【ワクチン接種】世界の状況は? 日本が遅れた背景はどこに?

世界各国の政府などが公表したデータをまとめているイギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するウェブサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によりますと、世界では、70を超える国や地域で、接種が始まっていて、少なくとも7種類の新型コロナウイルスワクチンが実際に使用されています。

一方で17日に接種が始まった日本は、G7の中で最も遅い接種開始となるなど遅れをとりました。各国の接種の状況や日本が遅れをとった背景についてまとめました。

日本時間の17日午前10時の時点で、全世界で接種された新型コロナウイルスのワクチンは合わせておよそ1億7800万回分です。また少なくとも1回、接種を受けた人の数は、中国などのデータが含まれていないものの9157万人にのぼります。

接種回数を国別にみますと、
アメリカが5288万回と最も多く、
次いで
中国が4052万回、
イギリスが1584万回、
インドが872万回、
イスラエルが660万回などとなっています。
人口に対する接種を受けた人の割合では、
イスラエルがおよそ46.1%と最も高くなっていて、
イギリスは22.5%、
アメリカは11.5%などとなっています。

また、世界人口全体に対しての割合は1%余りにとどまっています。

英 “70歳以上や医療従事者ほぼ終了”

去年12月、世界に先駆けて、ファイザーなどが開発したワクチンの接種が始まったイギリスでは、これまでに1550万人以上が少なくとも1回ワクチンを接種し、人口に対する割合は、およそ23%となっています。

人口が6660万人余りのイギリスで、これまでに確認された感染者は400万人を超え、死者はヨーロッパで最も多く、11万人を超えています。

イギリスでは去年12月、変異ウイルスが急速に拡大し、1日当たりの感染者が、先月上旬には6万人を超えた日もありました。

しかし、その後は減少傾向となり、16日に報告された感染者は1万625人となっています。

背景には、外出制限や生活必需品を扱う店以外の営業を原則として禁止するといった厳しい措置の効果があると指摘されています。

ワクチンを接種した人の感染状況などは近く発表される見通しで、現時点でワクチンの効果を示すデータは明らかになっていません。

接種は、国が運営する医療制度、NHS(国民保健サービス)が取りしきっていて、まずは、高齢者施設の入所者や職員、70歳以上の高齢者や医療従事者が優先されました。

今月中旬にはこのグループはほぼ終わり、現在は65歳以上の高齢者などへの接種が進められています。

ファイザーなどが開発したワクチンは厳しい温度管理が必要となるため、高齢者施設での接種は当初、数週間遅れましたが、その後は順調に進み、先月からは、アストラゼネカなどが開発したワクチンも加わって、最近では、1日当たり平均でおよそ42万人が接種を受けています。

感染状況が深刻で、さらに変異ウイルスの影響も懸念されるだけに、イギリス政府は厳しい感染対策とともに、ワクチンの接種を急ピッチで進めていて、政府は秋までに対象となるすべての人への接種を終わらせたいとしています。

米 “全国民3億人分のワクチン確保は7月終わりまでに”

去年12月から新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まったアメリカではこれまでに3900万人以上が少なくとも1回の接種を受けています。接種のペースは加速していますが、大都市では供給のスピードが接種を求める人に追いつかない状況も生まれています。

これまでに確認された新型コロナウイルスの感染者が2700万人以上と世界で最も多いアメリカでは、1日当たりの感染者数が先月はじめのおよそ30万人をピークに、このところ減少傾向にあり、1日当たりに報告される感染者はここ1週間の平均でおよそ8万8000人にまで減少しています。

ワクチンの接種は去年12月から始まりましたが、アメリカCDC=疾病対策センターによりますと、これまでに3967万人が少なくとも1回の接種を受け、1501万人が2回の接種を終えていますが、人口に対する割合は4.5%余りにとどまっています。

このため多くの専門家は、ワクチンの接種は、まだ感染状況に大きな影響を与える水準には達していないとの見方を示しています。

そのうえでワクチンの供給や、接種のペースについても課題が指摘されています。

CDCによりますと、今月16日の段階で全米に供給されたワクチンの数はおよそ7160万回分で、1日当たり、平均でおよそ150万回分が接種されています。

ワクチンを供給する製薬会社のファイザーとモデルナは、それぞれ来月末までに1億回分ずつ、合わせて2億回分を供給するほか、7月末までにさらに2億回分ずつ4億回分、合わせて6億回分を供給する契約をアメリカ政府と結んでいて、バイデン大統領は「3億人のアメリカ国民が接種するのに十分なワクチンをことし7月終わりまでに供給できる見通しだ」と述べています。

アメリカ政府の高官は来月にかけて供給量が増加するという見方を示していますが、接種を行う場所や、医療従事者の確保も必要で、接種のペースの加速が課題となっています。

“世界でも速いペース”のイスラエル 若者の接種促進が課題

世界でも速いペースでワクチンの接種を進めているイスラエルでは、去年12月中旬から新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まり、これまでに国民の4割を超える399万人が1回目の接種を受け、このうちの261万人は2回目も受けています。

年齢別で見ますと、60歳以上では、すでに87%が少なくとも1回は接種を受けています。

政府は、16歳以上の国民全員に接種を呼びかけていますが、少なくとも1回の接種を受けた人は、10代で33%、20代で44%となっていて、若い世代への接種をどのように進めるかが課題となっています。

イスラエルでは、12月下旬から続いてきた3度目の厳しい外出制限が、今月、一部緩和されていて、政府は、来週以降、ワクチンを2回接種した人については、スポーツジムやホテルが利用できるようにするよう、議論を進めています。

1月中旬には7日間の平均で、8000人を超えていた1日の新規感染者数についても、現在は5000人程度にまで減少していて、ネタニヤフ首相は、3月末までに16歳以上の国民全員にワクチンを接種することを目指しています。

日本 “G7の中で最も遅い接種開始” 遅れた背景は?

イギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するウェブサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によりますと、新型コロナウイルスのワクチンはすでに70を超える国や地域で接種が始まっています。

G7、主要7か国で見ても、イギリスで去年12月8日に接種が始まった後、各国で12月中に始まっており、日本はG7の中で最も遅くなりました。

この背景について専門家はワクチンに対する考え方や危機管理への意識の違いがあるとしています。

具体的には、一部の国ではワクチンの接種を早めようと、国内での臨床試験を行わず、海外でのデータをもって承認するケースもありますが、日本国内では、海外メーカーのワクチンについても、法律に基づいた手続きで小規模ながら臨床試験が行われ、日本人でも安全性と有効性が確保できるか、慎重に確認が行われました。

これについて政府の分科会のメンバーで川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「遅れによって、国内外での臨床試験の結果に加え海外で実際に接種が始まったあとの効果や副反応の状況を参考にしながら接種を進められる側面もある。ワクチンの安全性は接種がどう行われるかにも影響を受けるので、遅れを取り戻そうと自治体で接種率を競うなど、現場に焦りを強いることは避けるべきだ」と話しています。

一方で、国内でのワクチン生産体制の確保は日本の感染症対策の課題になっていて、2009年に当時の新型インフルエンザの流行後に政府の対策を振り返った報告書でも当初、ワクチン確保が難しかった経験から「国家の安全保障という観点からも可及的速やかに国民全員分のワクチンを確保するため、製造業者を支援し、ワクチン生産体制を強化すべきである」としていました。

ところが今回、国内では、少なくとも10のグループが新型コロナウイルスのワクチン開発を行っていますが、比較的小規模なメーカーが多く、実際に人に投与する臨床試験に入っているのは、大阪のバイオベンチャー企業「アンジェス」と製薬大手の塩野義製薬の2社で、ほかは臨床試験に入る前の動物や細胞での実験の段階などとなっていて、欧米のメーカーに遅れをとっています。

政府分科会の尾身茂会長は今月行われた記者会見で「日本のワクチン業界は、世界と比較すると欧米の非常に競争力の強い企業に比べて、どうしても弱くなってしまう。新型コロナウイルスへの対応以前からの問題として、ワクチン業界の世界的な競争力の違いが本質にあったのではないかと考えている」と指摘しています。