動き始めた地銀再編~福井銀 福邦銀を子会社化へ~

動き始めた地銀再編~福井銀 福邦銀を子会社化へ~
政府や日銀が地銀の経営統合などを後押しする異例の措置を打ち出す中、菅政権が発足して初めて再編の動きが出てきた。1月、ともに福井県に営業基盤を置く「福井銀行」が「福邦銀行」と資本提携し、子会社化を目指す方針を発表。福井県内で貸出シェアのおよそ5割を占める金融グループが誕生することになった。コロナ禍で地域経済が疲弊する中、両行はなぜ再編に踏み切ったのか、舞台裏を追った。
(福井放送局記者 林秀雄 宗像正勇 / 経済部記者 白石明大)

大雪の影響が残る中での会見

福井銀行 林頭取
「地域経済の持続的発展への一層の貢献とこれまで以上の質の高いサービスを提供することを目指す」
福邦銀行 渡邉頭取
「福井銀行との関係を強化して、顧客サービスや地域の経済発展に貢献することが最終的な目的だ」
大規模な交通障害が発生した大雪の影響がまだ残る1月14日。資本提携の記者会見に臨んだ福井銀行と福邦銀行の頭取は、厳しい表情を崩すことなく地域経済への貢献のための提携だと強調した。会見が終わり、写真撮影に応じるため握手を交わした時、両頭取からようやく安どの笑みが漏れた。
両行が去年3月に包括業務提携を結んでから、およそ10か月。交渉は、薄氷を踏むような経過をたどるものだった。

北陸勢の攻勢で危機感強まる福井銀行

なぜ両行は、資本提携に踏み切る決断をしたのか。交渉の経過をたどる前に、まず2つの銀行が置かれている状況を見ておきたい。
福井市中心部に本店を構える福井銀行。120年余りの歴史を持ち、預金量や貸し出し残高は県内ではトップだ。100億円を投じ去年12月に完成したばかりの本店は、地域を代表する銀行としての存在感を放っている。

ただ、その福井銀行も安泰としていられない状況にある。長引く低金利や新型コロナウイルスの拡大による地域経済の落ち込みに加え、“県外地銀の攻勢”にさらされているからだ。
北陸の中でも福井県は、中部縦貫自動車道の全線開通や北陸新幹線の敦賀延伸といった交通インフラ整備が進む。関東へのアクセスがよくなれば設備投資や観光などの分野で資金需要の増加が期待されるため、県外の有力地銀が攻勢を強めているのだ。
その一つが北陸銀行だ。本店は富山市だが、そのルーツは福井県内にあった2つの民間銀行にある。今も福井銀行本店に程近い場所に「福井県でいちばん古い銀行」の看板を掲げており、福井県内の12.5%の企業が北陸銀行をメインバンクとしている。
そこに割って入っているのが石川県金沢市に本店を置く北國銀行だ。福井県内でも50年の歴史を持ち、去年11月には福井銀行本店の真横の敷地に新たな福井支店を移転させた。石川県内で圧倒的なシェアを誇り、得意のコンサルティングなどを武器に福井県内で取引先を開拓している。

公的資金の返済期限迫る福邦銀行

県外地銀の攻勢に押される状況は、同じく福井を営業基盤とする福邦銀行も同様だ。福井県内の企業がメインバンクとする銀行の比率は1位が福井銀行、2位が福井信用金庫、3位の北陸銀行に次いで福邦は4位、シェアは9%余りにとどまっている。
さらに平成21年3月に注入された60億円の公的資金の返済をどうするか、という問題にも直面していた。福邦銀行の財務状況の健全さを示す「自己資本比率」は去年9月末で8パーセントだが、これまでの利益余剰金65億円から公的資金を返済する必要がある。新型コロナウイルスで厳しい状況に直面する県内企業を資金面で支えるためには、経営基盤の強化はどうしても必要だった。

水面下の交渉

「地域の経済を支えるため、われわれ自身が強くならねばならない」

危機感を共有した両行が去年3月から推し進めたのが包括業務提携、名付けて「Fプロジェクト」だった。
重複する支店の集約や店舗の共同化、ATMの統合、それにシステムの共通化などを通して5年間で40億円の効率化を目指し、この半年間ですでに12億円余りの成果を上げた。

さらに一歩踏み込んで、福邦銀行の公的資金返済を前提にどのような形で関係を強化し、経営統合にまで踏み込むか、水面下での交渉が続けられた。

関係者によると、統合には持ち株会社を作って、その下に2つの銀行をぶら下げる方法や合併など、いくつかの選択肢があったという。しかし2行の間には歴然とした規模の差があり、いくら対等な関係をアピールしても、やはり福井銀行が福邦銀行を「飲み込む」形になってしまうのではないかという懸念が消えなかった。

2つのブランドを残す

福井の銀行は、どうなるのか。取材を通じて、地元の企業関係者などから噂話や憶測が広がり、不安の声も聞いた。
「これまでつきあってきた福邦の人たちは、福銀の行員になってしまうらしい」

「長年のつきあいなんかなくなっちゃうんじゃないのか。融資も止まるんじゃないか」
こうした声は現場の行員たちのもとにも届いていたという。これまで中小企業を中心に、世代を超えて信頼を築いてきた福邦銀行は、顧客の信頼を失うまいと「福邦ブランド」を残す形の経営統合に強くこだわったのだ。

取材の終盤、福邦銀行のある幹部は、取材にこう答えた。
福邦銀行 幹部
「今、コロナ禍の中でつなぎ資金や融資がなければ、倒産・廃業してしまいかねない中小企業はたくさんある。長年この地でお世話になってきた地方銀行は今、ここでどうお役に立てるかという正念場にある。ただ銀行マンの損得勘定だけで決めてよい話ではない。長くおつきあいいただいてきた福井の人たちが見ていますから、納得・安心していただく形をお示しすることがいちばん大事なことなんです」

難航した利害関係者の調整

交渉では、福井銀行が福邦銀行の意をくむ形で、両行のブランドを維持した経営統合に向けた協議が進められたが、もう一つ、乗り越えなければならない問題があった。福邦銀行の大株主で創業家の理解をどう得るかだ。

金融庁の関係者によると、福邦銀行は大株主である創業家の影響が今も強く残る地銀で、地元には創業家とつながりが深い企業もあり、福邦のブランドを残す形での経営統合は、創業家の理解を得る上でも必須だったという。

福邦銀行も創業家の理解を得るために、「買収」や「救済」といったことばを使わずに丁寧に地ならしを進めていった。

その結果、関係者によると、去年9月ごろでには福井・福邦の2ブランド制を維持した経営統合の方向性が見えてきたという。

そして包括業務提携からおよそ10か月たった1月14日。福井銀行と福邦銀行で開かれた取締役会で、資本提携することを決議。福井が福邦の株式の過半数を取得して子会社化することを念頭に今後協議をさらに進めることが決まった。

地元の期待

この決定に地元の経済界からは好意的な反応や期待の声が相次いだ。
福井商工会議所 伊東忠昭会頭(福井銀行 前頭取)
「これまで以上に効率化を進めしっかりした基盤を作ることが大切で、両行が1つのグループを目指すことでサービス強化や地域金融の安定化につながり、資金供給がより安定的になる」
福井経済同友会 江守康昌代表幹事(化学メーカー「日華化学」社長)
「地銀は今アゲインストの風を受けているが、2行が一体した経営になることで福井全体が1チームになって盛り上げていくことになる。英断に敬意を表したい」

地方銀行の役割とは

地銀再編は必ずしも銀行そのもの数を減らすことが重要ではなく、地域経済の活性化や持続性を高める上で、その地域に最適な地域金融にすることが何よりも重要だ。

銀行の生き残りだけを考えた統合は、規模が大きくなったとしても、激しい競争の中で顧客は徐々に離れてしまう。

コロナ禍で地銀は果たす役割は何か。取材での問いかけに、福邦銀行の幹部は次のように話した。
福邦銀行 幹部
「新型コロナの影響で地方経済は本当に厳しい状態にある。大手銀行は中小企業に厳しいが、私たちは家族経営の企業さんなど小さな会社と長年つきあい、会社の中にまで入り込んで手助けをしてきた。新型コロナが広がる中では経営・融資相談だけでなく、お年寄りが多い経営者さんにコロナの症状や感染予防の方法を伝えて回ったりもした。政府や経済の動向、公的な補助金や助成金の内容などもわかりやすくご説明し、まさに『御用聞き』となって働いてきた。こういう地域密着で顔の見える顧客との関係がわれわれの強みなんです」
福井銀行と福邦銀行が一つのグループになることで、貸し出しシェアは福井県内で過半数を超えることになる。この効果をいかに地元企業に還元し、コロナで苦しむ人たちをサポートできるかが、今回の再編の成否を左右するはずだ。
福井放送局記者
林 秀雄
平成3年入局
大津局、大阪局、
テレビニュース部など経て
名古屋局豊橋支局から
去年 福井局に
遊軍・経済などを担当
福井放送局記者
宗像 正勇
平成19年入局
社会部警視庁担当を経て
平成30年から福井局
10年以上事件取材担当だったが 福井では政治経済 文化など幅広く取材
経済部記者
白石 明大
平成27年入局
松江局を経て
令和元年から経済部
現在金融機関の取材を担当