NASA 火星探査車「パーシビアランス」が火星に着陸 生命探査へ

NASA=アメリカ航空宇宙局の新たな火星探査車「パーシビアランス」が日本時間の19日朝、火星に無事着陸しました。今後、2年近くにわたり、生命の痕跡を探すほか、火星では初めて小型のヘリコプターの飛行試験を行うなど、将来の有人探査に向けた調査や実験を行う予定です。

去年7月にアメリカ南部フロリダ州から打ち上げられたNASAの火星探査機は、7か月かけて宇宙空間をおよそ4億7000万キロ飛行し、日本時間の19日朝、火星の大気圏に突入しました。
そして、パラシュートで減速したあと、エンジンを噴射しながら、ゆっくりと降下し、地表からおよそ20メートルまで近づいたところで、探査車「パーシビアランス」をつり下げて地表に降ろし、着陸に成功しました。
着陸後に開かれた記者会見で、NASAのジャージック長官代行は、バイデン大統領から祝福の電話があったことを明らかにしたうえで、着陸の過程は「すべてが計画どおり順調にいった」と述べました。

「忍耐」を意味する「パーシビアランス」と名付けられた探査車は、かつて湖だったと考えられている「ジェゼロ・クレーター」という地点に着陸し、火星に生命が存在した痕跡を見つけ出すことが期待されています。
また、搭載された重さ2キロの小型ヘリコプターで、火星の薄い大気の中でも飛べるかどうかを確かめる初めての飛行試験にも挑むほか、将来、地球に持ち帰るためにドリルで地質のサンプルを採取することも計画しています。

今回の探査は2年近く行われる予定で、生命の成り立ちを解明する手がかりが得られるか、注目されています。

着陸直後に撮影された地表の様子

火星に着陸した探査車「パーシビアランス」は、着陸直後に火星の地表の様子を撮影し、地球に送りました。
撮影された画像には平たんな地表にところどころ石のようなものが確認できるほか、探査車の影が写っています。

探査の背景は

今回の探査は生命の痕跡を直接的に見つけようという点でこれまでの火星探査とは大きく異なっていると専門家は指摘します。

これまでの探査は、火星の環境が生命にとって生存可能なものか調べることが大きな目的でした。

しかし、今回の探査はドリルを使って火星の岩石のサンプルを採取し、その中に微生物や生命の痕跡を直接的に見つけるのが目的です。

過去に火星には水があったことを示す観測結果が得られているなど、火星には生命が存在したとしてもおかしくないと考える研究者が増えてきたことが背景にあります。

そうしたことを背景に、火星のサンプルを地球に持ち帰る時の国際的なルールを作ろうという動きも加速しています。

宇宙や天体に関する世界的な科学者団体である国際宇宙空間研究委員会では、持ち帰った火星のサンプルに未知の生命が存在した場合を想定して、危険性や対処法を議論しています。

この中では、地球外生命が地球を汚染することがないようにサンプルを隔離する特殊な施設を建設することや隔離したまま生命やその痕跡を調べる技術の開発、それに地球の生命とは全く異なる組織や構造をもつ生物が見つかったときの対処法などについて検討されています。

いずれも、今回の探査で得られたサンプルを、地球に持ち帰るまでにはまとめられ、その方針に従って隔離施設の建設などが進められることになっています。
国際宇宙空間研究委員会にアジアからただ1人の委員として検討に参加している東京大学理学部の鈴木庸平准教授は「火星のような環境でも微生物だったら生息できる可能性があることがわかってきていて、もし本当に火星に生命が存在していれば、その痕跡は比較的簡単に見つけられるのではないかと考えられてきています。地球以外にも生命はいるのかという科学の最大の謎の1つに一気に迫るもので、世界中が注目しています。一方、サンプルを持ち帰った時の安全を確かめる検査などは国際的な枠組みで決める必要があり、世界を守るという観点からもとても重要になっている」と話していました。

主任エンジニア「生物の痕跡見つかることを期待」

今回の探査計画の主任エンジニアを務めるアダム・ステルツナー博士は、「パーシビアランス」の主な目的について「着陸地点は水をたたえた湖だったところで水の流れがあったことを示す堆積物とみられるものも見つかっている。科学者は、この堆積物を調べることで何らかの生物の痕跡が見つかることを期待している」と話しています。

「パーシビアランス」とは

「パーシビアランス」は火星への着陸に成功したNASAの探査機や探査車としては9つ目になります。

「パーシビアランス」は小型車と同じくらいの大きさの車両で、19台のカメラや、温度や湿度を観測したり物質の構成を分析したりする装置など、目的の異なる7台の機器のほか、ロボットアームも備えています。

また、ドリルで穴を開けて地質のサンプルを採取することもできます。

「パーシビアランス」は、かつて湖だったと考えられている場所に着陸し、そこに残された物質を分析して今回の探査の最大の目的である、火星に生命が存在していたことを示す痕跡を探すことにしています。

また、将来的に別の探査機で地球に持ち帰ることを念頭に、採取した試料をカプセルに保管しておくことも目的の1つです。

このほか、将来、人類が火星に降り立って探査を行うための準備として、二酸化炭素が主な成分の大気を利用して酸素を作り出す技術の実験も予定されています。
さらに「パーシビアランス」には、火星の薄い大気の中でも飛べるか飛行技術を確かめるため、重さ2キロの小型ヘリコプター「インジェニュイティ」が搭載されていて、成功すれば、地球以外で飛ぶ初めてのヘリコプターになります。

火星でもヘリコプターが使えることがわかれば、今後の別の探査計画で探査できる範囲が大幅に広がると期待されています。

「パーシビアランス」は、着陸後、およそ680日間にわたって探査を行う予定です。

火星と火星をまわる軌道では、アメリカ、インド、そしてESA=ヨーロッパ宇宙機関などの探査機合わせて8機が活動中でしたが、今月に入り、アラブ首長国連邦と中国の探査機も相次いで軌道に到着し、将来の有人探査を視野に調査と研究がさらに活発になるとみられます。

各国の火星探査機が相次いで到着

地球と火星はおよそ780日に1度、距離が最も近くなるため、火星の探査機はこの時期をねらって打ち上げられます。

去年7月はちょうどこの時期にあたったため、
▽アメリカの「パーシビアランス」のほか、
▽UAE=アラブ首長国連邦の「HOPE」、
▽中国の「天問1号」が、
火星を目指してそれぞれ打ち上げられました。

これまで火星やその周りの軌道では、アメリカや、ESA=ヨーロッパ宇宙機関とロシア、それにインドの探査機など、8つの探査機や探査車が活動してきましたが、今月に入り「パーシビアランス」をはじめとする3つの探査機や探査車が相次いで到着したことで、その数は11に増えました。

このうち中国の「天問1号」は、ことし5月にも、搭載している探査車を切り離し、火星に着陸させることを目指しています。
もし成功すればアメリカに次いで2番目となり、世界の宇宙開発をリードする「宇宙強国」を目指す中国として、大きな成果となります。

一方、アメリカは2030年代に火星への有人飛行を行うことを目指していて、今回の「パーシビアランス」でも、将来的に別の探査機で地球に持ち帰ることを念頭にドリルで資料採取してカプセルに保管するほか、有人探査を行うための準備として、二酸化炭素が主な成分の大気を利用して酸素を作り出す実験も予定していて、火星を舞台に次の世代の宇宙開発競争が激しくなろうとしています。

専門家は成果に期待

今回の探査について専門家は「生命の痕跡が見つかったとしてもおかしくないと思っている」と話しています。

地下の微生物の研究者で、火星の生命探査などに関する国際的なルール作りに、アジアから委員として、ただ1人参加している東京大学理学部の鈴木庸平准教授は、探査車から送られた火星の画像について「土が薄くかぶっていて、大きな石も転がっている。近くに岩があるのだろうと想像されます。昔はクレーターで湖ができていた場所として知られているところで、想定していたところに着陸できたことに非常に感動している」と感想を語りました。

そして、地球の岩石の中にも生命が存在していることが最近わかってきていて、こうしたことが今回のような火星での生命探査の背景にあると指摘します。

「はじめはこんな岩の中には生命はいないと思ったのですが、この中には微生物が満ちあふれている。火星にある岩石に近い種類の地球の石でも筋のような模様の部分にものすごい数の微生物がすみついていることがわかってきた。今回、着陸した場所は湖とか河川から土砂が運搬されて、たまっている場所になり、特に粘土など生き物が住み着きやすい物質があることが、これまでの観測衛星による調査でわかっているところだ。火星の岩の中に生命の痕跡が見つかったとしても全然おかしくないと思っている」と今回の探査のねらいを解説しました。

そして、生命の痕跡を直接、探す今回の探査の意味は大きいと説明します。

「これまでは火星は生命が住めるような環境であるかを調べていたのだが、今回は生命の証拠を得ようということで、生命の存在を証明するかもしれない機会になる点でこれまでと全く違う。見つかったら非常におもしろいし、見つからなくても生命の起源について前進するので、どちらになっても非常におもしろい成果が得られるのではないかと思う。生命の起源を科学的なデータで証明できるかもしれず、研究者は今回の着陸を非常に喜んでいる」と指摘しました。

その一方で、難しい点もあるとしていて「目で見て、生き物の形が見えるかもしれないが、本当に生命なのか生命以外のものが作り出したのか、しっかりと分析しないと決定できない。地球に持ち帰って調べることで本当に生命の痕跡か、はっきりすると思う」と、地球にサンプルを回収するまでの一連のミッションが成功することに期待していました。

そして、実は火星には生命がいる可能性がさらに高い場所があるものの、今回はあえてそこを避けて探査すると言います。

「火星の一部に、今も水があるのではないかと指摘されている場所がある。火星の黒いしま模様が現れたり、消えたりするので、地下から水がしみ出ているとされる場所が指摘されている。国際的な取り決めで火星の生き物が存在する可能性が高い場所では、(探査機についた)地球の生き物を持ち込んで生態系を壊してしまうおそれがあるので、そうした場所には入らないということで、今回の着陸場所が選ばれている」と話し、国際的なルールや地球外生命への影響などに配慮する計画になっているとしています。