新年度 教育“ICT元年”へ 新たな学びへの模索始まる

コロナ禍で遠隔授業が十分に行えないなど、日本の学校現場のICT活用の課題が浮き彫りになった中、国は全国の小中学生への1人1台の端末整備を今年度中に完了させる予定です。教室の風景が様変わりし、新年度は教育の「ICT元年」になると言われる中、教育の内容や指導の在り方など新たな学びへの模索が始まっています。

教育現場のICT活用をめぐって、国は、当初2023年度までの実施を予定していた、小中学生1人1台の端末配備を今年度中に前倒しして進めるため4610億円を計上し、3月末までに完了する見通しです。

背景には、世界で情報化が急速に進む中、日本の学校現場のICT環境のぜい弱さや地域格差が課題になっていることや、個々の子どもたちの理解度や背景にあわせた指導が求められていること、さらに、感染拡大による一斉休校の際に全国的にオンライン授業が十分できなかったことなどが挙げられています。

こうした中、新しい時代を見据えた学校教育の在り方を検討してきた文部科学省の中央教育審議会が先月まとめた答申でも、すべての子どもたちの可能性を引き出すための、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現には、ICTは必要不可欠で、子どもたち自身がICTを「文房具」として自由な発想で活用できる環境整備が重要だとしています。

そのうえで、教員自身が必要な能力を身につけるため、効果的に活用した指導のノウハウをもとに教員養成モデルを構築し、現職教員に対する国によるコンテンツの提供や都道府県による研修の充実が急務だとしています。

一方で、ICTの活用自体が目的化しないよう注意が必要だとしていて、これまで培ってきた指導とICTを適切に組み合わせていくことが重要だとしています。

教育現場のICT活用の現状

教育現場で急速に進められるICT環境の整備。背景には国際的にも遅れている日本の現状への危機感があります。

OECD=経済協力開発機構が2018年に行った調査で、15歳の生徒が学校の授業で1週間にデジタル機器をどのくらい利用しているか聞いたところ、日本は「利用しない」と答えた生徒の割合が、数学で89%、国語で83%と、いずれも参加した79の国と地域で最低となっています。

また、コンピューターを使って宿題をするか尋ねたところ、
▽「毎日」から「月に1、2回」までを合わせた回答の割合は、OECD平均は66%でしたが、日本は15%と大きく下回り、
▽「まったくか、ほとんどない」と答えた割合は79%と、学校外での学習への活用も79の国と地域で最低となっています。

こうした中、新型コロナウイルスの影響で全国的に一斉休校となった去年4月から6月の間に、双方向でオンライン授業を実施した公立学校があると答えた教育委員会などは全体の15%にとどまり、日本の教育現場におけるICT活用の課題が浮き彫りとなりました。

視察相次ぐ 岡山県の高校では

全国の小中学校で1人1台端末が配備される中、先進的に取り組んできた岡山県の高校には県内外の小中学校などから視察が相次いでいます。

岡山県美作市の林野高校は4年前、IT大手「グーグル」の実証実験の一環でICT端末を導入したことをきっかけに、その後、生徒が1台ずつノートパソコン型の端末を購入して授業などに取り入れることになりました。
しかし当初は、生徒も教諭も扱いに慣れておらず、1台およそ6万円の端末を購入することに疑問の声も多かったということです。

そこで、学校ではプロジェクトチームを立ち上げ、まずは教える側が端末を使いこなせるようにと職員会議などで活用し、習熟度を高めてきました。

国語を担当する女性教諭は「機械を使うのが苦手なので最初は恐る恐るという感じでした。ふだんから使って慣れてくると安心感が出てきて授業でも自信を持って使えるようになりました」と話していました。

さらに研修を重ねたことで、すべての教員が端末を利用した授業を行えるようになって活用の幅が広がり、全国から注目を集めるまでになりました。

その特徴は、“教室は2つある”というコンセプトです。

1つめの教室は、学校での授業です。
今月行われた2年生の化学の授業では、生徒が実験の結果を班ごとに専用のアプリに入力するとほかの班の結果も直ちに表示され、なぜデータに差が出たのかといった議論が生まれていました。

端末を導入する前は、個別に実験を進め、時間があれば結果を発表する形でこうした議論の時間は取れなかったといいます。
さらに授業を担当した教諭も端末の画面を見ながら各班の進み具合を確認し、遅れている班の生徒に声をかけるなどフォローアップに生かしていました。

学校のICT化を中心になって進めてきた瀬田幸一郎教諭は「生徒どうしや教諭との対話によって、1人では浮かばなかった新たな考えに出会うことができるところが端末を使うよさだと思います」と話していました。
もう1つの“教室”は生徒の自宅です。

端末をインターネットに接続し、専用のアプリから学校が用意した復習用の課題に取り組んでいるのです。

問題と一緒に解答につながるサイトのURLも表示され、生徒はこれらを参照したり、自分でネットを検索したりして情報を集めながら、解答を導き出していました。

さらに端末には教諭が事前に収録した解説用の動画もアップされ、いつでも見ることができます。

自宅にいても主体的に学ぶ機会を作ることが、2つめの“教室”のねらいです。

2年生の廣戸知輝さんは「端末1台で予習復習がすべて行えるのでとても便利でやる気が出ます。家で勉強する機会が増えました」と話していました。

導入から4年がたち、高校では感染対策の検温のために独自のシステムを作成するなど、活用方法をさらに広げています。

こうした先進的な取り組みを参考にしようと、今年度、高校には端末の導入を控えた県内外の小中学校などから前の年度の10倍に当たる200人以上が視察に訪れたということです。

瀬田教諭は、最初はどの学校でも抵抗感があるのは当然としたうえで、「使ってみないとICT端末のよさは分からないと思うので、授業やホームルーム、そして部活動などさまざまな場面でまずは使ってみてほしい。従来の教室と端末上の教室を使い分け、それぞれのメリット・デメリットを把握し効果的な活用につなげることが必要だと思う」と話していました。

専門家「指導も変化 子どもたちを応援を」

ICT教育に詳しい東北大学大学院の堀田龍也教授は、日本の現状について「OECD諸国と比べても日本は学校や宿題におけるICTの活用が最下位にある。私学に比べたら公立は低く、大都市圏と地方の比較でも格差が出ていた。休校でオンライン学習ができなかったことも、世の中的にインパクトが大きく保護者は落胆したと思う」と話しました。

端末が配られる中で求められることとして、「自転車のように、ある時期に集中的に取り組むことで基礎的なスキルを身につけられるので、しばらくは学校ぐるみで試行錯誤を続ける期間が必要かと思う。より本質的には、ICT端末は手段で、目的はこれからの時代に必要な学力を身につけることにある。みずから情報をみつけ、精査し、友達と共有しながら新たな疑問を持つための道具にできるよう、教員は腐心するべきだ」と指摘しています。

そのうえで、「学びに向かう力がある子は多くの情報を得て知的好奇心が満たされるが、その力がなければ端末は置きっぱなしになる。1人1台配備されることで格差が是正される面と広がる面があると思うので、学校では、授業の在り方や、学びに向かう力を身につけさせる努力が重要になる。どんな仕事でもICTを使えなければ立ちゆかなくなる時代を生きていく人を育てる中で指導も変わっていくが、教員も保護者も気持ちを切り替え、未来を支える子どもたちを応援してもらいたい」と話しています。