“新型コロナ”に警鐘 李医師死去から1年 中国国内では…

新型コロナウイルスの感染拡大をめぐって、中国政府の発表前からいち早く警鐘を鳴らしていた武漢の医師、李文亮氏が亡くなってから7日で1年です。
中国国内のこれまでの動きをまとめました。

李氏の死 当時の中国社会に大きな波紋

中国当局による厳しい情報統制にもかかわらず、未知の感染症にいち早く警鐘を鳴らしていた李文亮氏の死は、当時、中国社会に大きな波紋を広げました。

李氏は、当局の発表前のおととしの12月30日、複数のウイルス性肺炎の患者が出ていることをSNSのグループチャットに投稿したことが問題視され「デマを流した」などとして警察から訓戒処分を受けました。

李氏はその後、患者の治療にあたる中でみずからも感染し、当局の圧力にさらされながらも、当時、感染が広がるリスクは低いとしていた当局の発表に対し、疑問を呈していました。

その後、李氏が亡くなると、中国国内のネット上では当局の情報の隠蔽や初期対応の遅れを批判する声が広がり、中国当局は世論の反発を受けて李氏の処分を撤回し、国が授与する最高級の栄誉とされる「烈士」に認定しました。

一方で、中国政府は「李氏は共産党員で反体制派の人物ではない」と強調し、批判の矛先が習近平指導部に向かうことを強くけん制してきました。

中国当局 追悼の動きの広がりに警戒か

李文亮氏が勤務していた病院では1年前に李氏が亡くなった際には多くの市民が訪れて花が手向けられましたが、ことしは最近になって、入り口の前に高さ1.5メートルほどのフェンスが設置され、7日は複数の警備員が警戒に当たっていました。
それでも病院の敷地内の入り口から離れた場所には、李氏を追悼するために花が手向けられていて「今もあなたのことを忘れていません」などというメッセージが添えられていました。

また、李氏の墓がある武漢市内の墓地周辺では当局の関係者とみられる多くの人が警戒に当たっていて、NHKの取材班が7日午後、現地を訪れると、感染対策を理由に墓地への立ち入りは認められませんでした。

中国当局としては、李氏の命日に合わせて追悼の動きが広がり、当時の対応をめぐって政府への批判が再び高まらないように神経をとがらせているものとみられます。

武漢では多くの市民が李氏に敬意

武漢では今も多くの人たちが李文亮氏に敬意を抱いています。

このうち、26歳の女性は「李氏は武漢の人々の精神を体現する英雄です。今もみんなの心の中には彼がいて、忘れることなどありません」と話していました。

また、16歳の男性は「李氏のことを今もしのび、彼に武漢に戻ってきてほしいです。ごく普通の人ですが偉大な人物です」と話していました。

一方、李氏が亡くなったあと、勤務先の病院の前に花束をささげたという男性は「李氏は真実を話したのにデマを流したと言われ、みずからもウイルスに感染して亡くなりました。当時、涙があふれるような思いと強い憤りを感じていました。今でも心の中で李氏をしのんでいます」と話していました。

武漢在住の作家「言論の自由が不可欠」

李文亮氏が亡くなったあと、感染の拡大は中国政府の言論統制が招いた「人災」だと批判する文書がインターネット上で公開され、改革派の知識人など500人以上が署名しました。

この文書に署名した武漢在住の作家、艾暁明氏がNHKの取材に応じ、悲劇を繰り返さないためには言論の自由が不可欠だと訴えました。

艾氏は、李氏が「健全な社会は1つの声だけであってはならない」と指摘していたことに触れ「李氏の悲劇は言論を封殺してはいけないということを教えてくれた。政府を褒めたたえることしかできず、真実を話せば責任を追及され処罰を受けるのであれば、社会に活力など生まれない」と話していました。

そのうえで「中国では災難が幾度となく起きているが、かえりみられることはほとんどない。なぜ李氏が犠牲となり、多くの人たちが肉親を失わなければならなかったのか、どうすれば悲劇を避けられたのか、李氏が亡くなって1年となる今こそ考えるべきことだ」と話していました。

艾さんの父親は、感染が確認されなかったものの高熱を訴え、去年2月、医療崩壊が起きていた武漢で、十分な治療を受けられないまま自宅で亡くなったということです。
艾さんは、李氏を追悼しその勇気をたたえるため「文亮、永遠なれ、言論の自由を」などとつづった自作の詩を今も大切に保管していて「誰もが李氏のことを忘れることはないし、武漢が経験した痛みや苦しみを忘れることもない」と話していました。

SNSの李氏のアカウントに多くのメッセージ

中国のSNS「ウェイボー」の李文亮氏のアカウントには、亡くなってから1年がたった今も多くのメッセージが寄せられています。

李氏は、亡くなる1週間ほど前の最後の投稿で、みずからも感染したことを明らかにしましたが、この投稿にはろうそくの絵文字を添えて追悼する書き込みが今も続いていて、その数は100万を超えています。

この中には「この1年間、あなたを忘れたことはありません」とか「もし私があなただったら、あのときどうしていたかといつも考えています。あなたの勇気に頭が下がる思いです」などと、李氏をしのび、その勇気をたたえる投稿が多く見られます。

また、「デマを流した」として訓戒処分を受けた経緯を説明した投稿には「言論によって罪を負わされる人がいなくなってこそ、この世界は少しずつよくなっていける」などと、当局の言論統制を批判する書き込みも見られます。