1日1食しか食べられない~コロナ禍で困窮する大学生たち~

1日1食しか食べられない~コロナ禍で困窮する大学生たち~
生理用品を買うのを諦めるか、食事を我慢するか。
パリの大学に通う女子大学生は、そんな選択を迫られていました。
それほどまで生活費を切り詰めなければ生きていくことも難しくなっているといいます。何が起きているのか、話を聞きました。(ヨーロッパ総局記者 古山彰子)

「何もない」冷蔵庫

「お金がなくて、食事をとらないこともありました。1日1食しか食べられない日もたくさんあります。空腹でしかたない時は、あめをなめて気持ちを紛らわせました」
こう話すのは、バルバラ・ストラットフォードさん(19)です。彼女はフランスの地方都市出身で、今は、パリの大学で映画学を専攻する大学2年生です。
取材に訪れた日、彼女の冷蔵庫の中にあったのは、ほとんど芯だけになったキャベツ、パプリカ1つ、ミカン2つ、そしてヨーグルト1パック。それ以外に見えたのは、調味料くらいです。彼女が、これほどまでに生活を切り詰めなければならないのは、2度の外出制限のあとも感染が続く新型コロナウイルスのためです。

1年近く見つからないアルバイト

ストラットフォードさん
「月末はいつもお金が底をついてしまいます。私は1人親家庭で、母も家計が大変なのを知っているので、援助は求められません」
感染拡大の前、彼女は、映画のエキストラやモデルのアルバイトを掛け持ちしていました。毎月得ていた収入は、日本円にしておよそ2万5000円。これに加えて、親からは仕送りとして5万円をもらっていました。合わせて7万円余りで、食費や家賃、それに大学の教材などの費用をまかなってきました。
しかし、新型コロナの影響で去年3月以降、彼女がこれまでやってきたアルバイトの求人は途絶えました。生活のため、ほかのアルバイト先も探しましたが、政府が飲食店や文化施設などの営業を断続的に禁止するなか、1年近くアルバイト先を見つけられていません。家賃や大学の教材費などを支払うと生活費はほとんど残りません。支援団体などの食料配給でなんとか食べているといいます。

生理用品か食費か

食費の確保が難しい彼女にとっては、毎月必要となる生理用品さえ負担となっています。生理用品は、日本円で数百円ほど。それでも月に1度の生理が来るたび、生理用品を諦めるべきか、食べるのを我慢するかを考えなければなりません。そのたびに、彼女は寂しいような、惨めなような気持ちになるといいます。
ストラットフォードさん
「どちらかを選択しろと言われているみたいで。でも、生理用品を使わなかったら、外に出ることすらできません。どうして、生活に必要なものすら手に入れるのが難しいんだろうと、とても悲しくなります」

精神的に落ち込む日も

空腹と日々の生活費の不安。そんな彼女をさらに追い込んでいるのは、誰とも会えない「孤独」な毎日です。

新型コロナの感染拡大以降、大学の授業はオンラインで、友達にも会えなくなりました。朝起きて、ベッドの上でパソコンを開き、そのまま授業を受けたこともあります。ワンルームの学生アパートの中で単調な生活を送るうちに、物事へのやる気を失い、精神的に落ち込んでしまったといいます。

精神的に追い詰められるようになり、最近では、映画俳優になるという将来の夢さえも考えられなくなり始めています。
ストラットフォードさん
「人生の一部を失ったような気持ちになり、精神的な苦痛を感じています。将来への不安に押しつぶされそうです」

困窮する大学生はほかにも

取材を進めると、困窮している大学生は、ストラットフォードさんだけではないことがわかってきました。新型コロナの感染が拡大して以降、大学生がたくさん集まるようになった場所があると聞いて、訪れてみました。
それは、生活困窮者の支援をする団体が行っている「食料の配給」です。団体では、5年前にホームレスや失業者を対象に取り組みを始めましたが、感染拡大のあと、学生の利用者が急増しているといいます。

実際、配給が始まる1時間ほど前から長い列ができ、ほとんどが身なりのきれいな若者でした。
この日は、学生専用の配給日で、事前に予約した450人が食料を受け取りに来ていました。並んでいた大学生たちに話を聞いてみると、まともに食事をとることもできない、厳しい現実がありました。
大学2年の女子学生
「去年の3月から10キロ痩せて、今は37キロです。今も1日1食、夕食のみです。でも、もう大丈夫。1日1食の生活に慣れたから」
別の大学2年の女子学生
「食費は大きな出費なので、1日1食です。それが難しい時は2日に1食です」
支援団体の代表者は、感染拡大が続く中、困窮する大学生が増え、支援が追いつかないと話しました。
メモンさん
「支援を受ける必要に迫られている学生は、日に日に増えています。お金がなく食事ができない学生がたくさんいます。こんな状況に陥ってしまい、多くの学生たちが精神的な痛手を受けています。これが今のフランスの現状です。目を背けてはいけません」

なぜ学生が困窮するのか

なぜ、大学生が、ここまで困窮するのでしょうか。それは、フランスの制度に「落とし穴」とも言える現状があるためです。
フランスは、税金が高い代わりに社会保障が手厚い国として知られています。感染拡大後は、仕事を失った人たちへの手当の支給基準を大幅に緩和し、より多くの人が支援を受けられるような対策を続けています。

一方で、学生はアルバイトの収入を失ったとしても、原則、失業者と見なされず、こうした支援を受けることができないのです。

また、多くの学生たちがアルバイトをしていた観光業や飲食業は新型コロナで大きな打撃を受け、求人も激減しています。

このため、ある学生団体の調査では、感染が拡大して以降、経済的に厳しい状況に陥り、定期的に食事を抜くなどしている若者は74%に上るという結果が出るほどまでになっているのです。

精神的にも追い詰められる学生

また、学生たちが精神的にも追い詰められている状況も浮き彫りになってきています。学生団体が学生を対象に去年夏に行った調査の結果です。
学業を放棄することを考えた…………………84%
経済的、心理的、肉体的な痛手を受けた……74%
自殺を考えた
……………………………………23%
調査に答えた学生の多くが学業を放棄することを考え、心理的、肉体的な痛手を受けていました。中には「死を考えた」という学生まででてきています。
フランスの社会保障制度に詳しい、パリ政治学院のジャン・ピザニフェリー教授も、次のように警鐘を鳴らしています。
ピザニフェリー教授
「感染拡大が続くにつれ、社会保障制度の抜け穴のため、困窮している人たちがいるということを実感しています。その不利益を正面から受けているのが若者です。フランスの社会保障制度は、既存のリスクの上に作られたものですが、新型コロナウイルスは、制度が想定していなかったリスクです。だからこそ、新たな対応が急務です」

将来の不安をどう解消していくのか

フランス政府は、1月25日以降、学生を対象に各地の大学の食堂で、食事を1日2回を上限に、1食あたり1ユーロ(2月17日時点・約128円)で提供する取り組みを始めました。
実際に食堂に取材に訪れてみると、開店前から学生たちが長い行列を作っていました。本来ならば3.3ユーロ(約420円)で売られている弁当とデザートのセットを1ユーロ(約128円)で買えるだけあって、食堂に来る学生は日に日に増えているといいます。
一方で、取材する中では、1ユーロも工面できない学生もいて、いっそうの支援が必要だと指摘する団体もありました。
新型コロナの感染が続く中、フランスだけでなく日本などの先進国であっても大学生をはじめとする若者たちが困窮している現実があります。

コロナ後の世界を担う若者が、希望を持ちながら自立して生きていくためには、どんな支援や政策が必要なのか。これからも取材していきます。
ヨーロッパ総局記者
古山 彰子
2011年(平成23年)入局
広島局、国際部を経て
現在はパリを拠点に
フランスの社会問題などを取材