アメリカ パリ協定にきょう復帰 国際社会での指導力回復に向け

アメリカは地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰しました。バイデン政権は温室効果ガスの削減に向けて各国の協力を求め、国際社会での指導力の回復につなげたい考えで、国連のグテーレス事務総長はアメリカが主導的な役割を果たすことに期待を示しました。

アメリカのバイデン政権は19日、トランプ前大統領が離脱した地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰しました。

バイデン政権は国内の温室効果ガスの削減に取り組むとともに、途上国の排出削減を支援し、4月に開催する温室効果ガスの主要な排出国のサミットなどを通じて各国にも削減に向けた協力を求めて、国際社会での指導力の回復につなげたい考えです。

アメリカの協定への復帰について国連のグテーレス事務総長は18日、会見で、「国際社会による気候変動対策が強化される」と述べて歓迎しました。

そして、「アメリカは世界最大の経済大国として経済力と技術力の面で極めて重要な役割を担い、COP26の成功の可能性を変えるだろう」として、ことし11月にイギリスで開かれる地球温暖化対策の国際会議、COP26の成功に向けてアメリカが主導的な役割を果たすことに期待を示しました。

バイデン政権は今後、対策を本格化させ、石油や天然ガス産業への補助金を削減する一方、洋上風力発電を2030年までに倍増するなど、再生可能エネルギーへの投資を増やして雇用を創出する方針です。

一方で石油や天然ガス産業などの保護を重視したトランプ前政権からの大幅な政策転換には関連企業などからの反発も強く、対策を思惑どおりに進められるかは不透明だとの見方もあります。

国連 グテーレス事務総長「気候変動対策が強化される」

アメリカのパリ協定への復帰を前に、国連のグテーレス事務総長は18日、記者会見を開き「歓迎すべき瞬間が来る」と述べました。

そして「国際社会による気候変動対策が強化される」として、EU=ヨーロッパ連合や日本などに続いてアメリカが2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする取り組みに加われば世界の排出量の3分の2を減らすことにつながるという認識を示しました。

さらにグテーレス事務総長は、パリ協定が国連への提出を義務づけている国別の温室効果ガスの削減目標について、アメリカが各国の模範となるような削減目標を提示することに期待を示しました。

そのうえで「アメリカは世界最大の経済大国として経済力と技術力の面で極めて重要な役割を担い、COP26の成功の可能性を変えるだろう」と述べて、ことし11月にイギリスで開催される予定の地球温暖化対策の国際会議、COP26の成功に向けてアメリカが主導的な役割を果たすことが必要だという考えを強調しました。

小泉環境相「復帰を歓迎」

アメリカの「パリ協定」への復帰について、小泉環境大臣は記者会見で「アメリカは世界第2位の温室効果ガスの排出国であり、パリ協定の目標の達成に向けて前向きなニュースなのは間違いない。復帰を歓迎し、世界全体の気候変動対策を強化する役割を日米がともに進めていければと思っている」と述べました。

そして、アメリカで気候変動問題を担当するケリー大統領特使などと会談を重ねていることに触れ「日米協力の新たな領域をつくることができているのではないか。今後、日米同盟の中でも『脱炭素』という目標がしっかりと共有されるように連携を深めていきたい」と述べました。

加藤官房長官「アメリカが開催の気候サミットも重要な機会」

加藤官房長官は、午後の記者会見で「アメリカがパリ協定に復帰することを日本として歓迎する。気候変動対策に関する国際的な機運が高まりを見せており、アメリカが4月に開催する気候サミットも重要な機会で、諸般の事情が許せば、菅総理大臣も参加する方向で検討している」と述べました。

そのうえで「パリ協定が目指す脱炭素社会を実現するため、先端技術分野の研究開発や国際的なルール策定、インド太平洋諸国の脱炭素移行のための協力を通じて、アメリカと連携・協力を深めながら、気候変動分野での国際的な協力をリードしていきたい」と述べました。

パリ協定 復帰のアメリカの役割に注目

パリ協定は2015年に採択された地球温暖化対策の国際的な枠組みです。

アメリカの復帰で締約国は190の国と地域に上ります。

協定では世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ2度未満に保つとともに、1.5度に抑える努力をすることを目標に掲げています。

そのうえで、世界の温室効果ガスの排出量を今世紀後半には実質的にゼロにするとし、先進国や発展途上国などすべての国が温室効果ガスの削減目標を設けて対策を進めることを義務づけています。

削減目標は5年ごとに条約の事務局に提出し、更新する際には前の目標よりも前進させるとしています。

協定の採択に向けては、当時のアメリカのオバマ政権が温暖化対策に消極的だった中国やインドに働きかけるなど主導的な役割を果たしていて、今回の復帰によってアメリカが再び世界的な温暖化対策をけん引していくかが焦点です。

温室効果ガス 世界の排出量の推移

世界全体の温室効果ガスの排出量は統計のある1970年以降、毎年のように増えてきました。

EU=ヨーロッパ連合の研究機関、共同研究センターによりますと、おととし、世界全体の二酸化炭素の排出量はおよそ380億トンに上り、1970年と比べると倍以上に増えています。

このうち中国が世界全体の排出量の30.3%を占めて最も多く、続いてアメリカが13.4%、EU27か国とイギリスが合わせて8.7%、インドが6.8%、ロシアが4.7%、日本が3%などとなっています。

G20=主要20か国のメンバーだけで世界全体の排出量の80%近くを占めています。

一方で新型コロナウイルスの影響で、去年の排出量は前の年よりも4%から7%減少するとみられていて、排出量が前の年を下回れば、金融危機の影響を受けた2009年以来となります。

ただ、新型ウイルスで深刻な打撃を受けた経済の立て直しにあたって、風力や太陽光など温室効果ガスの排出が少ないクリーンなエネルギーへの転換が進まなければ、景気回復とともに再び排出量が増えることが懸念されています。

バイデン政権最優先課題の1つ

バイデン政権は気候変動への対応を経済や外交、安全保障に関わる最優先課題の1つとして重視しています。

国内では再生可能エネルギーへの投資を増やし、新たな産業として雇用の創出に結びつけるとともに、原油や天然ガスなどからの転換をはかり、2035年までに発電に伴う二酸化炭素の排出をゼロにすることを目指しています。

また気候変動を安全保障の面からも緊急の課題と位置づけ、地球規模で対策を推進するためホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議に担当の大統領特使を新たに設けて、パリ協定の取りまとめにあたったケリー元国務長官を起用しました。

そして今後、ほかの主要な温室効果ガスの排出国にも削減目標の引き上げを求めるとともに途上国への支援を強化するとして、今後の世界的な取り組みを主導して、国際社会での指導力の回復を目指す考えも示しています。

特にアメリカを超える世界最大の温室効果ガス排出国の中国に対しては、最大の競争相手だとする一方、気候変動対策に関しては新型コロナウイルス対策や核不拡散とともに連携が可能な分野だとして協力を模索する姿勢も示しています。

一方で石油や天然ガスなどのエネルギー産業の保護を重視したトランプ前政権からの大幅な政策転換には関連企業などからの反発も強く、対策を思惑どおりに進められるかは不透明な面もあります。

最大の温室効果ガス排出国 中国は

温室効果ガスの世界最大の排出国である中国は気候変動問題に国を挙げて取り組む姿勢を鮮明にしています。

習近平国家主席は去年9月の国連総会で、二酸化炭素の排出量について「2030年までにピークに達し、2060年までに実質ゼロを実現できるよう努力する」と宣言しました。

その後、去年12月にはGDP=国内総生産当たりの二酸化炭素の排出量について「2030年までに2005年に比べて65%以上削減する」と表明し、パリ協定の締結に合わせて示していた削減目標を一段と引き上げました。

中国としては環境問題への対策に加え、エネルギー安全保障の観点からも風力や太陽光などの再生可能エネルギーの発電を増やし、化石燃料への依存度を下げたいねらいがあるとみられます。

またトランプ前政権のもとで気候変動の問題に消極的だったアメリカとの違いを強調し、この問題で国際的な主導権を握るねらいもあるとみられます。

中国政府は来月開かれる全人代=全国人民代表大会で、新たな「5か年計画」と2035年までの長期目標を示すことにしており、習主席が掲げた目標の達成に向けて、さらにどこまで踏み込んだ対策を盛り込むかが注目されます。

ただ、中国の電力事業に詳しい日本の専門家は「2030年までに排出量のピークを迎える目標は想定の範囲内だが、2060年までの実質ゼロ実現に向けては、かなり意欲的な対策をとらなければ実現は難しい」と話しています。

このため水素を活用した次世代のエネルギー開発や、昼間の電気を蓄える蓄電技術の改良など、一層の技術革新を行う必要性に迫られています。

中国の気候変動対策の柱の1つが電気自動車=EVへの転換です。

中国は年間2500万台以上の新車が販売される世界最大の自動車市場です。

自動車から排出される温室効果ガスを削減するため、中国政府は国家戦略として、環境規制や補助金などを通じてEVや充電できるプラグインハイブリッド車などの「新エネルギー車」の普及を積極的に後押ししています。

去年の新エネルギー車の中国国内の販売台数は136万台余りと過去最高で、9年前と比べて160倍余りに拡大し、世界最大規模のEV市場となっています。

中国の専門家でつくる団体は去年10月、2035年をめどにすべての新車を新エネルギー車やハイブリッド車にして、ガソリンだけの車はゼロにするという工程表を中国政府の指導を受けてまとめています。

ただ、EVが走行するのに必要な電力の供給について、中国では依然として石炭火力発電への依存度が高いことから、気候変動対策としての効果を疑問視する声もあります。

中国政府がEVの普及に力を入れる背景には、環境対策だけでなく、ガソリン車市場で日本や欧米のメーカーが圧倒的なシェアを占める中、今後のEV市場の競争で優位に立とうという産業政策としてのねらいもあるとみられています。