“自由” それだけじゃなかった

“自由” それだけじゃなかった
「ご自身の都合に合わせて働けます」
「シフト制でプライベートも充実」
求人の募集でよく見かけることばです。
「シフト制」は曜日や時間を自分で選べる、「自由」な働き方です。
でも、コロナ禍の今、“法の抜け穴”ではないかという指摘も出ています。
(社会部記者 大西由夏)

「大企業の非正規労働者」も支援

2月5日、大きなニュースが入りました。
国が非正規雇用で働く人への支援を強化したのです。
「休業支援金」は勤め先から休業手当を支払ってもらえない人に対して、国が賃金の8割を直接、支給する制度で、去年4月に設けられました。

これまでは中小企業で働く人しか申請できませんでした。

「なぜ、大企業で働いているというだけで、国に助けてもらえないのか」
大企業でも、シフト制で働く非正規雇用の人などに休業手当が支払われないケースが相次ぎ、国が対象を広げたのです。

発表の後、私は、これまでに取材させていただいた人たちに話を聞きました。

「本当によかった」「ほっとしました」という声の一方で、喜びきれない様子も伝わってきました。

10年以上働いても…

「理不尽だという思いは変わらないです」
電話越しにそうつぶやいたのは、40代の男性です。
男性は10年以上、「大企業」のホテルでアルバイトとして働いてきました。
シフトは原則、1週間ごとに決めてきました。
おおむね週5日、1日10時間以上、勤務。
宴会や結婚式の配膳サービスを、責任を持ってつとめてきました。
しかし、感染拡大の影響を受けて、去年3月からシフトはゼロに。
月25万円ほどの収入が無くなりました。
ホテル側は「雇用契約は残っている」と説明。
「また仕事が入ったらお願いします」と繰り返しました。

正社員や一部の契約社員には休業手当がありました。

一方、男性を含めた多くのアルバイトには支払われていないと言います。
40代の男性
「10年以上、やりがいを持って働いてきた、好きな職場です。自由な働き方だと思っていました。でも、正社員と同じか、それ以上の時間、働いてきたのに、こういう時にはアルバイトは別の扱いをされるんだなと、思い知らされました」

支援の対象になったけど

感染の拡大が続く中、安定した仕事はなかなか見つかりません。
去年の秋、ようやく見つけた清掃員の仕事も週3日、月4万円の収入しかありません。
貯蓄が底をつき、追い詰められていた2月上旬、男性は休業支援金の対象が拡充されることを知りました。

願ってもない知らせに、すぐに厚生労働省のホームページを調べたと言います。
ただ、大企業で働くシフト制労働者への休業支援金は、限定的でした。

対象の期間は、緊急事態宣言の影響があった去年4月から6月と、ことし1月8日以降。
〈注:これ以前に自治体が時短や休業の要請をしていた場合は、要請の開始時点から〉
去年の3か月間については賃金の6割、ことし1月8日以降については8割とされていました。

男性の申請がスムーズに通った場合、2月までの分として受け取れるのは80万円ほど。

勤め先のホテルは、正社員には10割の休業手当を支払っていると聞いています。

男性も、同じようにホテルから休業手当が支払われていれば、シフトが無くなった去年3月からこれまでに300万円ほどを受け取れていたはずだと言います。
男性は、複雑な思いを話してくれました。
40代の男性
「来月の家賃さえ払えないかもしれないという状況でしたから、少しでもお金が入ることがわかって助かったとは思っています。でも、職場を信頼して働いてきたのに、困った時に差別されたっていう状況は変わっていないので。シフトが再開するか、どうなりそうかの見通しも全く連絡をもらえないですし、会社からしたら、僕らは何なんでしょうね」
「できれば同じ職場で働き続けたい」という男性に匿名を条件に取材を受けていただいたため、ホテル側に休業手当を支払わない理由を直接、確認することはできませんでした。

法律も契約も“あいまい”

「休業支援金は、根本的な解決ではないんです」
そう訴えるのは、非正規雇用の人たちでつくる労働組合です。
組合では、これまでに30社ほどの大企業と休業手当をめぐって交渉を続けてきました。
しかし、シフト制で働く人たちに全面的に支払うと応じたのは数社に限られていると言います。
そもそも「休業手当」は、会社の都合で労働者を休ませる時に、勤め先が支払う手当です。
労働基準法では、次のように定められています。
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」
法律に明記されている中で、なぜ企業は公然と支払いを拒み続けることができるのでしょうか。
組合に、ある大企業の見解を見せてもらいました。
「固定の勤務時間・労働日数ではなく、シフト制です。柔軟な労働形態であり、日数、時間を確約した雇用契約ではないため、最低保証時間はございません」
シフト制で働く場合、週ごとや月ごとなどに勤務する曜日や時間帯を決めます。
最低限、どれだけ働くかが決まっていないケースがほとんどです。
このため、企業側は、「シフトに入っていない期間」は労働基準法に書かれている「休業期間」にあてはまらないと主張しているのです。
労働組合によると、働き始める時に交わす書面もあいまいなものが多いということです。
一部を見せてもらいましたが、「シフトによる」とか、「店舗の状況によって変動する」など、勤務日数についてはあいまいな書きぶりにとどめているものばかりでした。
原田 執行委員長
「シフト制という働き方は労働者側にもメリットがあると考えられてきましたが、何かあったときには労働者が法的に守られる契約になっていないことがほとんどです。これまでも『会社に一方的にシフトを削られた』といった相談はありましたが、コロナ禍という非常事態で多くの人が同じような事態に直面し、問題があぶり出されました」

“法律の狭間”に国も苦慮

当事者たちの声が届き、休業支援金の対象に大企業で働くシフト制労働者も含まれることが決まりました。

しかし、中小企業で働く人に比べて支給する期間や金額を限定しています。
なぜなのでしょうか。
厚生労働省の休業支援金の担当者は、その理由をこう説明しています。
厚生労働省の休業支援金の担当者
「政府は、休業手当の支払いを助成する雇用調整助成金という制度で企業を支援することを原則としてきました。すでに助成金を活用して自己負担もある中で休業手当を支払っている大企業もあります。そのような中で、休業支援金で過去にさかのぼってすべてをフォローしてしまうことは、企業間に新たな不公平が生じるとともに、企業の雇用維持に関する取り組みを阻害すると考えるからです」
そうであれば、企業がシフト制で働く人たちに休業手当を支払うよう、国が強く指導すればいいのでは。
厚生労働省の企業指導の担当者に聞いてみました。
厚生労働省の企業指導の担当者
「一般的には、シフトが決まっていなかった場合、労働契約上の労働日とされていない日について、企業に休業手当の支払義務があると評価することは難しいです。最終的には個別の判断にはなりますが、労働基準法に違反するものとして指導することは難しいケースが多いと思います」
今の法律ではシフト制で働くすべての人たちに休業手当を支払うよう、国から指導することは難しいという見解でした。

「シフト制は法の抜け穴」

労働問題に詳しい指宿昭一弁護士は「労働者を守るべき法律が実態に追いついていない」と指摘しています。
指宿弁護士
「労働日も労働時間も決まっていないシフト制という働き方がこれほどまでに広がっているのに、あまねく労働者を守るはずの労働基準法はシフト制を念頭においた規制をしていません。シフト制で働く人の休業手当の支払いについての明確な基準がない。これは法律の不備、いわゆる“抜け穴”です」
総務省の労働力調査によりますと、2020年12月の時点でアルバイトやパートとして働いてる人は1483万人。
月ごとの雇用形態別の統計を取り始めた2013年12月から100万人以上増えています。

シフト制で働く人も増加傾向にあるとみられています。
指宿弁護士は、次のように訴えています。
指宿弁護士
「シフト制を含めた非正規雇用で働く人たちが労働者の半数近くを占める時代になってきています。国は、休業したシフト制の労働者への支援策を充実させるべきです。それとともに、シフト制の労働者に休業手当が支払われるように、労働基準法を時代に合った形に見直していくべき時が来ていると思います」

「シフト制」今こそ議論を

休業支援金は、法律にもとづいて企業を指導しきれない中、国が設けた緊急支援策です。
この制度に多くの人の生活が救われたことは事実だと思います。
大企業で働くシフト制の人たちにも支援が広がったことは、大きな転換でした。

しかし、この制度は、目の前の生活苦を乗り切るための特例でしかありません。

制度が終了し、感染が終息したら、それでいいのでしょうか。

「シフト制」は、働く側だけでなく、社会の求めに応じて広がってきた働き方です。
何かあったときにどうすれば守ることができるのか。
問題が起きている今こそ、社会全体で議論しなければいけないと思います。
社会部記者
大西 由夏