平山郁夫などの偽物の版画流通か 奈良の工房が制作関与認める

戦後を代表する日本画家、平山郁夫などの作品をもとにした偽物の版画が、数年前から百貨店などで流通していたとみられることが関係者への取材で分かりました。画商でつくる組合の調査に対し、大阪の画商が販売したことを認めているということで、警視庁は著作権法違反の疑いで捜査しています。

偽物の版画が流通していたのは、日本画家の平山郁夫や東山魁夷、それに片岡球子の作品です。
版画を扱う画商でつくる「日本現代版画商協同組合」などによりますと、原画をもとに職人が制作する版画は通常、画家本人や遺族の許可を得たうえで数を制限して販売していますが、去年の春ごろ、特定の版画が百貨店などで多く流通していることに組合員が気付いて調査したところ、色合いなどがわずかに異なる偽物が含まれていたことが分かったということです。

さらに、流通ルートを調べた結果、大阪市で画廊を営む50代の画商が関わっていることが分かり、組合の調査に対し、数年前から販売していたことを認めたということです。

偽物の版画は、確認できただけで10作品あるということで、組合は去年12月、この画商を除名処分にしました。

また、捜査関係者によりますと、偽物の版画は奈良県にある工房で制作していた疑いがあるということです。

警視庁は去年12月に著作権法違反の疑いで関係先を捜索し、複数の版画を押収したということで、今後、鑑定を進めるとともに流通ルートなどを調べることにしています。

奈良県の工房経営者 8年前から偽物制作していたことを認める

偽物の版画が流通していることについて、奈良県にある工房の経営者がNHKの取材に応じ、大阪市の50代の画商から依頼されておよそ8年前から偽物を制作していたことを認めました。一方、「何に使うかは一切関知していなかった」と話しています。

奈良県大和郡山市にある工房の経営者は、これまで40年以上にわたって版画の修復に携わってきたということですが、さまざまな画廊とのつきあいの中で、およそ8年前に大阪市の50代の画商から制作について依頼を受けたとしています。

その後、依頼されたとおりに平山郁夫や東山魁夷などの作品をもとにした版画を制作し、納品していたということです。

一方、偽物の版画が百貨店などで流通していたことについては「結果的に加担したことは悪いと思っているが、何に使うかは一切関知しておらず、このような形で流通するとは知らなかった」と話しています。

「そごう・西武」販売の71点に偽物の疑い 調査進める

大手デパートの「そごう・西武」は、これまでに販売した版画の71点に偽物の疑いがあるとして、顧客から作品を預かって調査を進めていることを明らかにしました。

「そごう・西武」によりますと、偽物の疑いがあることが分かったのは、2009年から去年までの間に販売した3人の日本画家の作品をもとにした71点の版画で、販売額は合わせて5500万円分に上るということです。

関係者によりますと、この3人の日本画家は、平山郁夫と東山魁夷、それに片岡球子だということです。

そごう・西武は去年12月に画商の組合から連絡を受けて調査を進めていて、今後、顧客から作品を預かって第三者による鑑定委員会に調査を依頼し、偽物と判明した場合は作品を引き取って顧客に返金するとしています。

そごう・西武は「このような事態を招き、多大なご迷惑とご心配をおかけしましたことを、深くおわび申し上げます。抜本的な再発防止策を講じます」とコメントしています。
デパート業界では、このほか大丸や松坂屋を運営する「J.フロント リテイリング」や、「高島屋」も同じように偽物の疑いがある作品を過去に複数、販売していたことが確認されたということで、調査や返金の対応を進めているということです。

版画とは

画家の作品として流通している版画には、画家が描いた原画を基に職人が制作する複製版画と、画家が版画用に下絵を描くオリジナル作品の2種類があります。

画家自身や許可を得た画商などが版元に制作を依頼し、偽物の流通を防ぐため、画家本人や遺族などのサインや印、それに通し番号を付けて枚数を制限して販売されるのが一般的です。

関係者によりますと、偽物の版画を見分けるには、本物として流通している版画と比較して、絵の色合いやサインの形などが同じかどうかを確認します。

弟の平山助成さん「作品の価値が下がることにつながる」

平山郁夫の多くの作品を所蔵する広島県尾道市の美術館の関係者からは非難する声が聞かれました。

平山郁夫が生まれた尾道市瀬戸田町にある平山郁夫美術館には、原画や版画などおよそ70点の作品が所蔵されています。

美術館によりますと、今回見つかった偽物の原画や版画は所蔵していないということですが、偽物を流通させるのは作品の価値をおとしめる行為だとして非難しています。

平山郁夫の弟で、美術館の館長の平山助成さんは「今回見つかった盗作は、ラクダとブルーモスクという非常に人気が高いモチーフが描かれたものだと聞いている。本来、流通する版画は本人が確認して許可したものだが、偽物が出回ると、作品の価値が下がることにつながるので非常に迷惑でやめてほしい」と話していました。

調査委員会が鑑定 呼びかけ

この問題を受けて、版画に関わる美術商や組合などは臨時の調査委員会を立ち上げ、対象となっている作品の所有者に対して鑑定を受けるよう呼びかけています。

版画に関わる美術商や組合などは、美術品の公正な取り引きを確保して美術愛好家の安心を取り戻そうと、「臨時偽作版画調査委員会」を立ち上げ、調査を行ってきました。

それによりますと、これまでのところ平山郁夫が2点、東山魁夷が3点、片岡球子が5点の合わせて10作品について、偽物の版画を特定したということです。

いずれも非常に精巧に作られ、技術の高い版画職人によるものと考えられるということで、調査委員会は作品の所有者に対し、購入した美術商などを通じて鑑定を依頼してほしいと呼びかけています。

また、別の作品の偽物が新たに確認された場合、鑑定の対象にするよう努めたいとしています。

鑑定については、版画を専門とする機関が国内にないことから、絵画や工芸品を鑑定している「東美鑑定評価機構」が臨時に依頼を受けるということです。

調査委員会の代表に就任する予定の青木康彦さんは、「これまで築き上げてきた版画への信頼を大きく傷つける問題だ。真がんをはっきりさせないと版画の商品が取り扱えない事態になってしまうので、できる限りの協力をしていきたい」と話しています。

偽物版画 特定の10作品とは

「臨時偽作版画調査委員会」が偽物の版画を特定したのは、以下の10作品です。

【平山郁夫】
 ・月光ブルーモスク イスタンブール 
 ・流沙朝陽

【東山魁夷】
 ・秋映
 ・草青む
 ・風吹く浜

【片岡球子】
 ・富士
 ・河口湖の赤富士
 ・うららかな富士
 ・「冬」
   版画集「富士四題」より
 ・桜咲く富士