経費ゼロでV字回復! 行列の絶えない経営相談所

経費ゼロでV字回復! 行列の絶えない経営相談所
知る人ぞ知る行列の絶えない経営相談所が愛知県岡崎市にあります。コロナ禍で苦しむ多くの経営者が頼りにし、予約は、なんと数週間先まで埋まっているほど。人気の裏にあるのは“知恵”です。ニーズを的確に捉えた多くの商品やサービスが、この相談所の知恵によって生み出されました。一体、どんな商品が生まれたのか、そしてコロナ禍をチャンスに変える視点とは。(名古屋放送局記者 野口佑輔)

注文殺到!名刺マスク

中川社長
「社員総出で電話をとったりするなど、大忙しです。コロナで資金が回らなくなる事態にもなり、先が見えませんでしたが、いまは新商品が経営を後押ししてくれています」
こう語るのは、名古屋市の印刷会社の中川剛社長です。

この会社が開発したのが、名前や会社名、写真に趣味まで印刷されている、その名も「名刺マスク」。
新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの企業が参入し、素材やデザインなど、さまざまな商品が登場する中、ひときわ目を引くと話題になっています。

この会社では、イベントの集客用のチラシやポスターの印刷を主に行っていましたが、新型コロナの影響で、注文が激減。経営は一気に苦しくなりました。そこで、少しでも売り上げの足しになればと、去年秋に始めたのが、名刺マスクの販売でした。

「相手に覚えてもらえる」
「表情がわからなくても印象に残る」

ビジネスシーンでもマスクをすることが増える中、斬新なアイデアが評判となり、注文が殺到。新型コロナで、企業の間でオンライン会議が広がったことも追い風となり、会社のホームページのアクセス数は、なんと600倍にまで増加したといいます。

仕掛けたのは“中小企業支援のプロ”

このユニークな「名刺マスク」、仕掛けたのは、愛知県岡崎市にある「岡崎ビジネスサポートセンター」です。

岡崎市が運営する、中小企業のための無料の経営相談所です。最近では、新型コロナの影響に苦しむ経営者からの相談が急増。予約が数週間先まで埋まる、行列の絶えない相談所になっています。
そのセンター長を務めるのが秋元祥治さんです。

中小企業支援のプロフェッショナル。もともとは、大学在学中に、中小企業と学生をつなぐNPO法人を立ち上げ、地域活性化に取り組んできました。その後、中小企業支援を本格的に学び、センターが開設された2013年にセンター長に就任しました。

そんな秋元さんが企業の相談を受ける際に大事にしているのは、“会社の話をじっくり聞くこと”です。
秋元さん
「まずはじっくりと、フラットな目線でお話を聞かせていただく。自分のことって、結構身近すぎて気付かないことって多いと思うんですよ。相談の中で、本人たちが気付いていない会社のよいところ、セールスポイントを見つけ、それを商品やサービスに生かすということを信条にしています」
もう1つ、重視しているのが、お金をかけないこと。設備投資などに頼るのではなく、“知恵”を使って売り上げアップを実現できるようなアドバイスを心がけています。
秋元さん
「相談に来ていただく中小企業の方々は、お金もないし、人もいないし、余裕もない。その中で流れを変えるのは、やはり知恵だと思う。例えば大規模な借り入れをしないと実現できないようなサービスの場合、うまくいかなかったときに大きなダメージにつながってしまう。お金をかけずに売り上げをV字回復させていく、新たな売り上げにつなげていくような知恵を出す、そういう存在でありたいと思っています」

巣ごもり需要ねらうどら焼き

知恵で生き残る。

岡崎市にある創業98年の和菓子屋も、秋元さんの助言を受けて、新たなアイデア商品を発売しました。それが、どら焼きの「手作りセット」です。
この商品、自宅でどら焼き作りを楽しめるよう、どら焼きの“皮”と“中身”が別々になっています。フルーツやジャムなどを挟んで、自分好みにアレンジすることもできます。

相談を受けた秋元さんが目をつけたのは、“巣ごもり需要”の拡大でした。セットを作る工程は、通常のどら焼き作りと同じで、追加の費用や負担はありません。
この和菓子屋も、新型コロナの打撃を受け、売り上げが前の年と比べて、最大で5割ほど減少したといいます。しかし、この手作りセットが評判となり、販売を始めて以降、来店客数は前の年の1.5倍に増えました。

和菓子屋の四代目の小野悟さんはこう話します。
小野さん
「新規のお客さんが結構来てくれています。もともと、お客さんの年齢層が高いというのが課題でしたが、子ども連れも増え、課題の解決にもつながっています」

カギは“使い方を変える”

今ある設備の使い方を変えただけで、V字回復した企業もあります。舞台は岡崎市のスーパー銭湯です。

広々とした露天風呂が自慢ですが、新型コロナの感染拡大が始まった去年春、一時的に休業を余儀なくされました。再開後も利用客は回復せず、多い月で売り上げが3割ほど減少しました。
相談の中で、秋元さんは、休憩スペースなどの設備に着目。風呂上がりに漫画などを読むため、机やいすが用意されていました。

これを“仕事場”として活用してもらおうと考えたのです。リモートワークの拡大を踏まえた発想で、隣には、仕事の疲れを癒やすリクライニングチェアもあり、環境は抜群。ホームページなどで周知をしたところ、ノートパソコンを持って訪れるサラリーマンの客が大幅に増えたと言います。
さらに、空いているロッカーも活用。コロナ禍でランニング需要が高まる中、走っている間の荷物の保管と、入浴をセットにしたプランを用意し、土日を中心に人気を集めています。

いずれも、かかった費用はゼロ。それでも、新しい客層の取り込みに成功し、利用客の回復につながっています。
平山店長
「社会情勢に注目したり、施設を見つめ直したりして、今あるものを使ってお金をかけずに新しいプランを作っていくというのは、コロナ明けもずっと実践できるやり方だと感じました」

コロナ禍だからこそ、チャンス

新型コロナの感染拡大は、多くの業界に深刻な打撃を与え続けています。

多くの中小企業が経営に悩み、廃業に追い込まれているところも数多くあります。しかし、秋元さんは、アイデアしだいで売り上げアップは可能だと力を込めます。
秋元さん
「コロナで需要がなくなったわけではない。需要が変わったんです。生活が一変しましたが、その中で誰がどんな困りごとを持っているのか考え、そこに合わせた商品を投入していく。変化が生まれるところには新しいチャンス、新たなニーズがあります」
そして、コロナ禍のいまだからこそ、中小企業にとってのビジネスチャンスは広がっていると考えています。
秋元さん
「コロナがピンチであるということには変わりはないと思います。ただ、社会が大きく変化しているからこそ、いかに迅速にサービスを提供できるかが求められている。このことは、むしろ中小企業のほうがチャンスとして捉えることができやすい。スピードが問われる今だからこそ、これからも、中小企業の皆様の新たなチャレンジを一緒になってサポートしていきたいと思います」
変化する社会情勢に真摯(しんし)に向き合い、“知恵”によって中小企業の未来を切り開く。

新型コロナの影響は今後も続くとみられ、これまでの常識はどんどん変化を続けていくと思います。そんな“withコロナ時代”の中で、秋元さんの姿勢や取り組みは、中小企業が生き残っていくための重要なヒントを与えてくれていると感じました。
名古屋放送局記者
野口佑輔
平成23年入局
高知局、経済部を経て、現在は名古屋局で経済を担当