じわりと広がる“コロナ後遺症” ~軽症・無症状でも注意~

じわりと広がる“コロナ後遺症” ~軽症・無症状でも注意~
「歯磨きで息切れする」「牛乳パックも持てない」……。新型コロナウイルス感染症の後遺症とみられる症状に苦しむ人たちから、ラジオ第1の番組「三宅民夫のマイあさ!」(平日6:40~8:30)に寄せられた声です。後遺症としては、においや味が分からないなどの症状が比較的知られていますが、まだ分からないことが多いのが実情です。番組に寄せられた声からは「異常なけん怠感」や「気持ちの落ち込み」などに、長期間にわたって悩み苦しむ姿が見えてきました。
(ラジオセンター 番組デスク・ディレクター 三好正人)

人知れず苦しむ “コロナ後遺症”の実態

「トイレ、歯磨きがやっとで、シャワーは数日に一度です。洗髪が大変なため、自宅ではさみを使って自分で髪を切らざるをえませんでした。歯磨きでさえ息切れし、苦しく、ほとんどの時間をベッドで過ごしています」
東京都の30代の女性から寄せられたメールです。

新型コロナの感染による症状は軽症で、15日ほどで症状が治まりました。
「治ったから頑張らなくては」と、仕事や体力回復のために散歩と腹筋をして、数日後に、異常なまでのけん怠感と筋肉痛に襲われ、倒れたといいます。
けん怠感と言っても、仕事で疲れがたまっているというようなものではなく「体が鉛になったような、ずっと上から押さえつけられているような状態」で、今はほぼ寝たきりだということです。
「鉛を背負って沼に沈むようなけん怠感が続いています。そのため、8か月も寝たきり。激痛で牛乳パックすら持てません」
大阪府の50代の女性も、けん怠感に苦しめられています。「鉛を背負って沼に沈む」ようだとメールに記しています。寝たきりの状態は8か月も続き、牛乳パックすら持てないほどの激痛を訴えています。

女性の苦しみは身体的な症状だけではありません。後遺症とみられる症状の影響で、契約社員として働いていた仕事を失ってしまったというのです。「精神疾患のように扱われる」「恐怖をあおっているだけ」と言われるということです。

治療の現場では

番組には、後遺症とみられる症状について「どこに相談すればよいのか」「どの病院なら診てくれるのか分からない」という声も多数寄せられました。

コロナの後遺症とみられる症状は、だるさ、微熱、呼吸苦、筋肉痛、嗅覚や味覚の障害、意欲低下、脱毛など、さまざまありますが、対応する医療機関は少ないのが現状です。
後遺症とみられる症状に苦しむ人を800人以上診てきたクリニックが東京 渋谷区にあります。
「ヒラハタクリニック」の院長、平畑光一医師は「新型コロナ後遺症外来」を去年3月に開設し、通院やオンラインで全国の患者を診療しています。
平畑医師
「はじめは通院している患者の中から微熱やだるさを訴える人が出始め、症状が長期にわたる人も出てきました。調べるうちにコロナの後遺症ではないかという結論に行き着き、その後も多くの患者を受け入れていくうちに、専門外来の必要性を感じました」
これまでに診察した全国の800人以上のうち、1月14日現在で、詳しく分析できた475人の症状です。
複数回答で、「けん怠感」が95%、「気分の落ち込み」が86%、「思考力の低下」が83%、「息苦しさ」が75%、「脱毛」が50%、「味覚障害(味を感じない)」が30%でした。
さらに、全体のおよそ3分の1が「1週間のうち半分以上自宅で休む」という寝たきりに近い状態になっているということです。

「若い人にも広がっている」

今、平畑医師は、後遺症とみられる患者を1日に60~90人ほど診察しているといいます。去年秋の2倍以上です。

感染が急拡大した中、どんなことが見えてきているのか、うかがうと…。
平畑医師
「受診している患者で今いちばん多くなっているのは40代です。10代~30代もだいぶ増えてきて、若い人たちが多くなってきたという印象です」
これまで、感染では重症化しにくいと言われてきた「若い人たち」への警鐘でした。

そして、無症状だった人にも、あとになって後遺症が出てしまうという恐ろしさが見えてきました。
平畑医師
「『コロナ感染時の重症度』と『後遺症の重症度』は全く一致していないです。軽症や無症状でも(後遺症の)症状が出てしまうことがよくあるんです。感染時の症状の重さよりも、そのあとのほうがよほど怖いということが非常に多くあります。『若いからかかっても大丈夫』ということはありません」

“コロナ後遺症”の調査・研究の今

コロナの後遺症については、国立国際医療研究センターの研究グループが去年10月、疫学調査の結果を公表しています。
去年の2月から6月にかけて国立国際医療研究センター病院を退院した患者63人(平均年齢48歳)から、回復後に出た症状の有無を聞き取ったものです。
研究グループの森岡慎一郎医師によると、せき、たん、だるさ、呼吸苦、嗅覚障害、味覚障害といった症状が、発症から2か月で48%の人に見られたということです。また4か月たっても、27%の人に何らかの後遺症が認められたとしています。
森岡医師
「われわれが考えていたよりも多かったですね。そして4人に1人という割合で脱毛も見られたという結果が得られました」
森岡医師によると、日本だけでなく各国でも調査が進められていて、今のところ、世界の論文では、後遺症とみられる症状は「女性」「高齢者」「肥満度が高い」「感染時に多くの症状を訴えていた人」に多く見られているということです。
森岡医師
「今のところ後遺症の治療法は確立しておらず、対症療法で症状をやわらげるしかない。すっきりするまで半年ぐらいはかかっているというのが現状です」
後遺症についてはまだまだ分かっていないことが多いというのが実態のため、研究グループではことしの3月以降、およそ350~400人の患者を対象に追跡調査を行う計画です。
その際に「どのくらい息切れをしているのか」などの病状の程度や日常生活への影響度合いも調べ、病態の解明と治療法の開発につなげていきたいとしています。

治療法は“手探り状態”

多くの患者を受け入れてきた平畑医師は、手探り状態の中、さまざまな対症療法に取り組んでいます。
平畑医師
「主にサプリと漢方を処方して改善をはかっています。けん怠感や思考力・集中力の低下などを訴える患者には、体を温める作用のある漢方を使うだけでも、つらいけん怠感が軽減されることがあります」

“社会の認識”も問題

後遺症について取材を進めると、症状の深刻さに加えて、さまざまな問題も見えてきました。

それは、新型コロナに「後遺症がある」ということが広く知られていないために、精神的なダメージを抱えてしまっているということです。

平畑医師は「新型コロナウイルスの後遺症自体がまだまだ社会で認識されていないのが現状だ」と指摘しています。
平畑医師
「仕事場からは『療養期間が終わったしPCR検査でも陰性になっているんだから、治っているはずだ』『動けない“根拠”を示せ』などと言われ、仕事を辞めざるをえなくなったという人もいます」
「家族からも『いつまでも寝ていて怠けている』と叱責され、逃げ場のない状況に追い込まれてしまっています。自分自身も、ほかの人と同じように思うように動けないことで、精神的に落ち込んでしまい、抑うつや不安障害を発症している人もいます」
番組にも、こんな声が寄せられました。

去年3月末まで姉妹で東京都内で暮らしていた30代の女性は、第1波のときに体調を崩しましたが、PCR検査は受けられず、後遺症とみられる症状で仕事も家事もできなくなって、石川県の実家に帰り、療養生活を送っています。
「病院に行っても『コロナかどうか分からないんですよね?』といった、心ないことばばかりです。特に地方では後遺症に苦しむ患者が少なく、認知が進んでいないと感じます」
同じように第1波で検査を受けられなかったという、静岡県に住む50代の女性からは、深刻な訴えもありました。
「病院では『後遺症なんてない』と笑われたり『ここでは診られない』と言われてしまう。検査を受けられなかった人はどうなるのか。これからの生活が不安でたまらない。死も考えてしまいます」
平畑医師も、課題の1つに、医師側にすら後遺症が十分に知られていないことを指摘しています。
平畑医師
「まだまだ分かっていないことが多く、すべての医師が十分な知識を持ち合わせているわけではありません。血液検査などでは何も引っかからないことも多いので、難しくしている部分があると思います。その結果『どこも悪くないのだから、あなたは健康だ』『心の病気だ』となり、患者は突き放された気持ちになってしまいます」
平畑医師、そして国際医療研究センターの森岡医師も、まずは信頼できる「かかりつけ医」に相談することが大事だとしています。
かかりつけ医がいない場合は、味覚・嗅覚については「耳鼻科」、息切れなどの場合は「呼吸器科」がよいとしています。

今後のコロナ社会に向けて

これからは後遺症にも目を向けなくてはいけません。後遺症の研究は、日本を含め各国で日々、進められています。

一日も早い後遺症の治療法が確立することを願ってやみませんが、一方で、後遺症とみられる症状が長引くことで、その人の人生や尊厳が失われることがあってはならないと、取材を通して感じました。

社会全体で後遺症を理解し向き合うことが、今、求められていると思います。
ラジオセンター
三好 正人
「マイあさ!」デスク・ディレクター
2001年入局 秋田局、札幌局、アナウンス室などを経て、現所属