米 バイデン大統領「最も重大な競争相手」中国に対抗姿勢強調

アメリカのバイデン大統領は外交方針について演説し、中国を「最も重大な競争相手」と位置づけたうえで、「アメリカの繁栄や民主的な価値観への挑戦に直接、対処する」として、経済、安全保障、人権、知的財産などの分野で対抗していく姿勢を強調しました。

バイデン大統領は4日、包括的な外交方針について国務省で初めて演説しました。

演説ではまず「アメリカに肩を並べようとする中国の野心や民主主義を傷つけようとするロシアの決意といった権威主義の増長に向き合わなければならない」と述べました。

そのうえで中国を「最も重大な競争相手」と呼び、「アメリカの繁栄や安全保障、民主的な価値観への挑戦に直接、対処する」と述べ、具体的に「経済の悪用と攻撃的で威圧的な行動、人権と知的財産、グローバル・ガバナンスへの攻撃」を挙げて、これらの分野で中国に対抗していく姿勢を強調しました。

一方で「アメリカの国益に利する場合は中国政府と協力していく用意はある」とも述べ、新型コロナウイルスや気候変動、核拡散といった世界的な課題への対応を念頭に、中国との協力も探る考えを示しました。

また演説では、各国との同盟を「アメリカの最もすばらしい財産だ」としたうえで、日本をヨーロッパなどの同盟国や韓国、オーストラリアとともに「最も関係の深い友好国」と呼び、改めて連携を強化していく方針を強調しました。

さらにバイデン大統領は、外交政策ではアメリカの中産階級の利益を踏まえると強調し、貿易面では国内の雇用や産業の保護を重視する考えを示しました。

バイデン大統領 外交演説の要旨

【同盟関係】
「アメリカは戻ってきた。対外政策の中心に外交が戻ってきた」としたうえで、同盟国との関係を修復し再び国際社会に関与するとしました。

そのうえで「権威主義を進め、アメリカに肩を並べようとする野心を持った中国や、アメリカの民主主義を妨害し傷つけようとするロシアに向き合わなければならない」と述べました。

日本をヨーロッパの同盟国や韓国、オーストラリアなどとともに「最も関係の深い友好国」と呼び、改めて連携を強化していくと述べました。

新型コロナウイルスや気候変動、核拡散など地球規模の課題についても、各国が協力することによってのみ解決できるとしました。

【中国】
「最も重大な競争相手」としたうえで、「アメリカの繁栄や安全保障、民主的な価値観への挑戦に直接対処する」と述べました。

「経済の悪用と攻撃的で威圧的な行動、人権と知的財産、グローバル・ガバナンスへの攻撃」に対抗していくとしました。

一方で、「アメリカの国益にかなうのであれば中国政府と協力していく用意はある」とも述べました。

【ロシア】
米ロ両国の核軍縮条約「新START」の5年間延長に合意したことについて「国益のためには、敵対する相手や競争相手にも関与しなければならない」としました。

一方で、選挙への介入やサイバー攻撃、ロシア国民への毒による攻撃などは許さないと、プーチン大統領に電話で伝えたとしたうえで「前任者とは全く異なるやり方」だとしました。

野党勢力の指導者のナワリヌイ氏の収監は、政治的な動機によるもので、アメリカや国際社会にとって深い懸念となっているとして、無条件での即時釈放を求めました。

【米軍展開政策】
世界に展開するアメリカ軍の態勢を見直す方針を表明しました。

ドイツに駐留するアメリカ軍の削減計画も当面は停止するとしました。

(アジア太平洋地域に駐留するアメリカ軍については直接言及せず)。

【イエメン政策】
中東のイエメンで続く内戦を「終わらせなければならない」としました。

サウジアラビアが主導する軍事作戦への支援を停止すると表明。

イエメン問題を扱う特使の任命を明らかにし、国連と連携して内戦の終結を目指す考えを示しました。

【労働者を意識した外交】
外交を進めるに当たって、「アメリカの労働者家庭のことを常に頭においておかなければらならない」と述べ「中産階級のための外交政策」を掲げました。

【ミャンマー】
クーデターを起こした軍に、掌握した権力を放棄し、拘束した人々を解放するよう求めたうえで、各国と連携して民主主義の回復を支援するとともに関係者の責任を問うとしました。

中国「協力すべき分野多い」

アメリカのバイデン大統領の外交方針の演説について、中国外務省の汪文斌報道官は、5日の記者会見で「両国には意見の違いが存在するが、共通の利益のほうがはるかに大きい。新型コロナウイルスや気候変動などの世界的な挑戦を前に、両国が協力しなければならない分野は少なくなることはなく、さらに多くなっている」と指摘しました。

そのうえで、「アメリカには、両国民の民意と時代の潮流にしたがい、中国を客観的かつ理性的にとらえ、建設的な対中政策をとるよう望む」と述べました。

一方で、「中国はアメリカと衝突や対抗はせず、互いに尊重し協力する関係を発展させることに力を入れるが、同時に、国家の主権や安全、発展の利益は断固として守る」と述べ、主権などに関わる問題では一歩も譲らない立場を強調しました。

中国のアメリカへの姿勢をめぐっては、今月1日、外交を統括する楊潔※チ政治局委員がオンラインのイベントで演説し、トランプ前政権の対中国政策について、「誤った政策を採用した」と批判していました。

そのうえで楊氏は、バイデン政権に対しては、新疆ウイグル自治区などの問題で干渉すれば、米中の協力にも影響を及ぼすおそれがあるとけん制する一方で、「関係を予測可能で建設的な発展の軌道に戻すことが中国とアメリカ双方の仕事だ」と述べ、関係改善に向けた取り組みを呼びかけていました。

※「チ」は、竹かんむりに褫のつくり。

中国に対するバイデン政権の動き

バイデン政権は外交、安全保障、貿易、人権などの分野で中国の行動を批判するとともに、厳しく対応していく姿勢を示しています。

バイデン大統領は、就任式に台湾当局の代表機関「駐米台北経済文化代表処」の蕭美琴代表を招待し、台湾側は大使に当たる代表が正式な招待を受けて就任式に出席するのは1979年にアメリカとの外交関係がなくなって以来初めてだとして歓迎しました。

また、政権発足から3日後の先月23日には、アメリカ国務省が台湾に関する声明を発表し、中国に対して「台湾への軍事、外交、経済による圧力を停止し、民主的に選ばれた台湾の代表者との対話を進める」ことを強く求めました。

また、ブリンケン国務長官は先月27日の会見で、中国の新疆ウイグル自治区での少数民族政策を、民族などの集団に破壊する意図を持って危害を加えるいわゆるジェノサイドだとしたトランプ前政権の認定に同意する認識を改めて表明しました。

バイデン大統領は、ヨーロッパの同盟国やオーストラリアの首脳との電話会談で、多くの課題とともに中国への対応を協議していて、先月28日の菅総理大臣との電話会談では沖縄県の尖閣諸島がアメリカによる防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることを明確にしています。

軍事面では、オースティン国防長官が就任前の議会の公聴会で中国への対応が最も重要な懸案だとしていて、4日には政権発足後初めてアメリカ軍海軍の駆逐艦が台湾海峡を通過したと発表しました。

ホワイトハウスで安全保障問題を担当するサリバン大統領補佐官は4日、バイデン大統領の外交演説を前にした会見で「中国の不公正な貿易慣行がアメリカの雇用に害を与えている」と述べ、知的財産権の侵害や特定の産業への補助金の問題などで中国に対応を迫る考えを示しています。

これに対し、中国の外交を統括する楊潔※チ政治局委員は、今月1日、アメリカの団体が主催したオンラインのイベントで演説し、バイデン政権に対して「関係を予測可能で建設的な発展の軌道に戻すことが中国とアメリカ双方の仕事だ。中国にはアメリカと協力する用意がある」と述べる一方、「アメリカは香港、チベット、新疆ウイグル自治区のことで干渉をやめるべきだ。これらは越えてはならないレッドラインであり、越えればアメリカの利益を損なう」と述べて、新疆ウイグル自治区などの問題で干渉すれば米中の協力にも影響を及ぼすとけん制しています。

※「チ」は、竹かんむりに褫のつくり。

アジア政策のキーマン その戦略は

バイデン政権の対中国、アジア政策の鍵を握る一人がホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議に新設されたインド太平洋調整官のカート・キャンベル氏です。

キャンベル氏は、クリントン政権で国防次官補代理として沖縄の普天間基地の移設問題に関わり、オバマ政権では国務次官補としてアジアを重視する政策を担いました。

バイデン政権もアジア重視の姿勢を示していて、インド太平洋調整官のポストの新設とキャンベル氏の起用で、同盟国や友好国と協力して対中国政策を推進する柱としたいねらいとみられます。

そのキャンベル氏は政権発足直前の先月12日、外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に「アジアの秩序の立て直しにアメリカは何をすべきか」と題した論文を寄稿しました。

この中でキャンベル氏は、アメリカがインド太平洋地域で直面する課題として、中国の経済的、軍事的な台頭とトランプ前大統領の政策による同盟関係の弱体化、人権問題への対応などをあげています。

そのうえで、アメリカが取るべき3つの戦略を提示しています。

まず軍事面で、力の均衡を修復して中国軍に対抗するため、無人の攻撃機や潜水艇などの開発を進めるとともに、アメリカ軍を日本や韓国に加えて東南アジアやインド洋にも分散して配備する重要性を訴えたうえで、アジア太平洋地域の国々が軍事や情報面で連携するよう促すべきだとしています。

次に、この地域の各国が認める国際的な枠組みを再構築するため、アメリカとして中国の前向きな関与を引き出すとともに、中国が秩序を乱す行動に出た場合に罰する方法を関係国と一緒に考案する必要があるとしています。

そして、アジア太平洋地域だけでなくヨーロッパ諸国を含むより広い連携を目指すべきだとして、貿易や技術面などではイギリス政府が提唱するG7=主要7か国にインド、オーストラリア、韓国を加えたD10と呼ばれる10の民主主義国家の枠組みを活用するほか、軍事面ではアメリカ、日本、インド、オーストラリアの「QUAD=クワッド」と呼ばれる4か国の枠組みで対処し、インフラ投資では日本とインドと協力して、人権問題では香港やウイグル族への中国の政策を批判する国々と連携していくべきだと訴えています。

藤崎元駐米大使「同盟関係重視するアメリカが戻ってきた」

外交方針を示したバイデン大統領の演説について、元駐米大使の藤崎一郎さんは、3つのメッセージがあったとし「まず同盟国との関係を重視するアメリカの外交が世界に戻ってきたということ。次に、ブリンケン国務長官の発言は自分の発言同様であり、一心同体であると明確にしたこと。そして、これまで予算面などで冷遇されてきた国務省の外交官に対し『あなたたちが外交を支える人だ』と伝えたことだ」と指摘しました。

また、バイデン政権が今後、中国に対してどう臨むかについて藤崎さんは「印象的だったのはロシアとイラン、それに北朝鮮は『脅威だ』と言った一方、中国は『競争相手』として明確に分けたことだ。イランの非核化や、気候変動など協力すべき分野は中国と協力するが、知的所有権や法の支配に従わなければ対応するという『是々非々主義』が非常に明確に出ていた。中国を一方的に敵と見なしていたトランプ政権とは位置づけを変えているため、より複雑な外交が展開されるのではないか」と述べました。

そして「日本もアメリカと意思疎通を十分にはかり、どこで緩急をつけるのかよく見ていく必要がある」と指摘しました。

さらに、ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議に新設されたインド太平洋調整官に就任したカート・キャンベル氏について「修羅場に強く、中国との交渉など困った時に投入される人だ。いろいろなところに乗り込んでまとめ役を担い、解決策を見いだす辣腕の人であり、アジアにいちばん強い、民主党の切り札という形で入ってきたのではないか」と分析しました。

専門家「中国への厳しい姿勢を再確認」

アメリカの安全保障政策に詳しい笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員は、バイデン大統領の外交演説について、中国に厳しく向き合うことを再確認したとしたうえで、「トランプ大統領は通商問題には厳しく安全保障や人権問題などにはあまり関心を示さなかったが、バイデン大統領は通商、人権、民主化、さらに安全保障の問題にも関心を持ち、総合的に理解していることを示した」と指摘しました。

そのうえで、バイデン大統領が強調した同盟国との協力について「今後は中国の行動を変えさせるためにどうすればいいのかをアメリカと同盟国で話し合い、同盟国には何ができるのかを求めてくることになる。アメリカの指示で動くのではなく自主性が問われると思う」と分析しました。

さらに今は、ミャンマーで起きたクーデターへの対応で対中国政策が問われていると指摘し「アメリカはミャンマーに経済制裁を戻すということで圧力をかけているが、これによりアメリカのミャンマーへの影響力が弱まり、国際社会とのつながりを切ってしまうことで中国と近づかせることにもつながりかねない。いつどのようにしてそのバランスをとって同盟国やパートナーと話しをするのか。対中強硬政策の度合いとやり方が問われることになる」と話しました。

また、オバマ政権とバイデン政権の対中国政策の変化について「当時、中国が突きつける挑戦は一部の専門家にしか見えていなかった。しかしトランプ政権の4年間に中国が見せた姿勢への懸念はアメリカ全体で大きくなっている。オバマ政権時代と今のアメリカ人の中国を見る目が全く違うことが厳しい政策の背景にある」と分析しています。