“精神的不調”ラグビートップリーグ選手 調査で4割余りに上る

国内のラグビーのトップリーグの選手のうち、心理的なストレスなど何らかの精神的な不調を抱える選手が40%余りに上ったことが、去年1月にかけて国の研究機関などが行ったアンケートで分かりました。調査をした専門家は、「アスリートは屈強な精神を持っていると思われがちだが、認識を改めて一般の人と同様に支援する必要がある」としています。

国立精神・神経医療研究センターや日本ラグビーフットボール選手会などは、トップリーグの選手600人を対象に去年1月までの2か月間、インターネットで匿名のアンケートを行い、251人から回答を得ました。

それによりますと、過去1か月間に心理的なストレスを抱えていたという選手は32.3%でした。

また、うつや不安障害の疑いがあった選手は4.8%、社会生活に支障が出るほどの重い症状が疑われる状態だった選手が5.2%いたということです。

こうした精神的な不調を抱えた選手は合わせて42%余りで、一般の成人を10ポイント余り上回ったということです。

これらの選手には、食欲や体重の変化などに加えて、睡眠の問題や飲酒のトラブルが見られたほか、出場機会がないことや競技力が低下したことに悩んだり、引退後の生活について考えたりする人が目立ったということです。

また、中には「人生を終わらせようと考えている」と回答した選手もいて、割合は7.6%と一般の成人とほぼ同じ水準だったということです。

調査を行った国立精神・神経医療研究センターの小塩靖祟研究員は、「ラグビー以外の選手も同様の精神状態に置かれている可能性がある」としたうえで、「今は新型コロナウイルスの感染拡大で精神的な負担がかかりやすく状況がさらに深刻化している可能性がある。アスリートは一般の人より屈強な精神を持っていると思われがちだが、認識を改めてチームや身近な人が精神面で支える必要がある」と指摘しています。

タブー視されてきたアスリートのメンタルヘルス

今回の調査をした国立精神・神経医療研究センターの小塩靖祟研究員は、「アスリートであっても一般の人と同じくらいメンタルヘルス上の課題を経験している可能性がある」と指摘しています。

そのうえで「アスリートは強じんな精神力を備えていると思われがちで、本人やスポーツ界全体もそう考えている可能性がある。これまでアスリートのメンタルヘルスはタブー視されて明らかにされてこなかったが、ラグビー以外の競技についても実態を把握する必要がある」としています。

さらに、調査のあと、新型コロナウイルスの感染が拡大したことに関連し、「オリンピックの開催などをめぐる動きでアスリートの精神面にも影響が出ている可能性があり、さらなる調査が求められる。支援が必要な人に対しては、チームメイトや家族など身近な人がサポートできる関係をつくり、悩みを聞くことが必要だ」と指摘しています。

選手会と異例の共同研究 国内では初の調査

国立精神・神経医療研究センターによりますと、欧米やオーストラリアではアスリートのメンタルヘルスについて研究や調査が進められていますが、日本で行われたのは初めてだということです。

アスリートのメンタルヘルスをめぐっては、IOC=国際オリンピック委員会からも複数の声明が出ていて、アスリートの精神的な不調は珍しくないことや、競技パフォーマンスにも影響すること、体の不調と同じように早期の発見と適切な対処が大切なこと、回復が可能なこと、支援策の整備が急務なことなどが指摘されているということです。

こうした中、国内のラグビートップリーグの選手などで作る「日本ラグビーフットボール選手会」が動きました。

おととし、国立精神・神経医療研究センターと協力して実態調査に乗り出したのです。

選手会がインターネットで会員に匿名でアンケートを行い、センターが分析することで異例の共同研究が実現しました。

選手会は「周囲からの期待や理想像とのはざまで悩んでいるアスリートは少なくない。身も心も崩れてはいけないというプレッシャーこそが、アスリートの心に不調をもたらす可能性もある。今回の調査結果を公開することで、ラグビー選手だけでなく、トップカテゴリーで活躍しているアスリートも『1人の人間』として心のケアを必要としていることに加え、積極的なケアを通してパフォーマンスを向上させていくことが望ましいという考え方を世の中に広めていきたい」などとコメントしています。