アプリで心を整える

アプリで心を整える
新型コロナウイルスの収束が見通せない中、ふと不安な気持ちや憂うつな気分になることもあるのではないでしょうか。コロナ禍でも、メンタルヘルス=心の健康を保ちながら働いたり、日常生活を送ったりするにはどうすればいいのか。スマホのアプリを使って心を整えようという動きが国内外で始まっています。(国際部記者 山田奈々)

コロナでケアが困難に

「メンタルヘルスが良い状態にあることは、健康の基本中の基本だ。メンタルヘルスケアが最も必要なコロナ禍において、取り組みが途絶えてしまっている。各国のリーダーは命を救うことにつながるメンタルヘルスケアに注力すべきだ」
WHO=世界保健機関のテドロス事務局長のことばです。

WHOが去年6月から7月にかけて130か国を対象に実態調査をしたところ、職場におけるメンタルヘルスケアの取り組みに支障が出ていると答えたのが全体の75%、学校でも78%にのぼったことがわかりました。

世界的に在宅勤務の導入が進み、学校も閉鎖されるなど、対面でのコミュニケーションが減ったことが影響しているとみられます。

また、全体の89%もの国が「メンタルヘルスケアは国として取り組むコロナ対策の1つだ」と回答したものの、ケアに必要な十分な資金を投じたという国はこのうち17%にとどまっています。

あと少し早ければ・・・

変異したウイルスが拡大するイギリスでは、いま、働く人のメンタルヘルスをケアできるアプリが関心を集めています。

開発したのは「Unmind」(アンマインド)というITスタートアップ企業。

日本語で「気にしない」という意味で「病は気から、悪い思考は解き放とう」という思いが込められています。
ニック・テイラーCEO
「長年、臨床心理士として働いていましたが、症状がかなり悪化してから病院に来る患者ばかりで、来院があと半年、あと3か月早ければと思うことが多々ありました。メンタルヘルスケアにも予防の概念を取り入れたい、体を鍛えるように心を鍛えることはできないかと考え、起業しました」

心の状態に合わせたメニュー

アプリをダウンロードすると、まず「過去2週間よく眠れている」「私は他者と信頼関係を築けている」など、さまざまな質問が出され、利用者は「はい」から「いいえ」までの5段階で答えていきます。

設問は、利用者が憂うつな気分にならないよう、なるべく肯定的な聞き方を意識し、「感謝」「幸福」「疲労」「孤独」など、6つの指標で心理状態を探れるように工夫。

メンタルヘルスが最も良い状態を100%とした場合、今どのレベルにあるのか、数値で教えてくれます。

そして、結果に応じて、ヨガなどのエクササイズや寝つきが良くなる音楽、免疫力を高める食事に関するアドバイスなどをアプリが自動で提示してくれる仕組みです。

その日の気分を日記のようにアプリに書き込めるようにもなっていて、心の状態に合わせて提案される内容も変わります。

すでに100以上の企業や団体が導入。

イギリスの保健当局もアプリを推奨していて、国営の国民医療サービスで働く医師や看護師にはアプリが無料で提供されているほか、イギリスに支社がある日本企業でも導入している会社があるといいます。

アプリに蓄積された情報は、匿名の形で企業側に提供されるため、必要に応じて社員のメンタルヘルスの現状を確認し、改善策を練ることもできるということです。

日本でも8割が“ストレス”

日本でも、厚生労働省が去年9月に15歳以上の1万人あまりを対象にインターネットで実施した調査では、感染が拡大して以降、そわそわして落ち着かなく感じたり、気分が落ち込んで気が晴れないように感じたりするなど、何らかの不安を感じたと答えた人が半数程度に。

また、筑波大学が去年8月から9月にかけて、およそ7500人を対象に行ったアンケートでは、新型コロナウイルスに関連してストレスを「とても感じた」、「少し感じた」と答えた人が合わせて8割にのぼりました。

ロボットになら話せる

日本で活用が広がっているアプリの1つが、京都に本社を置く「emol」(エモル)というスタートアップ企業のもの。

特徴は2つあり、まず、AIロボットのキャラクターとの会話形式で、友達にラインを送るような感覚で悩みや愚痴を打ち明けられるという点です。

問診されているような印象になりがちなチャットのやりとりを、楽しい会話に変えるという工夫です。

CEOの千頭さんが、ある研究で「できるだけ現実世界には存在しない、自分からかけ離れている見た目のほうが愛着が湧く」という分析を目にし、実在する人や動物ではない、白くて丸いキャラクターを作りました。

白色を選んだのは、感情を記録するサービスのため、何の色にも染まっていない、できるだけフラットな色にしたかったためだといいます。
千頭沙織CEO
「愛着の湧くキャラクターにし、メンタルヘルスケアをする前から、AIロボットと仲良くしたい、相談したいと思ってもらうことがまず大事だと思っています。私自身、大学時代にメンタルを崩した経験がありました。その時、家族や友人に相談しても、自分が返して欲しい返答は返ってきませんでした。人に相談しても傷つくだけだと感じ、ロボットになら話せるかもしれないと思ったんです」

低価格で若者にも

もう1つの特徴は、若者も使いやすい価格設定。

サブスクリプションと呼ばれる月額制のサービスはほかの会社も手がけていますが、この会社は、アプリのダウンロードとAIロボットとの会話だけなら無料です。

有料のプログラムも“つど払い”を導入していて、たとえば、今後の目標を決めるための7日間のプログラムは490円としています。
プログラムでは、失敗したことや出来なかったことをロボットと会話しながら整理。

会話の途中で呼吸を整えるエクササイズを盛り込むなど、落ち着いた状態で取り組めるようにしているといいます。

そして、うまくいったことやその理由も掘り下げていきます。

コロナ禍での1人あたりのAIロボットとの会話数は、以前と比較して2倍近くに増えているということです。

体だけでなく心の健康も

この会社は、大手保険会社と提携し、AIロボットとの会話の内容から必要な保険を提案する実証実験を行ったほか、今後は自殺予防を目指す自治体とも連携するなど、アプリの利用を通じてより具体的な支援や効果につなげていこうとしています。

「メンタルヘルスは人が生まれてから死ぬまで、ずっと一緒に生きていかなければならないものです。心の健康についてもっと自由に話ができる社会を作りたいと思っています」。

そう話すテイラーCEOのことばが印象に残りました。

コロナを収束させるにはまだ時間がかかりそうです。

体の健康だけでなく、心の健康も見直してみませんか。
国際部記者
山田 奈々
平成21年入局
長崎局、千葉局、経済部を経て
現在、国際部でアメリカ、ヨーロッパを担当