変異ウイルス “市中拡大見られずも監視続ける必要”

感染力が高いとされる変異した新型コロナウイルス。クラスターとみられる感染が新たに確認されています。

9日、イギリスと南アフリカで感染が広がっている変異した新型コロナウイルスに、全国で合わせて13人が感染していたことがわかりました。

このうち9つの県に住む20代から50代の11人は、いずれも同じ施設を利用した職場の関係者で、海外に滞在歴はないということです。

このほか、神奈川県では海外に滞在歴がない40代と50代の男女から南アフリカで感染が広がっている変異ウイルスが検出されました。

変異ウイルスは、10日までに、空港の検疫で43例、検疫以外では65例の合わせて108例見つかっていて国内で感染が拡大することが懸念されています。

変異ウイルスとは

多くのウイルスは、感染を繰り返すうちに遺伝情報にごく小さな変異が起こります。新型コロナウイルスでは、2週間に1か所ほどのペースで小さな変異が起こることがこれまでの研究で分かっています。

ただ、こうした変異はほとんどの場合、ウイルスの性質には影響がありません。

しかし、▼イギリスで確認された変異ウイルスと▼南アフリカで広がった変異ウイルス、それに▼ブラジルから見つかった変異ウイルスはいずれも変異によってウイルスの性質が変化していると考えられています。
この3つに共通しているのは新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際の足場となる「スパイクたんぱく質」の遺伝情報に「N501Y」と呼ばれる変異が起こり、アミノ酸が変化していることです。

イギリスからの報告ではこの変化によって感染のしやすさが最大70%程度高くなっているおそれがあるとされています。

また、最近、注目されているのはこれとは別の変異です。
▼南アフリカで見つかった変異ウイルスと▼ブラジルから見つかった変異ウイルスでは、「E484K」と呼ばれる変異が確認されています。

この「E484K」の変異があるとウイルスが抗体の攻撃から逃れやすくなると考えられていて、細胞を使った実験でも抗体の効果が弱まったという報告があります。

こうしたことから、▼現在、使われているワクチンの効果に影響が出ないかや▼1度感染した人が再び感染するおそれがあるのではないかなどの懸念が出てきています。

ヒトの免疫は抗体だけで決まるわけではない上にワクチンの効果は発症を抑えるだけで無く、重症化を防ぐことも期待されていることなどから影響については、現在、詳しい調査や研究が進められています。

変異ウイルス検出の流れ

変異ウイルスの検出は、国立感染症研究所でウイルスの遺伝子をすべて解読する方法で行われていましたが、国立感染症研究所はPCR検査で変異ウイルスを特異的に迅速に検出する手法を開発し、いまでは各地の地方衛生研究所でこの手法での検査が行われるようになってきています。
各地の地方衛生研究所では、通常の検査で新型コロナウイルスの陽性が確認された検体のうち、一定の割合を抽出して変異ウイルスを迅速に検出するためのPCR検査を行っていて、変異ウイルスの可能性があることが分かった場合には、検体を国立感染症研究所に送って確定させる流れになっています。

こうした中で、東京都では先月29日までにPCR検査などで新型コロナウイルスの感染が確認された1710人分の検体について調べた結果、変異ウイルスが検出されたのは2人分の検体で、一部にとどまり感染の主流にはなっていないと見られます。

専門家“市中での広がりは見られない 一方で監視を続ける必要”

国立感染症研究所の脇田隆字所長は9日夜の記者会見で、「いま変異株が各地で検出されているが、ほとんどのケースで感染の経路は追えている。変異株に感染した人とつながりがない状況で、市中で変異株に感染するという状況にはないと考えている」と話し、現時点では市中での広がりは見られないという見解を示す一方、感染が拡大するおそれはあり、監視を続ける必要があるとしています。