新型コロナ元重症患者に後遺症の実態調査 日本集中治療医学会

新型コロナウイルスに感染した人に見られる「後遺症」について、日本集中治療医学会は重症だった人に、身体や認知機能の低下などさまざまな影響が出ているとして、今月からおよそ300人の元重症患者を対象に実態調査を開始しました。

新型コロナウイルスに感染した人の中には、退院後も発熱やけん怠感が続いたり、呼吸機能や運動能力が低下して日常生活に支障が出るケースが相次いでいます。

中でも、集中治療室で人工呼吸器や人工心肺装置=ECMOを装着し治療を受けた重症患者は、PICS=集中治療後症候群と呼ばれるさまざまな機能障害が起きているとみられています。

こうした中、日本集中治療医学会は、今月から新型コロナウイルスの元重症患者およそ300人を対象に、後遺症の実態調査を開始しました。

感染前は、介助なしに自力で歩行できた人たちが対象で、治療後、「歩くのが困難になったか」「動くと息切れするか」など身体機能の低下を聞くほか、「家族の誕生日を言えるか」など、認知機能の低下も尋ねます。

また集中治療後症候群では、精神的な影響が出る事例も報告されていることから、「気持ちの落ち込み」や「不安感」など精神面への影響も細かく調べます。

質問は50項目以上あり、学会は今後、半年ごとに状況を確認して、後遺症の実態を分析することにしています。
日本集中治療医学会の研究代表で東京医療センター救急科の畠山淳司医師は、「新型コロナウイルスはまだまだ謎が多く、後遺症の詳しい実態もつかめていない。どんな後遺症が出るのかがつかめれば、早期のリハビリなど予防策を検討することもできる。後遺症は半年、1年、2年と長い期間にわたって調べていきたい」と話しています。

PICS=集中治療後症候群とは

今回、日本集中治療医学会が調査するのは、新型コロナウイルスに感染した人のPICS=集中治療後症候群です。

PICSは集中治療室にいる時や退院後に生じる「運動機能」と「認知機能」の低下、それに「精神の障害」で、新型コロナ感染症そのものの後遺症のほか、長期間、集中治療を受けたことによる影響なども含まれます。

学会によりますと、新型コロナの患者が集中治療室を出たあとに、実際どのような生活を送っているのか調べたデータはこれまで報告されておらず、今回の調査で実態を分析したいとしています。

質問は50項目以上あり、治療後に「歩くのが困難になったか」「動くと息切れするか」など身体機能の低下を聞くほか、「家族の誕生日を言えるか」など認知機能の低下も尋ねます。

さらに集中治療後症候群では、精神的な影響が出る事例も報告されていることから、「気持ちの落ち込み」や「不安感」など精神面への影響も細かく尋ねています。

さまざまな症状に悩む元重症患者

実際、新型コロナに感染し集中治療を受けた元重症患者の中には、機能低下や気持ちの落ち込みなどさまざまな症状に悩み続ける人もいます。

東海地方に住む72歳の男性は、去年2月に新型コロナに感染し、重症化しました。

一時はECMOも装着し、およそ2か月間ICU=集中治療室に入っていました。

退院後、自宅に戻りましたが、およそ7か月たった今も、左足にマヒが残り、週2回、病院に通ってリハビリを受けています。

足に装具をつけて、つえを使わなければ歩くこともできず、階段を上ることも難しくなりました。

また去年の年末には突然、腎臓に炎症が起こり、1週間ほど入院したほか、気分が落ち込む日もあるといいます。

男性は、日本集中治療医学会の実態調査に協力し、今月、自宅に届いた調査票に自分の現状を記入していました。

男性は「調査に協力することで、新型コロナの後遺症の解明につながれば思う」と話しています。

後遺症に苦しむのは、高齢の人だけではありません。

関東地方に住む42歳の男性は、去年4月に感染し、ECMOを装着して集中治療を受けました。

5月に退院しましたが、左足に刺すような痛みが出るほか、両足が鉛のように重く冷たい感覚が続いているということです。

さらに、気分の落ち込みも続き、仕事も休んでいるということです。

男性は、「今後、予想しないような後遺症がでてきて、妻や娘の負担になることだけは避けたいが、分からないことが多い病気なので毎日不安だ」と話しています。

集中治療室でリハビリも

PICS=集中治療後症候群の有効な対策の1つとして指摘されているのが、集中治療室にいるうちから、手足などを動かすリハビリです。

東京 渋谷区の日本赤十字社医療センターでは、去年4月から人工呼吸器やECMOを装着している新型コロナの患者に対し、リハビリを行っています。

入院直後、患者の意識が戻る前から、新型コロナ専任の理学療法士と医師、それに看護師が、手足や関節などを動かしたり体を起こしたりすることで、筋力の低下を防いだり、血流をよくしたりしています。

去年12月に集中治療室に入った70代の男性は、足に障害が残ることもなく、自分の足で歩いて退院できたということです。

日本集中治療医学会によりますと、各国の研究でもこうした早期のリハビリにPICSを防ぐ効果があると報告されていますが、人手もかかるため、実施している医療機関は国内でもわずかだということです。

男性の主治医で日本赤十字社医療センター救急科の山下智幸医師は、「リハビリを行う側も感染について細心の注意を払う必要があり、人手もかかるが、患者が退院後に元の生活に戻れるよう、できるかぎりのことをしている」と話しています。