ミャンマー軍幹部らへの米国の制裁 経済のさらなる懸念材料に

ミャンマーでの軍によるクーデターに対しては、アメリカが軍のトップを含む幹部らや、軍と関係が深い企業への制裁を発表するなど、国際社会の批判が高まっていて、クーデターで不透明感が増すミャンマー経済にとって、さらなる懸念材料となっています。

アメリカのバイデン政権は先週、クーデターを主導した軍のトップを含む幹部ら10人と、軍と関係が深い3つの企業に対する制裁を発表しました。

軍に抗議するミャンマーの市民の間では国際社会からの圧力を求める声も出ていて、最大都市ヤンゴンに住む女性は「今回の経済制裁は汚職にまみれた裕福な軍幹部を苦しめることが目的だと思う」と話しています。

今回のアメリカの制裁はミャンマーの市民生活への影響を抑えるため、軍と関係が深い企業のうち、一部に対象を限った形です。

しかし、バイデン政権は軍の対応しだいでは、追加の制裁も辞さない構えで、クーデターをきっかけに不透明感が増し、投資の冷え込みが指摘されているミャンマー経済にとって、さらなる懸念材料となっています。

一方で制裁の強化は軍によるクーデターを明確に批判しない中国にミャンマーが接近するきっかけにもなりかねず、政治・経済の両面で国際社会は難しい対応を迫られています。

軍と関係の企業 いまも経済活動に影響力

軍事政権が長く続いたミャンマーでは、軍と関係がある企業が現地の経済活動にいまも影響力を持つとされています。

こうした企業の状況については、国連人権理事会の調査団がミャンマーの少数派、イスラム教徒のロヒンギャの人たちに対する迫害問題に関連して調査し、おととし報告書を公表しました。

この中では、今回クーデターを実行した軍のミン・アウン・フライン司令官など軍の幹部が支配する企業として「ミャンマー・エコノミック・ホールディングス」と「ミャンマー・エコノミック・コーポレーション」の大手複合企業2社を挙げています。

そのうえで、この2社の傘下に100社以上の企業があるとしたうえでそうした企業の収益が軍の活動の資金源にもなっていると指摘しています。

事業の内容は不動産業やホテルなどのサービス業、金融業や物流業、さらには特産の宝石業など幅広い業種におよび、軍と関係がある企業が現地の経済活動に強い影響力を持っていることがうかがえます。

このうち「ミャンマー・エコノミック・ホールディングス」とビールの合弁事業を行っていた日本の「キリンホールディングス」は、軍のクーデターを受けて、提携を解消する方針を明らかにしていて、現地でのビジネスの大幅な見直しを迫られています。

ほかにも韓国の鉄鋼大手やベトナムの通信大手などが提携関係にあるとされ、人権団体も軍と関係がある企業の収益が軍に流れ込んでいるとして、批判を強めています。

今回のアメリカの制裁では、この大手複合企業2社は直接、制裁の対象にはならず、ルビーやひすいを取り扱う3つの企業が対象になりました。

ただ、バイデン政権はミャンマー軍の対応しだいでは、追加の制裁も辞さない構えで、今後、制裁の対象となる企業が拡大する可能性もあります。

不買運動も

一方、クーデターへの反発から軍と関係がある企業の商品を買わないよう呼びかける動きも出ていて、ヤンゴンのスーパーではこうした企業が出資するビール会社の商品が撤去されているケースもあるということです。

また、SNS上でも軍と関係があるとされる通信会社やたばこ会社などの企業のリストが投稿され、商品の購入やサービスの利用をやめようという呼びかけが広がっています。

投稿の中にはこうした企業の商品やサービスが軍のミン・アウン・フライン司令官の写真とともに紹介され、「おすすめします」と皮肉のコメントが添えられているものもあります。

ヤンゴンに住む男性は、「軍はこれまで、さまざまなビジネスを行ってきたが、やるべきではなかったと思う。私は、軍幹部に絞ったアメリカの制裁を歓迎している」と話していました。

専門家「米の経済制裁強まるおそれも」

アメリカの制裁について、上智大学の根本敬教授は、「いきなり強い度合いの制裁を科すのではなく、小出しにすることで軍の反応を見ている状態だ。現段階の制裁であれば、国民生活への心配はないが、軍の今後の対応によって第2段、第3段の制裁となればより厳しいものになってくる」と分析しました。

また軍と関係が深い3つの企業が制裁の対象となったことについては、「こうした企業の会計は非常に不明朗で、国家予算で国防費は公開されるが、軍に関連する企業の収益はそれ以外の収入源になっているとみられる。軍が何に使っているかが不透明なので制裁の対象になったと考えられる」と話しました。

そのうえで根本教授は、ミャンマーに進出している企業への影響について、「アメリカの経済制裁が強まっていくと、軍が関係する企業と合弁を組んでいる企業はアメリカ市場に出入りできなくなる可能性も出てくる。すでに進出している企業は、ビジネスの見直しを迫られ、最悪の場合には撤退も考えないといけない。また、今後、進出を考えていた企業にとっても冷や水を浴びせかけられた形になるので、しばらく様子見をするか、諦めてほかの国に投資するという判断を行う可能性が高くなると思う」と指摘しています。

民主化進展で日系企業も進出

ミャンマーは2011年以降、民主化の進展を追い風に経済成長が続き、日本など海外からの企業の進出も加速してきました。

軍事政権時代に実施されていた欧米諸国からの経済制裁が段階的に解除されたことに加え、金融業の市場開放などの経済改革も進められ、企業の新たな進出先として注目されるようになったのです。

アウン・サン・スー・チー氏率いるNLD=国民民主連盟の政権も海外からの投資を呼び込む姿勢を強めてきました。

日本もヤンゴン郊外にある「ティラワ経済特区」の開発に官民をあげて協力し、日系企業も含めて110社を超える企業が進出しています。

また、日本はミャンマー初の証券取引所の設立や老朽化した鉄道の補修などのインフラ整備でも支援しています。

日系企業の進出もトヨタ自動車などの製造業はもちろん、銀行や保険などの業種にも広がり、その数は民政移管された直後の2011年度末には50社余りだったのが、今では400社を超えています。

海外からの企業の進出などを背景にミャンマーでは経済成長が続き、IMF=国際通貨基金によりますと、GDP=国内総生産は、2019年までの数年間、6%前後の伸び率が続いています。

しかし、今回のクーデターをきっかけに欧米各国が経済制裁の強化にかじを切れば、海外からの投資が冷え込み、成長してきた経済が停滞に陥るおそれもあります。