「結束は夢物語」トランプ支持者はいま何を思う

「結束は夢物語」トランプ支持者はいま何を思う
アメリカで民主党のバイデン新政権が発足してから半月。バイデン大統領は「国民の結束」を掲げています。一方、大統領の就任式直前に行われた世論調査では、共和党支持者の75%が「バイデン氏を選挙で勝利した正当な大統領とはみなしていない」と答えています。そして、いまもトランプ前大統領の熱烈な支持者が多くいるのが現実です。大統領就任式を欠席したり、連邦議会への乱入事件をめぐって弾劾訴追されたりと、任期の最後まで物議を醸したトランプ氏。支持者たちを取材すると、「国民の結束」にはほど遠い状況が浮かび上がってきました。
(国際部記者 近藤由香利 藤井美沙紀)

トランプ氏の応援グッズ専門店のオーナーは

東部ペンシルベニア州にあるトランプ氏の応援グッズ専門店のオーナー、マイケル・ドメニコさん(51)。去年2月に開業して以来、多くのトランプ支持者が訪れています。
去年10月に取材した際には、とても気さくに対応してくれました。
Q.バイデン政権の誕生をどう思っていますか?
ドメニコさん
「自分の周りでは、バイデン氏は全く人気がありません。大統領選挙で8000万票余りも獲得したとは考えられず、選挙結果は信じていません。友人がSNSに投稿している動画で、何も記入されていない票がバイデン氏の票の山に入れられ、集計されているのを見ました。大規模な不正が行われていたのです」
Q.トランプ氏は退任しましたが、まだ応援グッズは売れているのですか?
ドメニコさん
「いまだに多くの支持者が買いに来てくれて、店の経営は順調です。驚いたのが、大統領の就任式の日に、いつも以上に多くの人が店を訪れたことです。1月からバイデン氏を批判するグッズの販売も始めましたが、すごくよく売れているんです。みんなバイデン政権誕生に怒りを感じているんだと思います」
Q.連邦議会乱入事件を扇動したとされていることについては、どう思いますか?
ドメニコさん
「事件を起こしたのはトランプ支持者ではありません。デモに参加した友人から聞きましたが、支持者たちは旗を振ったり歌ったりと、とても平和的で、決して暴力的ではなかったそうです。『議会内であんなことが起きていたなんて知らなかった』とも話していました。暴動を起こしたのは、デモに紛れ込んでいた、反ファシズムを掲げる左派集団『アンティファ』たちです。友人や僕の店を訪れる客は皆、事件はトランプ氏の評判を落とすために仕組まれたことだと話しています。私もそう信じています」
Q.なぜ、彼らがトランプ氏の評判を落とす必要があるのでしょうか?
ドメニコさん
「トランプ氏に暴動の責任を負わせることで、次の大統領選挙に出られないようにしたいと考える人たちがいるのです」
Q.トランプ氏を今後も支持していきますか?
ドメニコさん
「100%応援します。トランプ氏は大手メディアについて、繰り返し『フェイクニュースだ』と訴えていました。それまでは大手メディアがうそを報道するなんて考えもしませんでしたが、トランプ氏が気付かせてくれたんです。彼がまた大統領に立候補してくれることを期待しています。これからも応援グッズの販売を続けていきます」

熱狂的支持者が集まる「トランプ・ハウス」で

ペンシルベニア州にある通称「トランプ・ハウス」を取材した際に出会った、パメラ・ジョーンズさん(54)。
星条旗カラーに塗られたこの施設では、トランプ氏への支持を表明するTシャツなどが無料で配られていて、全米から熱狂的な支持者が集まっていました。
ジョーンズさんは友人と一緒に、ケンタッキー州から車で7時間かけて訪れていました。
Q.バイデン大統領の就任をどう思っていますか?
ジョーンズさん
「就任演説は国民に結束を呼びかけるものだったので、最初はよいものだと思いました。しかし、バイデン大統領はその数時間後に、トランプ氏の政策をことごとく見直すさまざまな大統領令に署名して、アメリカ社会を完全に分断してしまいました。その1つがメキシコとの国境沿いの壁の建設を停止したことです。多くの不法移民が入ってくるかと思うと、とても怖いです。やはりトランプ氏への支持は変わりません」
Q.トランプ氏は、支持者を扇動したことが連邦議会への乱入事件につながったとして弾劾訴追されています。
ジョーンズさん
「トランプ氏は『議事堂まで行進しよう、自分たちの声を届けよう』と言っただけで、暴動を起こそうとしたわけではありません。そのように呼びかけることは暴力でもなんでもないです」
Q.バイデン大統領は国民に結束を呼びかけていますが、それは可能だと思いますか?
ジョーンズさん
「思いません。トランプ氏は『アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)』でしたが、バイデン氏は『アメリカ・ラスト(アメリカは後回し)』です。私の友達も皆、同じことを言っています。バイデン政権に希望はありません。私の願いはただ1つ、次の大統領選挙までこの国が生き延びてほしいということだけです。この国の行く末が心配です」

保守系インターネット番組の司会者は

元軍人で、保守系インターネット番組の司会者であるロバート・マネスさん(59)。トランプ氏を称賛したり、反トランプ派を批判したりする記事や番組を配信しています。
Q.トランプ氏の退任についてどう思いますか?
マネスさん
「私はそもそも彼が選挙で負けたとは思っていません。この選挙では、結果を左右する激戦州で、さまざまな間違いや不正がありました。そしてその証拠が裁判所で示されることはありませんでした」
Q.選挙の不正を訴えた議会への乱入事件についてはどう考えますか?
マネスさん
「私は、アンティファなど、背景や思想の異なる複数のグループによるものだと考えます。しかし、民主党やその支持者は、トランプ支持者を批判し、トランプ氏を弾劾しようとしています。バイデン大統領は国民の結束を訴えていますが、耳当たりのよいことばを言っているにすぎず、夢物語です」
Q.事件を受けてトランプ氏は「犯罪行為を助長するおそれがある」として、SNSのアカウントが停止されています。
マネスさん
「この措置はフェイスブックなどのSNSを管理するリベラル派の大企業による恣意的(しいてき)な判断です。私のような保守メディアの人間も声をあげづらくなっています。アメリカでは表現の自由が守られているはずなのに、大きな問題です」

トランプ氏支持を周りに言えない人は

トランプ氏を支持しているものの、そのことを周りの人に言えないでいる「隠れトランプ派」であるクリスタナさん(仮名・78歳、南部バージニア州在住)。本名や顔を出さないことを条件に話をしてくれました。
Q.トランプ氏について、どのような点を評価していますか?
クリスタナさん
「移民政策でメキシコとの国境を管理してくれた点です。不法移民は殺人や違法薬物の問題を持ち込みました。FOXニュース(保守系のケーブルテレビ)が報じています」
Q.なぜ「トランプ支持者である」と言わないのでしょうか?
クリスタナさん
「民主党の支持者が怖いからです。彼らは、同じ民主党支持者以外は理解できず、私がトランプ支持者だと察すると離れていきます。50年来の友人だった人もそうで、クリスマスカードやEメールすら返してくれなくなりました」
Q.どうしたらアメリカ社会の分断が解消されると思いますか?
クリスタナさん
「大手メディアがトランプ氏に関するうその情報を伝え続けたため、社会の分断は4年間でさらに悪化しました。人々が真実に耳を傾けないかぎり、この問題は解消しません。大手メディアやフェイスブックのような企業がリベラル派の意見だけを取り上げているかぎりは無理なのです」

トランプ氏への評価 事件後も…

大手調査会社「ユーガブ」などによりますと、トランプ氏の退任直前の支持率は42%。しかし支持政党別でみると、共和党支持者では85%。
連邦議会への乱入事件をめぐって弾劾訴追されたあとも非常に高く、民主党支持者との差は大きくかけ離れています。

専門家「トランプ支持者は『フィルターバブル』の中」

こうした状況について、アメリカ現代政治が専門の上智大学の前嶋和弘教授に聞きました。
Q.なぜ受け止め方がここまで大きく異なるのでしょうか?
前嶋教授
「人々は信じたいものを信じます。特にインターネットの世界がそうで、自分と同じ意見の人とはつながるが、異なる意見の人とは没交渉になっていく。『フィルターバブル』(自分の考えに近い情報だけに囲まれ、それを否定する情報に触れない状況)ということばがありますが、トランプ支持者はまさに『泡』の中にあって、左派の意見や大手メディアをそもそも拒否しています。自分が信じたいもの、もしくはトランプ氏を強く支持しているネットメディアなどの偏った情報にしか触れていないのです。『トランプ支持者が議会に乱入した』という出来事についても、支持者からすれば『(乱入が支持者によるものだと主張する人たちは)大手メディアにだまされている』ということになります。バイデン氏の評価についても大きく意見が分かれていて、民主党支持者と共和党支持者の間では議論さえできない状況です」
Q.今後、アメリカ社会の分断は、どのような方向に向かうのでしょうか?
前嶋教授
「分断は今がピークだと思います。『選挙の結果が信じられないから議会を襲撃に行く』という、一種のクーデターに近いところまで来てしまいました。バイデン政権の4年間でうまく分断のピークアウトができるかどうか。あるいはこの状態が続くのかどうか。いずれにせよ、火種はしばらく残ると思います」
国際部記者
近藤 由香利
2009年入局
盛岡局、大阪局、国際放送局を経て、国際部
担当は主に朝鮮半島とアメリカ
国際部記者
藤井 美沙紀
2009年入局
秋田局、金沢局、仙台局を経て、国際部
担当は主にアメリカ