“覚悟の笑顔”

“覚悟の笑顔”
「笑顔は不謹慎だとの批判非難を受ける可能性も否めませんが、それでも東日本大震災の時、私の笑顔で救われたというお声も少なからず頂戴致しました。もし私の笑顔で少しでも元気になったり ホッと一息、心を安らげられたらとの一縷の願いを込めまして」

こんなメッセージと写真をSNS上に投稿した、タレントのなすびさん。
最大で震度6強の激しい揺れを観測した今回の地震で、拡散されたワケとは?

(ネットワーク報道部 記者 國仲真一郎 杉本宙矢 林田健太)

足の震えが 止まらなかった

タレントで俳優のなすびさん(45)は、福島市の実家で地震の被害に遭いました。

今月13日の午後11時すぎ、1階のリビングで家族と過ごしていた時です。

最初は大きな揺れは感じませんでしたが、下からドーンと突き上げるような揺れを感じたあと、突然、停電してしまいました。
なすびさん
「最初は震度3か4くらいかと思ったのですが、急に下からドーンと突き上げるような揺れがあり、その後にアラームが鳴り響きました。食器棚が開いて皿が50枚ぐらい落ちてきたんです。それを押さえるのに必死でした。そしたら、突然の停電。真っ暗のなか閉じ込められないよう玄関やドアを開けました」
身を守るのに必死だったというなすびさん。

ライトを照らすと、無残に割れた皿の破片やガラスが散乱していました。
なすびさん
「久しぶりの大きな揺れで、正直怖かったですね。地震から30分位、足の震えが止まりませんでした」
余震が続く中で少しずつ片づけを始め、停電が復旧したのは午前2時ごろ。

その後も余震が続いて動揺が収まらず目がさえてしまい、眠ることができたのは午前6時すぎだったといいます。

“不謹慎”と批判されようと…

その日の昼ごろ、目が覚めて部屋の片付けをしながら外を見ると、綺麗な青空が広がっていました。

晴れやかな気持ちになって満面の笑顔を作って、自撮り。
その時、東日本大震災のあと、東北の被災地支援で訪れた時に多くの人から「なすびさんの笑顔に助けられた」と声をかけられたのを思い出したなすびさん。

不安な思いをしている人に少しでも元気を届け、心を安らげてもらいたいと、SNSへの投稿を思いつきます。

ただ、投稿には迷いもありました。

自分の不用意な発信で誰かを傷つけてしまわないか。

地震の直後に笑顔の写真を投稿するのは不謹慎ではないか。

投稿文の推敲に自問自答しながら1時間余り格闘し、慎重に言葉を選んで写真とメッセージを投稿しました。
「一夜明け、福島市内は快晴に御座います。笑顔は不謹慎だとの批判非難を受ける可能性も否めませんが、それでも東日本大震災の時、私の笑顔で救われたというお声も少なからず頂戴致しました。もし私の笑顔で少しでも元気になったりホッと一息、心を安らげられたらとの一縷の願いを込めまして」
なすびさん
「被災した方たちを傷つけたりしないよう慎重に言葉を選びました。最後は、僕が1人炎上するだけならいいやというところまで考えて投稿しました。“覚悟の笑顔”だったんです」
ツイートは拡散し、15日の時点で13万回以上の「いいね」が集まりました。
「今日はいい天気なのに気持ちが沈んでたのになすびさんのおかげで晴れました」

「こういう時だからこそ前向きに笑顔で進む時ですよね!」

「ドカーンて笑い顔が最高!」
なすびさん
「正直、ここまで大きな反響になるとは 思っていませんでした。福島宮城の被災者の皆さんも一緒に頑張りましょうというメッセージが届いたのかもしれません。多くの人が投稿を前向きに受け止めてくれて、僕自身も救われます」

1人暮らしで被災した不安 “声”に支えられた

今回の地震で人々を支えたSNSには新たな形も見られます。
被災した人の中には今注目のSNS「clubhouse」ユーザーの“声”に支えられたという人もいます。

茨城県に住むカメラマン、那良龍生さん(28)です。
那良さんが発震当時、利用していたのはアメリカ発のSNSアプリ「clubhouse」。
文字を使って交流するツイッターと違って、音声のみで情報交換できる新しいSNSとして注目され、いま急速に利用者を伸ばしています。

今月13日、午後11時過ぎ。

那良さんはアニメキャラクターや俳優などの声をまねしながら、日常の何気ない会話を楽しむユーザーが集まるルーム(部屋)に入り、愛知、東京などのおよそ10人と話をしていた時でした。

突然スマートフォンから警戒を呼びかける緊急地震速報のアラームが鳴り響き、およそ10秒後。
「ドン」という突き上げるような揺れとともに本や雑貨が床に散乱しました。

大きな揺れに女性から悲鳴も上がったといいます。
那良さん
「10年前の東日本大震災を思い出しました。いったん収まっても、余震がくるんじゃないかと。1人暮らしで、夜中ということもあり、怖かったです」
このルーム(部屋)を立ち上げたメンバーの1人で、都内に住む「よろこび」さん(25)。
アナウンサーをしていた経験からすぐに机の下に隠れ、身の安全を確保するよう呼びかけました。

揺れが落ち着いた後は、テレビのニュースを元に津波の心配がないこと、各地で発生した停電の情報を淡々と伝えていきました。
那良さん
「情報を伝えてくれたり、みんなが声をかけたりしてくれました。ずっと“声”が聞こえてつながっているという実感がありました」
停電になってしまった人のため、キャンプの経験が豊富な別の参加者が懐中電灯の上に水が入ったペットボトルを乗せて室内灯の代わりにする方法を紹介したり、便利な防災アプリをお互いに紹介し合ったりしたといいます。

通常集まりは午前0時で解散しますが、この日は翌日午前2時まで続きました。

趣味を楽しむために登録したアプリが、災害時に思わぬ力を発揮したと感じたといいます。
よろこびさん
「電話のように回線が混んだりしにくいし、テレビのニュースだと時間に制限があるけれど、clubhouseなら情報を伝え続けられます」
那良さん
「声を使ってコミュニケーションが取れるので、顔は見えなくても相手の感情が伝わりやすく、誰かが近くにいるという安心感を持つことができました。ユーザーの皆さんに救われました」

災害時の“デマ” どう見極める?

災害時の情報のやりとりに有効なSNS。

一方で大きな災害のあとにどうしても出てきてしまうのが、SNS上でのデマや根拠のないうわさです。
災害時の情報伝達に詳しい東京大学大学院の関谷直也准教授に聞きました。
関谷准教授
「今回の地震でも数は少ないですが、『人工地震』や『井戸に毒が入れられた』など 不確かな情報の投稿が見られました」
災害時のデマは、得体が知れないことが起きているという「不安」、いつ事態が収まるのかという「怒り」、人の助けになる情報を伝えようという「善意」が加わって結果的に拡散するといいます。

だまされないために “デマ”の4類型

では、惑わされないためにはどうすればいいのでしょうか?

関谷准教授によると、災害時のデマは4つにパターンに分けられるといいます。
(1)「○月○日に余震がある」など、災害が再来するというもの

(2)「○○人が犯罪をして回っている」など治安に関するもの

(3)「地震が来ることは分かっていた」など事前の予知に関するもの

(4)「人工地震」など何者かによる陰謀論
こうしたパターンを把握しておくことが、デマの見極めには有効だといいます。

デマの拡散に加担しないために

デマの拡散に加担しないためには、どうしたらいいのでしょうか。
関谷准教授
「自分たちが現場に行っていない、そして事実関係を確認できていない、もし正確な情報を得られていないのなら、それを発信しない、拡散しないことが大事です。SNSは本来『感情』や『意見』を共有するもので、必ずしも『正確な情報』を共有するための役割を持ったものではないと考えています。一部の公的なアカウントを除けば、正しい情報だけではないことを知っておく必要があります」

困った時はお互い様

東日本大震災から10年になるのを前に起きた、今回の地震。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、なすびさんは東京での仕事が減り、今は福島市に拠点を移しています。
地元ではラジオ番組でもパーソナリティーなどとして活躍しています。

東北の被災地復興の支援にあたってきたなすびさん。
この10年の歩みを振り返りながら、こう話してくれました。
なすびさん
「東日本大震災の時、多くの方が家族を亡くして悲嘆に暮れるなか、僕らエンターテインメントに関わる人間は何の役にも立たない、楽しませたり笑わせたりすることができないという無力感を感じていました。でも時間がたって少しゆとりが出来た時に、被災地に足を運ぶと『なすびさんの笑顔で元気になったよ』という声を頂けて、僕自身も助けられたんです」

「大きな災害の後、SNS上では悲しいことに、デマや不安をあおるような心ない投稿もあるのは事実です。でも、発信のしかたによっては人を救ったり、安らぎを与えることもできるかもしれない。困っている人がいたら、その時はお互い様で助け合っていきましょうという思いを共有できるのは、すごくいい使い方なんじゃないかと思います。SNSの持つ可能性のようにも思うんです」
インタビューの最後は、もちろん満面の笑顔でした。