脱羽毛”に挑む動きがあります。大阪発のブランドが利用しているのは、カポックという木の実です。
カポックは、東南アジアや中南米、アフリカなどに広く自生していて、高さ70メートルほどになるものもあります。その実はアーモンドを大きくしたような見た目で20センチほどあり、中には非常に細かい繊維が綿状になって詰まっています。これまでも、救命胴衣やぬいぐるみの詰め物として繊維が使われてきました。

この素材に目をつけたのが、深井喜翔さん(29)です。

大阪で70年以上続く老舗アパレルメーカーの4代目。家業を継いで事業を進める中で、上述のバルジさんと同じく、ファッション業界の持続可能性に意識を持つようになったと言います。
深井喜翔さん
「アパレル産業では大量生産や大量廃棄が当たり前になっていますし、工場のある東南アジアで賃金が上がる一方で、商品の価格は安いままです。現状を何とかしないと、近い将来、ビジネスとして立ちゆかなくなると感じていました」

ファッションの楽しみも生かしつつ

カポックについて知った深井さんは2年前、インドネシアに飛んで生産農家や研究者を訪ねました。
野生のカポックは実に150種類ほどあるということですが、その中から最適な繊維を選び、現地の農家と販売契約を結びました。

カポックの強みは、細い繊維の中央が空洞になっていること。軽いだけでなく、湿気を吸うことで熱を持つ「吸湿発熱」と呼ばれる特徴があるといいます。1本の木から年間に30着分の繊維がとれるということで、現地の森林保存を進めながら利用を増やし、雇用の創出にもつなげていこうとしています。
家業とは別のブランドを立ち上げた深井さん。ことし、都内で期間限定での店舗を開きました。現在、スポーツ用品メーカーと協力してアウトドアウエアへの活用の話も進めていると言います。

市場や商品の幅が広がれば、年間を通した生産体制の維持ができるようになります。
深井さん
「ファッションを楽しむことと、未来について考えることは両立できると思っています。これからも事業性と社会性の両立を目指していきたいです」

岐路に立つファッション業界

持続可能性を追求するブランドが相次いで登場する背景はどこにあるのか。ファッション業界に詳しい日本エシカル推進協議会の副会長、生駒芳子さんに話を聞きました。

生駒さんによれば、ファッション業界は、大量の水を使い、温室効果ガスも排出させているとして、国連から「世界で第2位の汚染産業である」と名指しで非難されたこともあったといいます。それだけに、こうしたブランドは今後ますます主流になっていくとみています。
生駒さん
「皮革製品に対する反対の声は昔からありましたが、2015年に国連で『SDGs(持続可能な開発目標)』が採択されてからは、環境に配慮しないファッション業界の企業に対し、投資家などから一層厳しい目が向けられるようになりました。今後、環境に配慮していないファッションブランドは生き残っていけなくなるのではないでしょうか」
また、生駒さんが注目するのは、「Z世代」などとも呼ばれる若い世代の消費動向です。

物心ついたころから地球温暖化などの環境問題が身近で、自分が購入するものの環境への負荷などの情報がすぐに手に入る世代が消費の中心になっていくのにつれて、環境への配慮などの傾向は強まる可能性があると指摘します。
生駒さん
「環境や人権に配慮した消費を『エシカル消費』といいますが、ファッション業界でも商品の情報の開示が一段と進むことで、消費者がますます重きを置くようになっていくでしょう。最新のデジタル技術の活用を『デジタルトランスフォーメーション』と言いますが、今後は、いわば『エシカルトランスフォーメーション』も進んでいくのではないかと思っています」

ポストコロナで消費動向は

新型コロナウイルスの猛威によって、ファッション業界もかつてなく厳しい状況に置かれています。自分自身を振り返っても、この1年間は外出用の服をほとんど買っていないことに気付きます。

今回、取材した2つの企業も、コロナ禍による売り上げへの影響は避けられないということですが、どちらも、コロナによって人々の生活環境が大きく変わったことで、収束後は、環境志向がさらに高まるのではないかと話していました。

岐路に立つファッション業界や人々の消費動向の変化を、今後も見つめていきたいと思います。
国際部記者
田村 銀河
平成25年入局
津放送局、千葉放送局をへて、現在国際部でヨーロッパや気候変動問題を担当