「部屋を貸せない」と言われたら

「部屋を貸せない」と言われたら
新型コロナウイルスは、暮らしに欠かせない住宅に、影響を及ぼしています。
テレワークの普及で、都市部から郊外へ移る動きもあります。
その一方で、収入が減って家賃の支払いに苦労する人、より家賃の安い住宅に移ろうとしても、入居を断られてしまう人もいます。
コロナ禍で不透明ないま、誰もが直面する可能性があります。(経済部記者 長野幸代)

賃貸住宅の現場に変化が

年度の変わり目を控えたこの時期、街の不動産会社は1年で最も賃貸住宅の仲介が増えます。しかし、都内のこの店舗で、目立って増えているのが部屋の解約です。
地元に帰る」、「安い部屋に引っ越す」といった理由が多いということです。
家賃の支払いに困った入居者からの相談や、国が行う家賃支援の給付金の申請に関わる手続きも増えているといいます。
鵜澤代表
「家賃の支払いが難しい。給付金を申請したいが、どうすればよいかという相談が、何件も寄せられています。リーマンショックや東日本大震災のあとも、こんなことはありませんでした」
業界団体の「日本賃貸住宅管理協会」が去年行った調査では、会員企業の48.7%が感染拡大の影響で「賃料減額請求が増えた」。26.7%が「解約(退去)が増えた」と答えています。

急増する住まいの給付金申請

国は、仕事がなくなって収入が減少した人などに対して、家賃を給付する生活支援を行っています。「住居確保給付金」制度です。
給付額は自治体や世帯の人数によって違いますが、例えば東京23区では、単身世帯は月5万3700円、2人世帯は6万4000円が、賃貸住宅のオーナーなどに振り込まれます。家賃を支援している間に、仕事を探し、生活を立て直してもらおうというのが制度のねらいです。
全国の支給件数は、2020年度は、去年4月から12月までの9か月間で、過去最大の11万9265件に上っています。2019年度は3972件、リーマンショック後の2010年度でも3万7151件でした。件数を見るだけで、コロナの影響の厳しさが見えてきます。

給付金があるうちに、コロナの収束を

1月に給付金を申請した夫婦に話を聞きました。住まいは築30年余りの、およそ20平方メートルの1ルームマンションです。夫は69歳で年金生活。妻はプロの歌手でコンサートやイベント会場、飲食店などで歌い、月に15万円ほどの収入を得ていました。しかしコロナで、イベントの中止が続き、妻の収入はほとんどなくなってしまいました。
今は夫の年金と貯金、それに給付金が頼りです。
年金生活の男性
「給付金は本当にありがたいです。妻は歌の仕事以外はしたことがありません。給付金が切れるまでに、とにかく感染が収束して、歌の営業を再開できることを願っています。それまでは自粛して切り詰める毎日です」

いつか来る支給終了

給付金の支給期間は原則3か月ですが、コロナ禍の2020年度中は最長12か月まで延長されています。
しかし、去年4月に申請して受給してきた人は、仕事が見つからなかった場合でも、ことし3月分で支給は終わります。
コロナの影響で過去最高に増えた給付金の支えがなくなった時、家賃を滞納する入居者が増えるのではないかと懸念する声もあります。

「部屋を貸せない」をなくすには

コロナの影響で収入が減り、より安い部屋へ引っ越そうと考える人も増えています。
しかし、生活の状況が厳しいがゆえに「部屋を貸せない」と入居を断られることもあります。こうしたケースを少しでも減らしたいと始まったサービスがあります。
住宅情報サイトを運営するライフルは、新型コロナウイルスが感染拡大した去年4月に、特設のページを設けました。
掲載するのは、部屋の間取りや駅からの距離といった物件情報ではありません。
所得の減少などで住まいに困る人たちの家探しに前向きに取り組むと、表明している不動産会社の情報です。ページを開設以降、アクセス数は増加を続けています。

住まい探しに親身なドアを

ライフルでは、おととし11月に「FRIENDLY DOOR」というサイトを設け、年齢や収入などを理由に“入居を断られがち”な立場の人たちーー高齢者、シングルマザー、外国人といった人たちの、住まい探しに理解のある会社、全国の2475店の情報を載せてきました。これをコロナをきっかけに拡充したのです。
プロジェクトのリーダー、キョウ・イグンさんは、サイトに込めた思いを、こう話しています。
キョウさん
「例えばパートを減らされて収入が減り、家賃の支払いが負担になる事態は、コロナ禍では誰が直面してもおかしくないと思います。自分から望んだ事態ではないので、いろいろな立場の人をはなからお断りとせず、オーナーに丁寧に説明したり交渉したりと、間に入って住まい探しに親身になってくれる人に出会えるドア、という思いを込めています」
キョウさんは、家賃の滞納などを心配するオーナーや不動産会社の不安を減らそうと、セミナーなども開催しています。高齢者やシングルマザーの住まいの支援を行うNPOの代表などを講師に招いて、受け入れの拡大につなげようとしています。
NPOやソーシャルワーカーなどとつながって、家探しを支援する仕組みを作ることができないかも模索しています。
キョウさん
「雇用情勢など、自分たちの取り組みだけではどうにもならないことも多く、はがゆく感じることもあります。しかし住まいに困る人たちの問題を、自分のこととして考える人が増えれば、少しずつ解決につながっていくと思います。最終的な目標は、こうしたサイトがいらなくなることです」

住まいに困らないために

取材の中で、国が進める「住宅セーフティネット制度」の強化も必要だという指摘がありました。高齢者や所得が低い人などの入居を拒まない住宅として、オーナーが都道府県に登録すれば、改修費用などの補助を受けることができる仕組みです。増加する空き家をセーフティーネット住宅として積極的に活用していくことが必要だという意見もありました。
誰もが住まいに困らないよう、どのような取り組みを積み重ねていくか。コロナがわたしたちに突きつけた課題だと感じます。
経済部記者
長野 幸代
平成23年入局
岐阜放送局、
鹿児島放送局を経て
現職