パルスオキシメーター 買いたいけど、今は…

パルスオキシメーター 買いたいけど、今は…
「もし自宅療養中に急変してしまったら。それが不安でパルスオキシメーターを2つ買ってしまいました」

こう話すのは、5歳の長男と夫婦の3人で暮らす40代の女性です。血液中の酸素の状態をみる機器、パルスオキシメーターを個人で購入したという人の投稿がネット上には相次いでいますが、医師やメーカーの呼びかけは「個人購入は控えて」。

新型コロナウイルスに感染しても自宅療養を余儀なくされ、亡くなるケースが相次ぐ中、いったいどう考えればいいのでしょうか。取材しました。
(ネットワーク報道部 記者 大石理恵 大窪奈緒子 田隈佑紀)

自宅療養中の急変 不安で…

「もし自分や家族が新型コロナウイルスに感染して、自宅療養中に急変してしまったら。そんな不安から2つ買ってしまいました」
こう話すのは、ネットの通販サイトでパルスオキシメーターをまとめ買いした、東京都の40代の女性です。

夫と共働きで、保育園に通う幼い長男と3人で暮らす女性が購入を考え始めたのは先月。
新型コロナウイルスに感染しても、病床のひっ迫や入院調整が進まないことなどから、自宅療養中に容体が急変し、亡くなるケースが相次いでいたからでした。

購入は中国の通販サイト

女性は先月20日ごろ、パルスオキシメーターを購入しようと日本の通販サイトを探しましたが、当時、日本の大手メーカーの信頼できそうな機器は品薄で見あたらず、在庫も確認できなかったといいます。

そこで女性が検索したのが、中国の大手通販サイトでした。
以前、輸入に携わる仕事をしていた経験から、海外の政府機関の認証を受けたという型番と同じ型番の商品を探し出し、信頼できるものだと考えて、購入を決意したといいます。

海外ユーザーが12個購入!?

女性が驚いたのは、中国の大手通販サイトのレビューの欄です。
ロシア人とみられるユーザーのレビューの中には「12個買って親戚に配る」といったものもありました。
世界中から注文が相次いでいる様子がうかがえたということです。
女性
「万が一感染して、自宅療養中に症状が悪化してしまったとき、血液中の酸素の値が下がっていれば、医療機関にかかれたり、入院の手続きをとってもらったりするようになるのではないかと思いました」

「買っていいのだろうか」

実は、購入前にインターネットでパルスオキシメーターについて調べたという女性。

日本のメーカーなどが「個人の購入は控えて」と呼びかけていることを知り「買っていいのだろうか」という疑問が頭をよぎったといいます。
女性
「中国のサイトから直接買う分には、日本で本来行き渡るものを減らしてしまうことにはならないだろうと思いました。『自治体が必要な分を配ります』と言ってくれるなどの安心材料がなければ、正直、身を守るために個人の判断で購入するのは、しかたのないことのようにも思います」

どこも品薄!?

「買っておいてよかった。今は品切れ」
「品薄になってきている」
ネット上には、こんな投稿も目立ちます。

40年以上にわたってパルスオキシメーターを提供するメーカー、コニカミノルタの担当者に、本当に品薄なのか、話を聞きました。
コニカミノルタの担当者
「他社の状況はわかりませんが、どこも品薄だと思います」
コニカミノルタは医療機関などを中心に販売していて、去年6月ごろから通常の3倍の増産体制をとっていたものの、年末ごろからさらに需要が増えて、追いつかなくなり、現在は入荷待ちの状態が続いているといいます。
コニカミノルタの担当者
「年末ごろから急に需要が増えました。自宅療養者が増えたからではないかと思います。もっと欲しいのに倉庫が空っぽで、入ってもすぐ商品が出ていってしまうのが現状です」

自治体も確保に苦労

パルスオキシメーターの確保に苦労したという自治体もあります。
大阪府は、今月末までにおよそ1万3000台を確保し、自宅療養や宿泊療養をする人たちに貸し出すことにしています。

貸し出しは、自宅療養をしている人のうち、年齢が40歳以上で、保健所がパルスオキシメーターによる健康観察が望ましいと判断した人や、基礎疾患などの理由で必要と判断された人が対象です。

また、府内9か所の施設で宿泊療養をしている人全員にも貸し出すことにしています。
大阪府の担当者
「業者に何社もあたってなんとか確保しましたが、見積もりを出しても『調達できなかった』と連絡してきたところもあり、大変でした。どの業者も『引き合いが多くなっていて、早期に発注しないと間に合わなくなる』と言っていました。自治体の規模が大きいところは数が多く、調達は大変だろうと思います」

パルスオキシメーター 何がわかる?

感染の拡大とともに急激に需要が高まっているパルスオキシメーター。何を測定できるのか、改めて確認したいと思います。
パルスオキシメーターは、採血をしなくても、クリップ状の装置を指先に挟むだけで、血液中の酸素がどの程度取り込めているかを示す値「酸素飽和度」や脈拍を測定することができる医療機器です。

血液中で酸素を運ぶヘモグロビンは、酸素と結びついているときは鮮やかな赤色、十分に結びついていないと暗い赤色になります。

パルスオキシメーターは、色の違いによって光の吸収のしやすさが異なることを利用して、指先の血管に光を当てることで、血液の色から酸素飽和度を測ることができます。

正常値は96%以上とされ、厚生労働省の「診療の手引き」では、93%以下では酸素吸入が必要としています。

本当に必要な人へ 「個人の購入控えて」

パルスオキシメーターは、従来から医療や介護の現場で日常的に使われてきましたが、品薄が続くことで、本当に必要な人の手に届かなくなるのではないか。

コニカミノルタの担当者は、困惑気味にこう話しました。
コニカミノルタ担当者
「ここまで品薄で追いつかない、切迫している状態にあることが知られてないと感じています。急性呼吸不全を起こす可能性のある慢性疾患の患者の方や、医療機関、介護施設などでは、病状を判断するのに重要な機器です。急性呼吸不全を起こすリスクの高い家族がいない一般家庭で、安心するためだけに購入するのは控えていただきたいです。重症化リスクの高い基礎疾患のある方や高齢の方、また、保健所の管理のもとで自宅療養する感染者の方など、本当に必要な人に機器が届くよう、お願いしたいです」

使用時は医師の指導を

そのうえで、使用するときは医師の指導を受け、正しく使うよう呼びかけています。
コニカミノルタ担当者
「パルスオキシメーターは操作が簡単なため、家庭でも簡単に使える機器のようにも思えますが、個人の判断で使用できるものではありません。適切に使わないと誤差が生じるおそれがあるほか、測定結果は医師が患者の総合的な状況を確認して判断する必要があります」

認証番号を無断転載 粗悪品!?

ネット上には、粗悪品とみられる機器も出回っているといいます。

医療機器などを販売する「ちゃいなび」の取締役、相馬崇宏さんです。

パルスオキシメーターは公的な機関による安全性や有効性の認証が必要な医療機器で、製品には「認証番号」が付与されます。
販売にも資格が必要で、都道府県の許可を得た医療機器販売業者でしか取り扱うことができません。

ところが、この認証番号を無断で使い回される事態が起きているというのです。
相馬さんは先月、自社で販売しているパルスオキシメーターとよく似た商品を、インターネットの通販サイトで見つけました。
サイトの商品説明を確認したところ、自社で販売する製品の認証番号が勝手に使われていたことがわかり、驚いたといいます。
こうした無断転載は多いときには別の通販サイトも含めて80件ほど確認され、現在も後を絶たないということです。

認証されていない商品を販売している場合は、法律に違反するうえ、有効性や安全性が確保されておらず、購入した人に被害をもたらすおそれもあります。

この会社では「消費者の重要な判断基準をゆがめる悪質な行為」だとして、通販サイトの運営会社に該当するページの削除依頼を行ったうえで、行政機関にも連絡し、業者に販売中止を申し入れました。
相馬さん
「極端に安い値段で販売されている、また、販売ページの日本語が不自然だといった場合は、特に注意が必要です。心配な場合は、販売元に販売業許可があるかどうか問い合わせることも必要だと思います」

「健康な人は購入控えるのが望ましい」

パルスオキシメーターの個人購入について、信州大学医学部附属病院 呼吸器・感染症・アレルギー内科の花岡正幸教授に聞きました。
花岡教授
「パルスオキシメーターは医療機器で、医療者の指導や助言のもとに正しく使うことが必要です。一般の健康な方が、機器の数値が正しいのか、数値にどれくらいの意味づけがあるのか判断することは難しい」
でも、いざ感染したときのために、購入し備えておきたいという声も聞かれます。そう尋ねると、次のように答えました。
花岡教授
「新型コロナと診断された方が使用するのは決して悪くありません。その場合、多くの自治体は宿泊療養、あるいは自宅療養中の人にパルスオキシメーターを貸し出しています。貸し出されたものを指示に従って正しく使い、自分の体の状態を把握するのに役立ててほしいです。必要な人のもとに機器が届くためにも、健康な方は購入を控えることが望ましいと考えています」

厚労省 個人への呼びかけ「考えていない」

厚生労働省は個人購入についてどのように考えているのでしょうか。

厚生労働省は先月、業界団体にパルスオキシメーターの増産と、自治体からの発注に優先して対応するよう求めています。
厚労省担当者
「『個人の購入を控えてほしい』と呼びかけることは、今のところ考えていません。心配で購入する気持ちもよくわかりますし、そこを制約するのは難しいと考えています。厚生労働省としては、あくまでメーカーや業者に増産や安定供給をお願いし、自治体向けを優先して欲しいという立場です」

使わなくてはならなくなったときは?

もし感染して、パルスオキシメーターを使わなくてはならなくなったときに、必要な注意はあるのか、花岡教授に聞きました。
1. 安静に
動いたりせず、安静な状態で測定する。

2. 冷えは大敵
指が冷たいと正確に測定できません。暖かい部屋で測るなど工夫を。

3. マニキュアはとって
マニキュアを塗っていたり、爪に水虫があったりすると、正確な数値が出ません。自分の爪の状態の確認を。

4. 差し込む位置は“深く”
人さし指か中指のどちらかを、まっすぐ深く機器に挿入する。赤い光が爪の付け根部分に当たっているかをチェック。

5. じっくり待つ
直後の値は安定していません。30秒以上じっくりと数値が安定するまで待つ。

6. 脈が測れているか確認
機器が脈を測れていないと、正しい酸素飽和度の数値が出ません。脈がしっかり測れているか、機器の作動で確認する。

そして、もし自宅療養中に使用していて、一定程度値が下がったときは、保健所に連絡してほしいということです。

ないときは 症状の悪化どう気づく?

では、自宅で療養していても、パルスオキシメーターがない場合に、症状の悪化に気づく方法はあるのでしょうか。

静岡がんセンターの感染症内科部長、倉井華子医師は、まず自分のリスクを冷静に見積もってほしいといいます。
倉井医師
「高齢者や、肥満、糖尿病、心臓や肺に病気がある人などは重症化のリスクがありますが、そうでない人が重症化することは少ないです。そのため、パルスオキシメーターがむだな買い物になってしまうこともあります」
そして倉井医師は、パルスオキシメーターがなくても症状が進んでいることに気づけるポイントについて教えてくれました。

1つは、動いたときに息が切れるかどうかです。
倉井医師
「新型コロナウイルスの場合、安静にしていれば苦しくないという人もいます。そのため、トイレに行こうと歩いたときに息が切れる、しゃべったときに息が切れるのが、危険なサインです。そういうときは、速やかに保健所など指示されているところに連絡を入れて下さい」
呼吸の回数も大事なポイントです。

呼吸数は胸の上下する動きを数えることで測ることができますが、1分間の呼吸回数が20回を超えると、危険な場合があるといいます。

通常の呼吸回数は12回から15回ですが、個人差があるため、ふだんの呼吸数を知っておくことも大切だといいます。
倉井医師
「ふだんの呼吸や体温などを知っておくと、感染したときにふだんとどのくらい違うかがわかります。このほか、顔色が明らかに悪い、肩で呼吸をしている、手の指の色が悪いといった点も、重症化に気づくポイントです。自宅で療養する人の家族は気をつけて見てあげてほしいと思います」

「今は本当に必要な人に届かない状況」

取材でコニカミノルタの担当者がこう強く訴えたのが印象に残りました。
コニカミノルタ担当者
「持っていた方が安心な気持ちはよくわかります。でも、今は切迫した状況で、本当に必要な人にさえ届かない状況もあります」
コニカミノルタは、ことし1月、次のような呼びかけをホームページに掲載しています。
「基礎疾患のない方には、パルスオキシメータは感染予防にも感染の早期発見にも結び付きません。一般家庭での医師等の指導のない購入はお控えいただけますよう、今一度お願いいたします。新型コロナウイルス感染症の重症化リスクの高い基礎疾患のある方、ご高齢者、保健所の管理のもとで自宅療養される感染者の方といった、本当に必要な方への供給を優先させていただくためにご協力をお願いいたします」
本当に必要な人にパルスオキシメーターが行き渡るように。
不安が多いときだからこそ、今どうしても必要なものなのか、また、きちんと測定できる信頼できる機器なのか、それぞれが冷静に見極めることが大切なのではないかと感じました。