神奈川県 新型コロナ 厚木の民間病院が新たに患者受け入れへ

新型コロナウイルスの感染拡大で病床のひっ迫が続く神奈川県で、厚木市の民間病院が県の要請に応じ、新たに患者の受け入れを始めることになりました。

神奈川県内では感染者が急増した先月、すぐに使うことができる病床の使用率が90%を超える日が続き、4日の時点でもおよそ77%となっています。

こうした中、厚木市にある民間病院の仁厚会病院は、これまで新型コロナの患者を受け入れていませんでしたが、県の要請に応じて専用の病床を10床設置し、今週、受け入れ態勢を整えました。

病院では5階にある外科などの入院患者の病床を減らして、新型コロナの患者専用のスペースをつくっていて、主に中等症の患者を受け入れることにしています。

4日、医師や看護師たちは、基礎疾患の有無や血液中の酸素の値など患者が運ばれてきた際にチェックする内容を改めて確認し、受け入れに備えていました。

仁厚会病院の前田清貴理事長は「何とか受け入れ態勢ができ、1人でも新型コロナの患者が不幸な結果にならないよう、頑張っていける環境が整った。中小病院も含め、地域全体で患者に対応していくことが、医療崩壊を防ぐことにつながると思う」と話していました。

患者の受け入れ決めた背景

仁厚会病院が新型コロナ患者の受け入れを決めた背景には、病床のひっ迫を実感するある出来事がありました。

病院では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、去年5月から発熱外来を設置しています。

こうした中、去年12月に発熱外来を訪れ、抗原検査を受けた70代の男性が陽性であることが分かり、保健所を通じて入院先を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。

病院では感染を防ぐため、男性を院内に入れることができず、地下の駐車場でおよそ8時間にわたって待機してもらわざるをえませんでした。

男性は、待機している間に体調が悪化することはありませんでしたが、このことがきっかけとなり、病院として新型コロナ患者の受け入れを決めたということです。

病院では、先月26日に医師や看護師などおよそ30人を集め、理事長が患者の受け入れを始めることを伝えました。

仁厚会病院の前田清貴理事長は「肺炎の疑いもあり、急変もありうる患者さんだったが受け入れ先が見つからず、とてももどかしかった。今後も入院先を探しきれないことを考えると、自分たちの病院でも受け入れを行わざるをえない状況だと思うようになった」と話していました。

【準備1】専門病床の設置

新たに患者を受け入れるに当たって仁厚会病院では、さまざまな準備を進めてきました。

その一つが病床の設置です。

病院では、5階にある外科などの入院患者のエリアに新たに新型コロナ患者専用の病床を10床設置することにしました。

このため、先月下旬から先に入院していた患者を別の階に移動させたり、病院の関連施設に移ってもらったりして、場所を確保しました。

それと並行して行われたのが、感染リスクが高いエリアと比較的安全なエリアを区分けする「ゾーニング」です。

先月27日から臨床検査技師などが、木材やプラスチック板などを使って仕切りの壁を自分たちで作って設置しました。

慣れない作業でしたが、看護師などと話し合いながら、ベッドを移動させるうえで支障がないかなど細かい点を確認して受け入れの準備を進めていました。

設置を行った泉谷明検査科長は「仕切りを一つ一つ手作りして、ゾーニングしています。中小規模の病院なので棟りょうのような役目まで果たさなければならず、とても大変です」と話していました。

高原好子看護科長は「受け入れまで時間がなく、病院総出で対応しています。ゾーニングは、スタッフや入院患者を危険にさらさないために必要で妥協はできません」と話していました。

【準備2】医療スタッフの確保

患者の治療を円滑に行えるよう事前に医療スタッフを確保する必要もあります。

新型コロナ専用の病床には、患者の急変などさまざまな状況に対応できるスキルを持ったスタッフが必要で、仁厚会病院ではまず10人の看護師を専従の看護師として確保しました。

しかし専従のスタッフが何らかの理由で出勤できなくなる事態も考えると、さらにバックアップ要員が必要です。

先月26日には、管理職の職員が経験豊かな非常勤の看護師にも面接を行って協力を求めました。

病院によりますと、看護師には高齢の親と同居中の人や子育て中の人も多いことから、家族と相談したうえで協力してもらえないか意向を確認した結果、何とか必要な人数は確保できているということです。

面接した60代の看護師の女性は「自分が感染しないと100%言い切れないので、怖さはありますが、仲間が大変な状況なので人手が足りないときは、協力すると答えました」と話していました。

高原好子看護科長は「協力してくれる看護師が、1か月後には『もう嫌です』と言うかもしれないという不安が大きいです。ギリギリで何とかなる状況なので、助け合いながらやっていきたい」と話していました。

【準備3】研修で感染対策徹底

受け入れ準備の中には、スタッフに対する感染防止策の研修もあります。

仁厚会病院では先月27日と28日、新型コロナの患者に対応する可能性がある医師や看護師など50人余りを集め、感染を防ぐうえで気をつけるポイントについて研修を行いました。

講師を務めた看護科長が何度も強調していたのが、防護服の脱ぎ方です。

患者に対応したあとは、防護服の表面にウイルスが付いている可能性があることから、素手で表面を触らずに脱ぐことができるよう何度も着脱の訓練を行い、基本を徹底することが自分や患者を守ることにつながると呼びかけていました。

研修を受けた60代の看護師の女性は「防護服をどう脱げばいいのかを理解できたので、練習をしてできるようにしたいと思います。研修を通して、コロナの病棟でやっていくという覚悟が前よりも具体的にイメージできました」と話していました。

また、30代の看護師の女性は「自宅で苦しんだまま1人で亡くなる人がいる現状をどうしても見過ごせないので、不安もあるし、いつもより緊張する仕事になりますが、頑張りたいと思います」と話していました。